第32推し活 終わりよければ全てよしってコト?!

「一番近い一階層のPhantomは?」


「二鷹様、天野はもう__」


「しっかりしろ牧町!! あんたが頼りなんだ!!」


 俺が叫ぶと牧町は体をビクつかせ、表情を切り替えた。

 Phantomレーダーの更新は情報開示の必要がなくなったため、頻繁にはされていない。最新の情報は政府しか持っていないのだ。


「すぐに確認します!!」


 牧町はいいながらスマホを開いた。よし、いつもの牧町に戻った。


「ミミ、一番いい回復薬を! さっき拾ったやつだ」


「宜しいんですか?」


「また獲ればいい。早く!」


「はい!」


 ミミが手渡したのは、一つしかなかった全回復の薬だ。それを惜しげもなく天野総理の体に全てかけた。

 下半身の反応はまったくなかったが、肩付近は再生をした。


 我々が死の定義として認識しているものは、現代医療の限界が決めている。心肺停止していようが、血が致死量流れていようが、現段階でこの世界が生きていると判断するなら、それは生きているのだ。


「よし、反応があった!」


 俺は天野総理を抱き抱えた。


「確認取れました! 案内します!」


「方向だけでいい! 指差してくれ」


 牧町が指差した方に向かい飛んだ。Phantomを発見し、中に入る。

 一階層のボスを瞬殺、さらに天野総理の心臓から下の臓器全てを__俺は剣で切断した。そしてその瞬間すぐに、外の世界に飛び出した。


「頼む!! 戻ってきてくれ!!」


 塔内で受けた怪我は、外に出ると全回復する。

 つまり、もう死んでいると判断された肉体部分と、生きている部分を含め上書きする形で攻撃して、塔から出ると再生する可能性については未確認だった。

 予想通り、天野総理の下半身はみるみるうちに再生していき、臓器と血を取り戻した。

 循環する血液が脳に回っていき、青白い顔がみるみる血色を取り戻した。


 ミミが牧町を抱き抱え、追いかける形で飛んできてくれた。 

 残りの回復薬もミミから受け取り、頭からかけたり、口に無理やり流し込んだ。


 すると__


「こ、ここは……?」


「よっしゃああああ!!!!!」


 天野は息を吹き返すと同時に体を起こし、自分の体が動くことに驚いている様子だった。

 俺は思わず叫んだ。牧町が生まれたての子鹿のように震えながら天野にしがみついた。

 ミミも大喜びで俺に抱きつきいた。


「王種の目覚めたPhantomから帰還し、ライドンを討伐し、私を蘇生した、ということでしょうか」


 天野がまるで神を見るような表情で俺を見上げた。


「さすがですね、頭の回転が速い」


 脳に後遺症がなくてよかった。回復薬で治ったのだろう。流石に心臓を残して首から上と臓器全てを攻撃してから外に出す勇気はなかった。というかそれは流石に死んでる扱いだろうと思うし。


「ありがとうございます……本当に」


 天野は泣き出してしまった。牧町は泣き続けてる。おっさん2人が抱き合って泣いている。


「我々と国にできることの全てを捧げることを、二鷹世界様へ誓わせて下さい」


 実感が湧いてきたのか、仕事をしようとしている。


「ん、いやいいですよ。特にもうして欲しいこととかないので。Phantom攻略終わったら、みら〜じゅ! を国営のアイドルにして世界に売り出して下さいね」


「救世主達として全国家予算で売り出すことをお約束します」


「いやそれは日本が終わっちゃうでしょ」


 俺がアハハ〜と突っ込んだつもりでいたのに、牧町と天野は本気の表情だった。

 ヤバい、俺のせいで日本が終わったかもしれん。


 みんなと合流し、喜びを分かち合った後に、ひとまずは解散となった。流石に疲れたので俺も帰って寝たかった。肉体的には元気だが、精神的には限界が近い。


「美希、何してんだ」


 帰り道、みら〜じゅ! チームが送迎の車に乗った後、いつの間にか消えていた美希を見つけた。というか探した。捜索アイテムで。便利だな外でも使えるの。


「あ。いやその、合わせる顔がないな…って」


「だから何してんだって。帰るぞ」


 俺は車の扉を開けた。


「いいの……?」


「早くしろ、疲れてんだよ」


「……うん!」


 美希が車に飛び乗った。みんなニコニコと迎え入れて、口々にお帰りなさいだとか、長い家出だったねーとか、茶化している。美希はポロポロと泣きながらみんなに謝り感謝の言葉を告げていた。


 そしてタワマンに辿り着き、みんなで最上階で暮らしていることを伝えると信じられないくらいはしゃいでいた。


「ここ美希の部屋ね」


「え?! 私も住んでいいの?」


「ちゃんと秘書しろよ〜、あともう勝手に出ていかないって約束しろよな」


 美希がどうして出ていって、どういった覚悟で生きてきたのかは、マネージャーから皆聞いている。今更責めるつもりなんて一切ない。

 車の中で謝り倒してたしな。


「……はい。誓います」


 教会で神父の前で永遠の愛を誓うくらい心を込めて、またぽろぽろ泣きながら美希は言った。


 風呂に入ろうとすると、女子陣全員が一緒に入ろうとしてきたので、流石に興奮しすぎるからやめろと止めた。

 風呂から出ると、美希が体をふき、凛が髪を乾かし、桃が歯を磨いてくれた。

 いや、やりすぎだろ。

 まあいいか今日くらいは。


 ベッドに入るとこれまた女子陣全員入ってきたが、抵抗する元気もなかったので、泥のように眠った。

 深夜目覚めると、左に凛、右に美希、上に桃が乗ってる。

 これじゃ寝返りが打てないじゃないか(歓喜)


