第30推活 願いを叶える星になるってコト?!
ミサミサは絡み合う舌の動きをより激しくさせ、お互いを見つめ合い、これ以上にない喜びを自分自身と分かち合っていた。
暫く楽しんだ後、ライドンの位置をカオス濃度で判断し、向かうとレッドphantomの上で潜伏しているようだった。
「王の目覚めだ」
ライドンは合流したミサミサに口角の上昇を抑えきれない表情で伝えた。フツフツと湧き起こる死への行進の音が、鼓動の高鳴りを教えてくれる。
「ええ、なので迎えにあがろうかと思いまして」
「よくやりました、ライドン」
「何だその言い方、お前は俺の上司か。まあいい」
ミサミサはライドンの背中に密着し、耳元で両サイドから囁く。
「どうなさるの?」
「あいつらは王への供物?」
舌なめずりをした後、ミサミサはライドンの耳を舐めながら質問した。ライドンは、いつものことだ、と何ら反応は示さず続けた。
「二鷹世界が王の心臓の供物となったかは定かではないが、あいつのレベルは55だ。途中の戦闘で上がっていたとしても110を越える王に勝つことはない。……そうだな。王がphantom外に出た時の生贄として、こいつらを痛めつけて磔にしておくか」
ライドンとミサミサは身を隠すことなく、レッドphantomの屋上から下を覗く。
「お、おい! あれ!」
レッドphantomを見つめていた吉成が指をさすと、皆一斉にライドンとミサミサを見た。
「ライドン……! ミサミサまで」
ルナが呟く。幸い模擬戦のおかげで、既に装備はしてある。ルナは杖を構え、吉成に肉体強化をエンチャントした。凛と最上は防具の着用がない牧町と天野の前に立った。黒瀬はデスクワークで現場にはついていない。
「全員戦闘準備! 世界さんが帰還するまででいい、全力で命を守れ!」
吉成が剣を向け叫ぶ。皆一斉に返事をあげたが、その声色は恐怖に満ちていた。
ライドンとミサミサはビルから降りると、最前戦の吉成に向かいゆっくりと歩き出す。
格上のモンスターとphantom内で対峙した時とは比べものにならない恐怖が、現実世界でのモンスターとの接敵。
外で見るゴキブリより、裸でシャワーを浴びている時に発見するゴキブリのような、本来いるはずのない所にいる、生活を脅かされてある恐怖が吉成達に襲いかかった。
「くははっ! 二鷹世界はレッドphantomから出れると思っているのか?」
「な、こいつ、喋って__」
「ライドンの質問に答えて下さい」
吉成が狼狽えている刹那、ミサミサが正面から接近し、認識する頃には上半身から二つに割れ分裂し、両耳から話しかけられる。向けられた剣先は丁度ミサミサの分断された体の中央に置かれる。吉成の顔は青ざめたが、剣を握り直しスキルを発動した。
「【斬撃+1】 ズァ!!」
しかし、剣は空中を横切っただけで、既にミサミサはライドンの隣に戻っていた。
「な……」
吉成は瞬時に理解した。エンチャントした状態での0距離スキル攻撃が当たらないなら、自分が死を認識する前に、この2人は俺を瞬殺出来るということを。
「おい、答えろ。二鷹世界が帰還すると、本気でそう思っているのか?」
ライドンが嘲笑いながら問うた。
「あ、当たり前だ!」
「くははっ! ははははは!!」
「ふふふふふふふ」
「ふふふふふふふ」
「なんだ! 何がおかしい!」
「無知なお前に教えてやろう。最上階のボスは王の心臓だ。それが数刻前に確定した。ゲームなら避ければいい。だが、ここでは倒さないと進めない。となると……わかるよな?」
王の心臓は、王の存在のフラグとして存在していたモンスターだ。攻撃をしなければ王が産まれることはない。しかし、ライドンの発言が正しければ__
「王が、目覚める……」
「そうだ! 我々は迎えに上がったのだよ! いかに二鷹世界といえど、王には敵わん! お前達はここで王の餌となる供物だ。大人しく首を__」
ライドンの頭に銃弾が炸裂し、首をもたげた。打ってきた方を見ると、少女が銃を構えていた。凛である。
「世界さんは王を倒して戻ります」
ライドンを睨みつけたまま、凛は静かに怒った。凛はゲームプレイヤーだ。王の心臓のことも、王種の恐ろしさもよくわかっている。
「なぜそう思う?」
「私に帰ると約束したからです」
「っぴー!」
最上の姿の美鶴は、凛に攻撃力強化のエンチャントをかけた。ライドンに向かい銃を打ち込んでいく。しかしライドンは小石がぶつかった程度の反応しかなく、そのままズイズイと凛に接近した。
「理由になっていないな」
ライドンは凛に向かい右手をゆっくりと伸ばす。
「やめろおおおおお!!」
吉成が叫び、走り出したが、突如目の前に現れたミサミサに激突してしまう。分断した上半身の大きな胸に挟まれたまま、締め上げられていく。
ライドンの右手が凛に突き刺さる寸前、天野が凛と右手の間に割って入った。防具を身につけていない天野に、感じたことのない痛みが全身を駆け巡る。
「ぐぁあああ!!」
「天野さん!!」
ライドンは貫通した腕を真横に動かすと、天野の腹部は中心から引き裂かれた。
「いやあああああ!!」
「脆い、脆すぎる。人間ごときが何故この世界を支配していたのか、不思議なくらいだ」
