第31推活 蒼い目の龍ってコト?!

 ライドンは両手を握り、二鷹世界の帰還を祈る美鶴のそばに近づき、見下した。


「こっちをみろ。【獣王の鉤爪】」


 ライドンが右手をあげると、スキルを発動させた。拳の骨先が鋭利に硬化し、極太の針が4本伸びていく。 

 最上は瞼を開き、ライドンのスキルを目視した。


「今からお前はこれで貫かれて死ぬ。二鷹世界もすぐに同じ所にいくだろう」


「世界たんは帰ってくるっぴ」


「声、震えてるぞ」


 ライドンは嘲笑い、獣王の鉤爪を最上の頬に当てた。

 最上は再び目を閉じた。死への恐怖から全身は震え上がっていた。それでも、二鷹世界が帰ってくることだけは疑うことはしなかった。帰りを祈っていてくれと、頼まれたからだ。それしか最上、いや美鶴には出来ない。だが、それだけは出来る。


「ッチ。うざったいやつだ。もういい、飽きた」


 ライドンは拳を振りかぶった。


「最後に何か言いたいことはあるか?」


「……世界たんは帰ってくるっぴ」


「死ね」


「________!!」


 最上は強く目を閉じた。振りかぶった拳と拳骨から伸びる鉤爪が、その首を刎ねる瞬間、巨大な盾が現れ、ソレを弾いた。

 最上が目を開くと、Phantomの扉の前で桃が美希をお姫様だっこしながら立っていた。

 ライドンの殺害予告の後に聞こえた叫び声は、寸前の所で間に合った桃のスキル発動の発音だったのだ。


「ゴホッ、ゴホッ!! あ、あれ? 私、死んだんじゃ……」


「美希っち! よかったあああ!!」


 美希は何事もなかったかのように立ち上がり、状況も読めないまま桃に抱きつかれた。断続的な記憶をかき集め、徐々に状況を理解しはじめる。ギリギリのところで生命活動は維持され、塔から出たことで完全回復したんだと。


 桃は喜びながらも、しっかりとライドンの方を見据えていた。


「おいおいおいおい!! なんでお前がここに?!」


 ライドンが叫ぶと、ミサミサがライドンの背後についた。


「二鷹世界に王が敗北した、ということです。ひきますよ」


「彼が出てくるのも時間の問題です、さあ」


 上半身から二つに分裂したミサミサがライドンの両腕を掴んだ。


「そんな……ありえない!! くそがぁあああ!!!」


「【鉄壁の守護+5】」


 ライドンが再度拳を振り上げ、泣きながら喜ぶ最上を貫こうとしたが、桃のスキルが再び現れ弾かれる。

 レベルが上がった桃の鉄壁の守護は、ライドンの鉤爪を今度はへし折った。


「ライドン! 早く!!」


「ふざけるなよ。このままひけるかよ……【獣染獣尾】」


 ライドンの尾が10本に増え、全身が完全な獣となった。その姿はまるでキメラのようだった。


「1人でも多く殺してやる!」


 捨て台詞を吐き咆哮するライドンを見て、ミサミサはため息をつき、諦めた。普段ライドンは冷静だからこそ、取り乱したら説得出来ないと悟ったからだ。


「私は引きます。お別れです、ライドン。今までありがとう」


「さようなら」


 ミサミサは別れを告げ、どこか彼方へと消えていった。


「クソオオオオオ!!」


 ライドンは執拗に最上を狙い爪を立てたが、桃のスキルで弾かれていく。

 すると、今度は距離を取り、口腔にエネルギーを溜め始めた。光とも闇とも言えぬ大気のエネルギーが、まるで1箇所に濃縮されているようだった。


「あーれはまずいかもぢゃん?」


「世界くーん!! 頼ってばっかでごめんだけど早く来て!!!!」


 ○


 俺は自らボロボロにした体をミミに背負われていた。美希を連れて桃には先に外に出てもらった。

 心臓が卵に変化した後、ソレが孵る前に、特大ダメージを与えて破壊したのだ。もし王が孵っていれば、間違いなく全滅だっただろう。


「美希さん、無事ですよね」


「ああ。まだ息が微かにあった。きっと間に合ったよ」


 じゃあなぜ残っているかって?

 そりゃ宝箱のためさ!!

