第28推活 ブラッディを思い出すってコト?!

 レッドPhantomの前に全員が集まった。ミミと桃はこれからの攻略が最難関になることから、少し顔が強張っている。


「よし、揃ったな。吉成くん、実験結果は?」


「世界さんのおっしゃる通りで、Phantom内と同じ効果が得られました。ですが、怪我をした場合、一度Phantomに入り、もう一度出ても回復しませんでした。回復薬か通常の医療行為で治療する必要があります。スキルは問題なく発動できました」


 装備をしたままの吉成は、実験的に空中に向かいスキルを打ち込んで見せてくれた。間違いなくPhantom内と同じ動きと威力だ。これで塔外に出ても戦えそうだ。

 しかし、phantomと違い、戦闘の怪我の全回復ボーナスがないというのは中々だな……。


「難易度は跳ね上がるし、命のリスクはあるけど、戦闘力に置いては変わらずか。ありがとう、助かったよ」


「とんでもないです!」


「確実にクリアできる難易度、そうだな、30階建てまでを巡って回復薬とアクセサリーをありったけ集めて、現実世界に溜め込んでくれ」


「畏まりました!」


 吉成は頼りになる。頼んでたことの先の実験まで進めてくれていた。

 俺は凛と最上さんに向き合った。2人とも戦いに行く桃とミミより心配そうな顔をしている。


「……凛、最上さん、行ってきます」


「お気をつけて」


「必ず帰ってきて下さい」


「ああ。では、俺、桃、ミミの順で内部に潜入、その後凛が入ろうとしてみてくれ。5分経っても入ってこなかった場合、美希が生存していると判断し、3人での攻略を開始する。その場合、凛は吉成くんの手伝いを続けてくれ」


「はい!」


「よし、いくぞ!」


「せ、世界たん!」


 俺が塔に振り返ると、後ろから美鶴の声がした。 

 振り返ると、最上さんの姿をした美鶴が、スーツのズボンを掴み涙目でこちらを見ていた。俺は考えるよりも先に駆け寄り抱きしめた。 


「祈ってるっぴ……」


「必ず帰る。凛もおいで」


 3人で抱き合った。大丈夫だ、桃とミミを道連れになんかしない。ゆっくりと体を離し、桃とミミを連れてPhantomの中に進んだ。振り返り、扉を眺める。


「頼む、入ってこないでくれ」


 俺は入り口を見続けた。Phantom内で亡くなった場合、4人までのダンジョンであれば1人が後から入場できるはずだ。

 帰還しなかった公務員のいたphantomの追加調査からそれは判明している。

 つまり、もし凛が入ってこれた場合、美希の死亡が確定するというわけだ。 


 焦りをむき出しにする俺の腕を桃とミミが掴み、手を優しく握ってくれた。


「2人とも、着いてきてくれてありがとう。例え俺が死んでも、絶対に帰すから」


「世界っちはあーしが死なせない」


「私も最前線で戦います」


 2人の覚悟はとっくに決まっていたようだ。俺がいるから大丈夫だと頼っている表情ではない。2人はとっくに、自立した戦士になっていたのだ。


「……そうだな。みんなで帰ろう!」


 そうこうしているうちに、5分が経過した。


「よし!! 美希が生きてることが確定した!」


 3人でガッツポーズをした。生きてる。まだ間に合う。


「行こう、いるとしたら一階層目だ」


「はい!」


 装備を整え、アバターチェンジし、最初の扉を開き中に入った。


 中に入ると、次の扉が現れていた。どうやらここはクリア出来たらしい。運が良い__


「キャァァア!!」


 ミミが指を刺し叫んだ方を見る。そこには、血溜まりの中心で寝そべる、片腕を亡くした美希が倒れていた。


「美希!!」


 駆け寄り膝をつき確認する。顔は血の気を失い、呼吸は浅く短く、意識はない。持っていた回復薬を食べている形跡があるが、回復が追いつかずにそのまま倒れてしまったようだ。

 まずい、まずすぎる。来るのが遅かった。

 自分の心臓は嫌と言うほど高鳴り、負のイメージが心を覆い尽くす。


「み、美希……!」


「何やってるぢゃん!! 早く超回復薬瓶を!」


 桃が俺の肩を強く叩いた。そうだ、ここはPhantomだ。外の世界では手遅れな瀕死だとしても、死んでいなければどうにかなる可能性は高い。少なくとも生命が外に出るまで維持出来れば、Phantom内でおきた怪我は全回復することが出来る。 


「あ、ああ!!」


 俺は回復薬をボリボリと噛み砕き、一本しかない超回復薬瓶を口に含んだ。美希の気道を確保し、口移しでゆっくり流し込む。

 外傷がみるみるうちに回復していった。桃が胸に耳を当てて心拍を確認する。


「世界っち、続けて! 心臓は全然弱ってるままだよ」


 俺は頷き、小分けに何度も何度も無理やり流し込んだ。頼む、かえってきてくれ!! 