ライドンはゴミを見る目で天野の瀕死体を眺めながら言った。凛はしゃがみ、天野に回復薬を飲ませようと思ったが、この傷は回復薬程度では元に戻せないことを悟り、手を取った。
それをみた牧町はライドンにお構いなく、天野のそばに駆け寄り手を取った。
「おうおう、虫ケラが一丁前に悲しんでやがる、かはは、傑作だ!」
ライドンはその姿を指差し笑った。凛はその姿を睨みつけることしか出来ない。
「天野総理、防具もないのにどうして……」
牧町はしゃがみ込み、天野に膝をついた。日本を背負う、絶対の信頼をおける、親のように慕っていた男が、今命を終えようとしている。
「凛さんの代わりは……居ませんが……私の代わりは……います……黒瀬や……あなたです」
牧町は込み上げる涙を抑えることが出来なかった。
「何言ってるんですか、こんな若造に! まだまだ天野総理から学ぶことも……日本にとっても貴方は必要だったのに」
「日本を……世界を……頼みまし…」
「総理、総理!!」
ライドンはゲラゲラと笑い続けた。しかし、天野が息を引き取りそうになると、即座に牧町のこめかみに指を当てた。
「あんたの代わりも亡くなるところ、死ぬ前にちゃんと見とけよ」
ライドンはほくそ笑み、その指を突き刺そうとすると、突進してきた最上に妨害され、突き飛ばされた。
ライドンが天野を見ると、すでに呼吸をしていなかった。
「おいおい、もっと絶望の表情が見れるかと思ったのに、お前のせいで見れなかったじゃないか」
「ああああああ!!!」
凛は叫び、最上の元に向かうライドンに銃を乱射するが、何も起きていないかのように虚しく銃声だけが鳴り響く。
「うるさい」
ライドンは瞬く間に接近し、凛の腹部を殴ると、嗚咽と共に凛は吹き飛ばされ地面を転がった。
「凛さん!」
最上が叫び、凛にかけよろうとするが、ライドンがそれを阻止しようと体をかがめた。
なんとかミサミサからすり抜けた吉成がスキルを発動し、ライドンに切り掛かった。
しかし、攻撃が当たるであろう頃には、ライドンはミサミサの隣に移動していた。
「おい、なんでアイツが動けてる? わざと逃がしただろ」
「このままいたら締め殺してしまいそうだったので、つい」
「しょうがねーな」
最上は倒れる凛の頭に手を伸ばし、上体を起こし、口に回復薬を詰めた。
「凛さん、飲み込んで!」
防具のおかげで即死や貫通は免れていた凛は、なんとか回復薬を飲み込んだ。内臓の修復が始まり、痛みが引いていくが、全回復はしない。
「最上さん……がはっ」
凛が吐血した。最上は怒りライドンを見ると、吉成とルナの首を空中で片手で絞めあげていた。
「やめなさい!!」
最上が凛をそっと地面に寝かせ、立ち上がると、ゴンッと鈍い音が聞こえた。音がした方を見ると、吉成とルナが地面に叩きつけられ、立ち上がれないほどのダメージを受け、痙攣していた。ライドンはルナの背中に乗ると、ルナは痛みに喘ぎ声を上げ、顔を歪ませた。
「殺しちゃいけないってのも面倒だなあ」
「あら、あちらの人が残っていますよ」
天野の手を握り、項垂れていた牧町の方をルナが指差した。
「お、忘れてた。プレイヤーじゃないあいつは殺しても構わないよな」
「ええ」
「どうぞ」
ライドンが立ち上がり、わざとノロノロと牧町の方へ向かう。牧町はライドンの方を見ることもなく、天野を見つめていた。
「待ちなさい!!」
最上はライドンに向かい叫んだ。しかし、ライドンは無視して牧町の方へ向かう。
「あなた方、何故出てこれた後すぐに我々を襲わなかったんですか?」
ライドンはあくびをしながら頭をかき、一瞥もくれずに進んでいく。
「怖かったんですよね?」
ライドンが歩みを止めた。最上の方へゆっくりと向き直る。
「今なんて言った?」
「怖かったんですよね? と言ったんです!」
「くっ……くはは、くははははは!! ボロボロのお前らが何言ってんだ!」
「怖いのは我々をじゃありません。世界様です!!」
ライドンは目を見開いた。最上は恐怖で体が震えている。しかし、それ以上に凛と仲間たちを傷つけられた怒りが込み上げ、叫ばずにはいられなかった。
「だから王の目覚めを待っていた。そうでしょう」
「だったらなんだ? 二鷹世界といえど50レベル差の王種には絶対に敵わない。お前たちは終わったんだよ」
「いえ、必ず世界様は来ます」
「だから来ないって言ってんだろうが!」
最上の腹部に瞬間移動したと錯覚する速さでライドンが近づき、膝蹴りを入れた。
吐血し、倒れ込む。最上は自分の手を強く握り合い、目を閉じた。
「は、神頼みか」
「神じゃないっぴ……世界たんの帰りを祈ってるんだっぴ」
「さっきからなんなんだお前。二重人格か?」
「ライドン」
「なんだミサミサ」
「その人間の中、魂が二つあるようです。それも後から創造した」
「は? 人格の分裂じゃなく?」
「ええ。間違いなく魂が二つあります。羨ましい」
「……こいつ、危険だな。殺しておくか」
「その方がいいかと。贄は他にも沢山ありますし」
最上の姿をした美鶴は震える体で膝を立てて、レッドphantomの方を見て両手を合わせ、目を閉じた。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
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