第29推活 王への子守唄ってコト?!

「こいつはアレを使わないと__」


「ダメです、それにラスボス前ですよ。私を頼ってください! 桃さん、美希さんをお願いします」


「おけ、まかせて!」


「桃、くるぞ!!」


ミミが美希を桃の後ろに下ろそうとした時、ギガントジャイアントは鉄塊の棍棒を振り下ろしてきた。剣で受ければ折れてしまうかもしれない。しかし、移動する余裕はない。スキルで可能な限り弾いてみようとしたところで、桃がスキルを叫んだ。


「【鉄壁の守護+3】」


桃の盾の前にさらに巨大なエネルギー体の塊が現れて、空中で盾の形を成した。鉄塊は弾き返される。


「ナイスだ!」


俺はエレメントソードに雷をエンチャントし、敵の軸足に刃を突き刺す。それだけでは大したダメージは入っていないが__


「【回転切り+3】」


コマのように回転しながらギガントジャイアントの軸足を雷撃の剣で削っていく。肉を削がれ、ギガントジャイアントは低い悲鳴をあげながら膝をついた。 

ミミがその隙に後ろに回り込む。


「【チャージ+4】」


ミミは背後で銃口を向け、威力を上げるスキルを発動した。


その間に、ギガントジャイアントは膝をついたまま鉄塊をまた振り下ろす。桃がそれを弾いたが、それによってスキルの盾が消失した。


すぐにギガントジャイアントは鉄塊を持ってない方の腕で桃に殴りかかった。

巨大な丸太のような腕が桃と美希に向かって行く。


俺はアッパーの要領で顎下に入り込み、ジャンプし切り込んだ。

顎下の骨が思いの外頑丈で、切り裂くことは出来ないが上をむかせることは出来た。


「【パワーバレッド 6連】」


ミミのもつマグナムガンがチャージによって光り輝き、1発の弾丸が6発になり連射される。無防備な後頭部にチャージされたパワーバレッドが炸裂すると、ギガントジャイアントの腕の軌道は逸れて、壁をぶん殴った。


「よくやった、ミミ! うおおおお!!」


雄叫びをあげながら倒れ込むギガントジャイアントの大きな眼球に向かいかけ出す。


「【巨人穿つ大剣の一撃】」


雷をまとったエレメントソードが巨大化し、大きく振り上げ眼球に向かい突き刺す。ズブズブそれは突き刺さり、体の内部まで貫通した。

俺が剣を抜き離れると、ミミが倒れるギガントジャイアントの真上に飛び上がる。


「【ショットバレッド 6連】」


瀕死のギガントジャイアントの背中に拡散銃弾が降り注ぐ。 

ギガントジャイアントは声を上げる暇もなく消えていった。 


強い。ミミは相当に強い。俺の行動から瞬時に自分の役目を判断してくれる。連携を取ろうと指示を出さずとも、既に最適解で動いてくれている。

桃のスキルと盾も優秀で、数回なら格上の攻撃を無効化することが出来ていた。


「ミミ!!」


俺はミミにハイタッチしようと手を挙げると、飛び上がって抱きついてきた。


「おっと」


「へへーん、どうでした?」


「天才的な連携だ! どうして俺がなにをするかわかるんだ?」


「ブラッディポン酢様の戦闘と行動パターンは何度も何度も見てきたんです。次に何をしたいのか、私は何をしたら良いか、手を取るようにわかりますよ。ミミは世界さんのオタクですから」