「……っぷ、ごはっ、ごほっごほっ!」


「美希!!」


「……世界くん?」


 薄目を開けて、だが確かに震える小さな声で美希は俺に向かい名前を呼んでくれた。


「よかった、間に合った!!」


 桃とミミを見ると、安心からか涙を流していた。もう一度美希を見ると、微笑みながら目を瞑っていた。 


「美希……? 美希!!」


 肩をゆすろうとしたが、桃が止めた。 


「大丈夫、瀕死から回復して気絶してるだけぢゃん。そっとしてあげて」


 俺は美希の胸に耳をあてる。心臓も弱いが動いているし、呼吸も安定していた。失った血を体内で作り直すのに時間がかかるのだろう。


「よかった、死んだかと」


「ちょっと、縁起でもないこと言わないでください! 私おぶります」


 ミミが冗談混じりに笑って美希をおぶってくれた。


「ごめん、マジで焦ってつい」


「わかってますよ、行きましょう。外に生きてるうちに出れれば我々の勝利です」


「2人のこと守るのはあーしに任せて、ボス戦までは世界っちが無双するのが最短でしょ」


「その通りだ。 【龍の舞】」


 俺は邪竜を討伐した時のスキルを発動し、すでに開かれていた扉に入った。 

 中にはジェネラルゴブリンが3体とキングスライムが2体。こちらに気付くとすぐに突進してきた。 

 俺はエレメンタルソードの属性を炎に選択し、スキル【斬撃+5】を発動する。

 炎の刃が剣の軌道にあわせて出現し、一太刀で全滅させた。 


「つお!!!!」


「私の出番ありますかね?」


 2人がダンジョンに入ると同時くらいに、モンスター達は引き裂かれ燃えていった。


「ない方がいいに決まってる。どんどん行くぞ!」


 エレメントソードとスキルに回数制限はない。体力の問題があるくらいだが、強壮薬もある。龍の舞が途切れるインターバルの間は次のダンジョンに進まずに待機し、MPが切れたらハイポーションで回復すればいい。


 3階で中ボスの抑圧されし邪竜が現れたが、エレメントソードを氷属性に選択してスキルでダメージを与え、邪銃を頭に打ち込むと霧散していった。 


 レッドPhantomでは各階ごとに宝箱があり、そこでアイテムと武具を手に入れた。ミミの装備が大分揃い、基礎攻撃力だけなら俺と同格と言える状態になった。


 4階の前で龍の舞のインターバルを待つ。

 美希を見ると顔色が少し悪くなり、呼吸も荒くなっていた。急がなくては。

 焦りまくりウロチョロする俺を、桃が後ろから抱きしめてくれた。


「落ち着けし。大丈夫だから。あと戦闘は2回だけっしょ」


 不安と緊張が安らいでいく。強張った体を脱力させて、息をゆっくり吐いた。


「そうそう、それでよし。良い子良い子」


 桃がニシッと笑った。美希を背負っているミミが「私も良い子良い子世界さんにしたいー!」と騒ぎ出す。


「桃がいなかったら美希を目の前でみすみす殺してたかもしれない。助かってる、本当に」


「当たり前のことしてるだけぢゃん!」


 俺がミミの方に頭を向けると、片手で必死に頭を撫でて、涎を垂らしながら良い子良い子してきた。


「でへっ、推しを良い子良い子、でへへっ」


「ミミもありがとな、安心して特攻できる」


「いや、本当の特攻はしないでくださいよ」


「できる限りな。よし、溜まったみたいだ。【龍の舞】」


 4階に進むとレベル70相当のギガントジャイアントがいた。一つ目で棍棒を持ち、ツノが3本はえている。身の丈は4m近く、筋骨隆々で鉄塊のような棍棒を持ち、血の匂いがする生暖かい息をこちらに吐いてきた。




       ☆☆☆

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