 卵を破壊すると、散らばったエネルギーが1箇所に集まり始めたのだ。

 ダメだったのかと絶望しかけたが、出口の扉が現れた。つまりこれは、ユニークアイテムが入っている宝箱の出現ということだ。 

 既に光は形を成し始めている。やがて、黄金に輝く、豪華絢爛に装飾された宝箱が現れた。


「ミミ、開けてくれ」


「いいんですか?」


「俺は動けない」


 強壮薬もアドレナリンも完全にキレている。全身に痛みが走り続けているが、宝箱の誘惑には勝てない。


「わかりました。では、お言葉に甘えて」


 ミミが震える手でゆっくりと宝箱を開けると、中には__


「これって、もしかして」


 取り出したソレを持ち上げて、背中に担がれた俺にもよく見えるように近づけてくれた。


「全ステータス常時150%UPの、賢王の血冠だ……やったな」


「ふぉおおおおおおおお!! 王種討伐300分の1でドロップする激レアアイテムじゃないですか!」


 真っ赤に染まった王冠を、ミミは俺に被せてくれた。全ステータスの向上を感じたが、回復はしないので動けない。しかし笑いを堪えることは出来なかった。笑うほど傷口が開き血が噴き出ていく。


「くはは!! 嬉しくて死んでしまいそうだ!! ミミ、外に出てくれ」


「はい! あ、何個か武器とアクセサリーもあるので、全部取りますね」


「おう、頼む!」


 担がれたまま笑い続け、血を流しながら扉に入った。下手したら死んでいた。

 光が全身を包み込んだと思うと、視界が開けていく。


「世界くん!!」


 美希が俺を見ると叫んだ。よかった、無事だったんだな。しかし美希が何かを指差していたのでそちらを見ると、キメラが今にも吐き出しそうなエネルギー体を口腔に溜めていた。


「世界たーん!!」


 最上さんの姿をした美鶴が笑い泣きして俺の名を叫んだ。しかし、咆哮の矛先はおそらく美鶴だ。幸い俺は装備を外していない。王冠も装備済みだ。

 俺はみるみるうちに全回復していく体でミミの背を下り、龍の舞を唱えながら走った。体が軽い。筋力も速度も血の王冠の効果で上がっている。王の心臓を倒した経験値でレベルもおそらくかなり上がったはずだ。

 美鶴のそばに即到着し、膝をつく美鶴を片手で抱き寄せた。装備の下から見えるスーツが汚れ、血がついている。凛も俺のそばに抱きついたので頭を撫でてやると顔を埋めてきた。


 辺りを見渡すと、吉成、ルナは倒れ、牧町のそばで天野も倒れていた。こいつがやったのか?


「許さんぞ、二鷹世界!!!!」


「誰だお前! エネルギー貯めながら喋るな」


「くらえ!! 滅びのバーストス__」


 俺はキメラに瞬間移動のように近づき、アッパーで口先を空に向けさせた。


「言わせないよ?!」


「ゴアアアア!!」


 天に放たれた攻撃は、殴られて閉じたキメラの口を破壊した。アッパーのダメージもあってか、キメラはサラサラと消えていった。なんだったんだこいつ。


 桃と美希とミミも俺の元に駆け寄ってきた。

 皆怖かったんだろう。急いで戻ってきて良かった。


「皆遅くなってすまない! 桃、ミミ、倒れてる皆に回復薬を」


 2人は頷くと早速吉成とルナの元へ駆け寄った。


 俺も天野総理の方に駆け寄り、心配して付き添う牧町に声をかけた。


「牧町さん、お疲れ様でした。今回復させるので__」


 天野は明らかに様子がおかしかった。顔は青ざめ、血が流れすぎている。美希を発見した時より、明らかに状態が悪い。まるでそれは、死体だった。


「二鷹様……天野は凛さんを庇って……殉職致しました」


「そんな……」


 牧町が震える声で答えた。間に合わなかったのか。吉成とルナは遠目から見ても呼吸はあったので大丈夫だろう。しかし、これは……。

 いや、美希の教訓を思い出すんだ。まだ試してないことが残ってるはずだ。

 頭を働かせろ、二鷹世界!


      ☆☆☆

 ご愛読ありがとうございます!

 君のためなら生きられる。です。


 更新遅くなり申し訳ありません!

 プライベートの仕事がつまっていまして、なんとか隙間を見つけてちょくちょく書いております。続きも執筆中ですので気長にお待ち下さいませ。

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