「すげえ。俺より強いんじゃないか?」


「有り得ません、ミミは世界さんの行動の隙間を埋めているだけですから」


「そこまで言われると照れるな、桃もバッチリだったぞ! ……桃?」


振り返ると桃は盾を置き、美希の胸に耳を当てていた。俺とミミはすぐに駆け寄った。


「どうした?」


「どんどん心臓の鼓動と呼吸が弱くなってるぢゃん!」


回復薬を桃が噛み砕き、無理やり美希に口移しする。が、すでに外傷はないし、内臓のダメージも回復できているため、変化は起きなかった。


「すぐ行こう」


「ダメぢゃん、龍の舞を発動し直してからじゃないと、ラスボスは跳ね上がって強くなるって世界っちが一番わかってるっしょ」


「そうです、落ち着いて下さい。万全の状態でのぞまないと全滅もあり得ます。レベル80以上のモンスターだった場合、無傷の勝利はあり得ないでしょうし」


「だよな、じゃああらかじめ__」


「ダメです!! あれは使わない約束です、敵対してどうしてもと言う時だけにして下さい」


「そうぢゃん! あんなことしてたら世界っちの精神が保たないし!」


俺は美希のそばに行き、頬に手を当てた。体は冷えていた。まだ浅いが呼吸はしているし、心臓も動いている。皆に止められている技は確かにリスクが高すぎる。使った上で不利になれば勝てる戦いも勝てなくなる諸刃の剣だ。俺は美希に声をかけながら、インターバルの経過を待った。ひどく長く感じる数分間を終え、最初から桃が美希を背負い、ミミと俺が2人がかりで戦闘する陣形で扉を開けた。 


龍の舞を発動し、全員同時に中に入るとそこには__真っ黒い揺籠から血を溢れさせ、巨大な心臓が脈動していた。

床一面もビチャビチャと血溜まりが浅い池のように出来ている。


「まさか……王の心臓」


「そんな! もし目覚めれば110レベルを超える王種が目覚めてしまいます」


「目覚めの条件は一定のダメージの蓄積、だよな?」


「はい。ですが攻撃しないとここからは出られません……大ピンチです」


王の心臓を攻撃すると、どんどんと血が溢れ出し、やがてそれが形をなし、ランダムにモンスターとなる。それは王種と呼ばれる別格のモンスターであり、一撃でもくらえば今の我々では即死だ。


「使うぞ、いいな??」


俺は桃とミミを見た。相対するだけで全身から冷や汗が噴き上がっている。美希はどんどんと青ざめ、死体と大差ないほどの顔色だった。やるしかない。 

2人は悔しそうに、小さく頷いた。


「すまん、あとは頼んだ。ミミと桃はチャージスキルを発動。俺のスキルが発動したら、ミミは全弾全力で心臓に打ち込んでくれ。変化の途中に俺が切り掛かってみる」


「……わかりました」


「ごめんね、世界っち」


「気にするな、俺の選択だ。では、頼んだぞ」


俺は歯を食い縛り、自らの体を刃でザクザクと切り刻む。


「ぐああ!!」


桃とミミは見てられないと目を背けた。スキルを発動し、先の展開に備える。 

俺は自分のHPがおおよそ35%以下になるまで、自らを斬り続ける。靭帯が切断されては行動に制限がでるため、絶妙に嬲りながら。全身から血が溢れ、視界が歪み出す。強壮薬を飲み無理やり体の動きを活性化させ、精神状態を回復させる。

俺のゲーム名は元々ポン酢だった。ブラッディポン酢となったのは、この技で無双し始めてから、周りからそう言われ出したのだ。

HPを失った状態で発動してからも、毎秒さらにダメージが自分に入る。が、全攻撃系ステータスが跳ね上がる。一撃でもくらえば絶命するが、このスキルを使えば勝ち目のない戦いにも勝機が見えてくる。

ゲームでは最初にアイテム使って自ら体力を削り、タイムアタックの時に使っていた。

ミミを見るとチャージを終え、震える手で王の心臓に銃口を向けていた。


「っく……打ってくれ」


「はい! 【パワーバレッド 6連】」


打ち込まれた弾丸が心臓に被弾し、大量出血と共に破裂した。

くるぶしの当たりまで床が血に染まり、やがてそれは黒い揺籠の中心に集められ、そしてまた血が無尽蔵に溢れていく。まるでそれそのものが心臓になったかのように。

あまりのグロテクスさに吐きそうだった。ミミは次の戦闘に備えてチャージをしている。桃は美希をおぶさりながら、盾を出せるように手を前に出して構えていた。


揺籠に血が再度集まり、全ての血を1箇所に圧縮させ、真っ黒な卵になった。今だ。やれるとしたら、今しかない。


「【代償血鎧ブラッディメイル】」

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