 桃をゆっくりと俺の代わりに寝かせて、水を飲みに台所に向かうと、最上さんが外を見ながら酒を飲んでいた。


「すみません、起こしてしまいましたか?」


「いやいや、勝手に起きたんです。ご一緒しても?」


「勿論です」


 俺は最上さんのグラスが空になっていたので、新しいグラス二つと氷と、ウイスキーとつまみを少し持ってテーブルについた。


 つまみを開けていると、最上さんがウイスキーを注いでくれた。


「いい景色ですね」


「世界様が守った景色ですよ」


「いやいや、皆がいなきゃ無理でした。俺だけじゃないです。って、うま……! やっぱ飲むたび感動しますねここの常備酒は」


「本当に人格者なんですね」


「いやいや、とんでもない。起きた時、ちょっと桃の胸揉もうとしましたからね。カス人間ですよハハハ」


「揉んでやって下さい、喜びますよ」


 俺は冗談を言ったつもりだったのに、最上さんは本心でそう言ってるように見えた。

 一間おいて、最上さんは何やら複雑な顔をして目を逸らした。


「どうしました?」


「いえ……」


「我々の仲じゃないですか。話して下さいよ」


「そう……ですね。お伝えしないのも良くないかもしれません」


「はい」


 最上さんはロックのウイスキーを一気に飲むと、口を開いた。


「自分が美鶴なのか、最上なのか、最近わからなくなってきました。なので、私はこの家にいる資格は__」


「最上さん」


 俺は言葉を遮った。


「美鶴でも最上さんでも、この家に居る資格はあります」


「ですが……私に好意を向けられて、嫌じゃないんですか?」


 最上さんのなんとも言えない苦々しい表情が、美鶴と重なって見えた。


「自分でも不思議ですが、嫌じゃありません。それは最上さんの中にいる美鶴を見ているからだと思います。なので、最上さんと美鶴が一体化するなら、それはそれで解決ですね。最上さんだけ置いてけぼりだと、辛いでしょう」


 俺は笑って、同じように酒を飲み干した。2杯目を注ぐ。

 出会った頃の俺なら、おじさん2人で何言ってんだと思っていただろう。だが、これが腹の底から出た本心なんだ、仕方がない。


「どうしてそんなに優しいんですか?」


「最上さんの方がよっぽど俺より優しいですよ」


「世界様……」


「あ、2人で飲んでてズルい」


 同じく喉が渇いて起きた美希が、目をこすりながら近寄ってきた。ナイスタイミングだ、若干空気が重かった。


「美希さんもご一緒にいかがですか?」


「いいのー?」


「いいのもなにも、最初から飲む気だろ。はやくグラス持っておいで」


「バレたか! はーい」


 大人組が3人に増えたからか、その夜はより一層良い時間になった。

 美希は眺めてるだけで酒のつまみになる顔面偏差値だしな。

 最上さんと2人きりの、微妙な気まずさも緩和されて、より親交を深めることが出来る気がした。

 酔った状態で部屋に戻ると、桃が俺の代わりに凛に抱きしめられていた。


「ねえ、私の部屋いこ。ぶっちゃけもう我慢できない」


 美希が俺の耳元に背伸びをして囁いた。

 わかります。

 俺は何も言わずに生唾を飲み込んだ。


 俺たちは美希の部屋に戻り、なるべく音を立てないように___


 ⚪︎

 ライドンの死亡後、ミサミサは焦っていた。ミサミサがあまり頭を使わずに生きてこれたのは、ライドンがいたからだ。

 それをミサミサもわかっていて、認めていた。なので、意見があっても必ず最後には従っていた。自分の判断よりも、ライドンの判断の方が正しいと、いついかなる時でも思えたからだ。だから二鷹世界には手を出さなかった。


 そのライドンが取り乱し、あっさりと葬られた。それどころか王を討伐し、その戴を二鷹世界に奪われてしまった。

 ここから巻き返す方法が、ミサミサには一切思い浮かばなかった。


「これしかありませんね」


 ライドンが、もしもの時はこうしろと残してくれた最後の指示。

 人間のAV女優と、ミサミサと、集めた全てのカオスとライドンのカオスを混濁させ、スカイツリーと同化しPhantomに成る。


「んんん!! んんー!!」


 何やら例の人間が騒いでいるので、先に殺してミサミサの中に同化させた。

 協力を仰いだわりにはまったく役に立たなかったが、最後には役立ってくれた。

 人間からとれるとは思えないカオス量を含有していたらだ。

 ライドンが霧散した場所からもカオスを回収し、ミサミサはスカイツリーの頂上に立った。最後の自慰を楽しみながら、朝日と共にスカイツリーとの同化を開始する。


「ああ、王よ。どうか我々の世界へと、作り変えて下さい」


「ああ、王よ。この日の出を貴方へ捧げます」


「【Darkness Phantom】」

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推しVtuberのために最強になったダンジョンゲームが現実に現れたんだが、モテすぎて困ってます 君のためなら生きられる。 @konntesutoouboyou

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