第2話
授業中はいいのだが、授業が終わったあとの休み時間などでは少々肝が冷えるような場面もあった。
幸か不幸かチャラ男というのは転校したてでも友達が出来るようで、俺の周りには常に人が居たためクラスでハブられたりするような事は無かったが、その代わりにチャラ男を演じなければいけない期間が長くなってしまっていた。
そんな大変な事を続けているため、学校が終わる頃にはもうへとへとになっていた。
これが3年続くと思うと少し憂鬱だが、もう少し経てばある程度なれるだろう。
まぁ、半年ほど経った今でも慣れるような兆しは無いんだけどな。
チャラ男を演じる事に疲れた俺は帰りのホームルームを終えるとすぐに荷物を纏めて、家に帰ろうとする。
遊ぼうと誘ってくれる友達は居るのだが、こんなに疲れた状態で遊ぶのは少々きつい。
だからほとんどの場合は北海道に来たばかりなのでまだやらなければいけないことがあるという事で何となく断っている。
俺は空いた時間で今日も家に帰って趣味に没頭しようとしていた。
「ちょっと待ってください。」
教室から出ようとする俺を引き止める声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。
俺は申し訳なく思いつつ振り返る。
そこには俺よりも何十センチも小さい男の子が立っていた。
サラサラの黒髪にメガネをかけたその姿は高校生のようには見えない。
身長とその童顔も相まってまるで小学生のようだ。
だが、その顔の美しさと雰囲気からこの人は確実に小学生ではないと思わせる。
そんな圧倒的なオーラを纏った人物。
この人は
どうやらこの人もこことは違う場所から来た人らしい。
珍しい事に1年生だと言うのに生徒会長を務めている今の俺とは真逆の人間だ。
本来の俺ならこの人の事を喜んで手伝ったりするのだが、今の俺はチャラ男だ、ここは心を鬼にして反抗していかなければいけないのだ!
なので俺は俺が思うチャラ男像を演じて悠斗君の対応をした。
「はぁ…………また? 何度も言ってるだろ、おれは何も悪いことはしてないって!」
「いいえ、あなたは明らかに校則違反をしてますよ! 」
うん、そうだよね、ごもっともだ。
校則では奇抜な髪型は駄目とだけ書いてあるのだ。
先生とはしっかり話をつけてはいるため先生からは特に何も言われていない。
一応俺の親も金髪だし、俺の髪の毛を奇抜と言うなら俺の親の事も奇抜だと言っているのと同じ事だということや、今の時代ではもう金髪もおかしいものでは無いという暴論を並べる事によって何とか黙認してもらっているようなものだけどな。
だが、それは生徒会に関係がない。
だからこそ生徒会の人は俺に向かって注意をしてくるのだ。
まぁ、今の俺はチャラ男ではあるが、見た目的には少しヤンキーのようにも見えるのかほとんどの人は注意をしてこない。
そんな中でも生徒会長である悠斗君はめげずに俺に注意をしてくれているのだ。
悠斗君は俺がどれだけ冷たくあしらおうとも何度も何度も注意してくれるため、その度に俺は居た堪れない気持ちになっていた。
本当に申し訳ないが、これも俺の名前がいちごとかいうメルヘンな名前だとバレないために徹底的に昔の俺を消すために必要な事なのだ。
悠斗君がしてくれている注意を俺は何とか冷たくあしらう。
「ピアスだって、故意に開けていないからいいと言うことになっていますが、ずっと付けていたら穴も塞がらないじゃないですか、ちゃんと取ってきてくださいよ! それに髪の毛だって地毛じゃないのでしたらちゃんと地毛に戻してください! それに…………。」
「…………分かった分かった、もう分かったからやめてくれ。」
「…………本当に分かりましたか? 今すぐにとは言わないので早く直してきてくださいね?」
「…………へいへい。」
俺は心の中で土下座をした。
元々中学校の頃は俺も生徒会長をやっていたため生徒会長の仕事の大変さは分かっているつもりだ。
常に行事などに追われているし、それがない時でも色んな活動をしている。
その中に俺なような校則を違反している生徒への注意なども含まれているのだが、俺のようなどれだけ言っても直さない生徒は本当に手間がかかっているはずだ。
本当に申し訳ない。
それでも俺はチャラ男を演じることを止めることはできないので、これ以上負担をかけないためにも逃げるように教室から出ていこうとした。
しかし、その時、悠斗君の方から声が聞こえた。
「はぁ…………ほんとめんどくせぇな…………。」
「…………?」
「いや、何でもないよ。」
「…………そうか、じゃあな。」
気の所為だったか、今なにか悠斗君がちょっと口が悪くなっていたように聞こえたが、多分別の人の声だったのだろう。
それはともかく一応俺も予定が入っているということになっている訳だし、ずっと学校にいる訳にもいかない。
ただ面倒くさがって誘いを断るなどしたらせっかくできた友達との関係が少し悪くなってしまうからな。
俺はそそくさと家へと帰っていった。
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