真面目なチャラ男とえろ漫画家な生徒会長

黒飛清兎

第1話






チャイムが鳴り響く廊下。


そんな中で俺はわざと綺麗に整えてある髪の毛を少し崩して走っていく。


そして、チャイムが鳴り終わる最後の余韻を聴きながら俺は教室へと駆け込む。



「よっし、セーフ!」


「セーフじゃねぇよ、早く席つけ!」



うちの担任の怒号が飛び、クラス内でチラホラと笑い声が聞こえてくる。


完璧だ、これが俺が思うだ。


俺が素直に席につくと、隣にいる髪の毛の端を器用に遊ばせたイケメン、拓也が俺に話しかけてきた。



「はは、お前はもうちょっと早く来いよ。」


「やだよ、俺は全ての時間を睡眠に費やしたいんだ!」


「流石だな。」



そう言って拓也は笑みを見せる。


…………俺は今にチャラ男っぽい会話は出来ていただろうか?


俺はわざと崩した髪の毛を手でササッと直しながら今の行動を振り返る。


…………うん、多分大丈夫だ。


俺は高校に入ってからこんな風に出来るだけ陽キャ、チャラ男と言われる人種の振りをしている。


俺が何故こんな真似をしているかと言うと、それには深い理由がある。


それは…………高校デビューだ!


俺は中学生の時、ずっと同じ事でいじられてきた。


それは、名前だ。


俺は今はじめと言う名前を名乗っているが、本名はそんな名前ではなかった。


俺の本名は野崎一子のざきいちごというものだ。


このいちごという名前のせいで9年間いじられ続けていたのだ。


クラスメイトは特に悪気なくそれをやって居たのだろうが、おれはながらく苦痛を強いられていた。


みんなに嫌だと言えば良かったのだろうが、普段はみんな良い奴なので今更言ってしまえばショックを受けてしまうと思ってなかなか言えなかったのだ。


決して嫌だという勇気がなかった訳では無い。


そのため俺は元々居た東京のみんなが誰も来ないような北海道の学校に通う事にした。


元々北海道では現在別居中の母の家があるため、そこから近い所にある高校に通う事になった。


元々俺は超がつくほどの真面目な生徒で、中学生の頃は生徒会長をやったりもしていた。


学力もこの学校に通うにあたって申し分無い程度にはある。


だが、それも全て東京にいる父の影響だ。


父は母とは対照的に厳格な性格をしている。


その父の影響を受けて俺も真面目に育ってきたのだが、母は未だにギャルをやっているような人で、俺が北海道に着くや否や俺の髪を染め、カラコンを付け、ピアスを開け、俺を物凄いチャラ男に仕立てあげたのだ。


そのお陰で俺は高校からはチャラ男として生きていくことを決意したのだ。


幸いな事にこの学校の校則を確認しても、明確に髪を染めることやピアスを開けることを禁止しては居ないようだったので、俺は今堂々とチャラ男をやっている。


そのお陰で先生には目をつけられているが、勉強はしっかりとやっているので黙認しているような状態だ。



「…………これで連絡事項は終わりだ。じゃ、授業真面目に受けろよー?」



そう言って先生は自分の授業の準備のために教室を出ていく。


その瞬間、クラスメイトたちが各々話始める。


皆がリラックスしている中、俺は1人だけ気を引き締めた。


こういう時の会話にこそその人の人となりが現れるのだ。


ここで黙っていたり授業準備をしたりするやつは多分真面目な人だけだ、故に俺は授業ギリギリまで何とかチャラ男トークを周りのヤツらと繰り広げなければいけないのだ!



「それで拓也、この前の彼女とやらはどうなったんだ?」


「あぁ、別れたよ、なんか冷めちゃったらしくてさー、女心は分からんねぇー。」


「そ、そうか、どんまい!」



あー、もう、よく分かんねぇよ! 女性と交際関係にあったことなんて無いに決まってるだろ!?


俺は今すぐにこの会話を辞めたいという気持ちと戦いながら何とか会話を続ける。


チャラ男はノリと勢いで生きてるらしいし、こういう会話が出来なくてはチャラ男とは言えないはずだ!


だからこそ俺はどれだけ辛かろうともこの会話を続けなければいけないのだ!


拓也やその周りの奴らはそんな俺の気持ちには気づかずに話を続ける。



「そうそう、彼女と言えばはじめはもう彼女出来たのか? この前彼女欲しいって言ってただろ?」


「あ、あぁ、そうだな、彼女。それがまだ出来てないんだよ、それに校則に不純異性交友はダメって書いてあるし…………。」


「え? そんなの守ってるやつ居ないぞ? まさかお前…………。」


「…………っと、なんてな! まだこっちの生活に慣れてないからもうちょっと後にしようかと思っててな!」



あぶねー! そうか、そうだった、チャラ男は校則を守らないんだった!


ついつい今までのくせで校則を守ろうとしてしまった、いけないいけない、このままでは俺がまだチャラ男になり切れてない事がバレてしまう!


今は何とか誤魔化せたが、早くチャラ男に慣れなくてはな…………。


それからは他愛の無い話が続き、そのまま授業が始まった。


授業中はみんなある程度真面目に授業を聞いているためチャラ男では無いのがバレる危険性もない。


そのため俺は心ゆくまで真面目に勉強が出来た。

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