第27推活 逆転劇の開幕ってコト?!

 天野と黒瀬は納得の行っていない様子だ。


「判断は天野総理に委ねます」


 決定権を譲ることで話を聞く耳を持たせるため、俺はそのことを再度強調して伝えた。俺のことは蔑ろに出来ないはずだ。話も聞いてくれなかったとなると心象は最悪になる。総理大臣まで登り詰める男が、そんな人身掌握のミスをするとは思えない。

 すると、やはり天野は祈るように手を組み、俺をじっと見た。


「拝聴致します」


「ありがとうございます。ライドンが外に出現している前提だとすると、なぜ我々が襲われていないのかが不気味だと思いませんか?」


「確かにそうですね」


「だとすると、考えられるのは、現実世界でも我々がPhantomの武器、防具を装備して、同じ効果を得ることが出来る可能性。そして、より強いボスクラスの眷属として産まれ、手引きをするために動いている可能性があります」


 一斉に閣議室がざわめいた。


「我々も10階建て以下の武器を持ち帰り、量産して持ち込めないか試したことはあります」


「流石ですね。効果は確認しましたか? 特に回復薬やアクセサリー。また装備した状態でのスキルの発動確認などは?」


「いえ、量産が可能かだけしか確認していません。そして不可能でした。外に出たゴブリン等にはこちらの世界の武器が通用していたので、銃殺しています」


「では、武器、防具、アクセサリー、回復薬、全て外に持ち出して、効果が持続するか確認とスキルの発動確認をして下さい。そして確認取れ次第、全ての一階建てPhantomを政府が管理して封鎖して下さい。Phantom外で襲われた際の所謂変身スポットになります」


「畏まりました! ただちに!」


 天野が返事すると牧町が色々と部下に指示を出し始める。


「その効果確認ができたら、凛、美鶴、吉成、ルナは模擬戦を現実世界で行って下さい。リーダーは吉成君に。できるか?」


「は、はい!」


 吉成は突然呼ばれ驚いて背筋を伸ばした。


「凛と美鶴のこと、任せたからな」


「はい……!」


 俺がゆっくりと目を見て伝えると、吉成もしっかりと答えてくれた。 


「そして、桃、ミミ、俺は人工Phantomの最高層、60階建てPhantomの攻略に向かいたい。俺のレベルは55だからまず問題ないし守れると思うが、二人とも、大丈夫か?」


 桃は人類最強のタンクに育っている。ミミは元より世界ランク6位、日本でのランクでは俺の次にあたる2位だ。遠距離魔法と回復、エンチャント、そして状況判断にも長けている。


「勿論! あーしに任せて」


「推し様とならどこへでも!」


「二人ともありがとう。3人でのPhantom調査を終え、俺の実験が成功した場合、美希の救出に向かう。こちらはまったく命の保証はできない。が、美希がまだ別の情報を持っているかもしれない。それこそ人類存亡に関わるような重大な。こちらの参加の意思表明は60階踏破後で構わない」


「あーしは行くよ。世界っちがいくなら、行くしかないっしょ」


「私も勿論お供します」


「……ごめんな」


 桃はグッと胸の前で拳を作った。ミミはなぜか俺に向けて胸を寄せて投げキッスしてきた。凛は少し寂しそうに俯いていた。


「凛は俺たち3人がレッドPhantomに入った後に、入ってきてくれないか? もし美希が生存していれば恐らく塔に入れない。入れた場合は、美希の救出は諦めて、攻略に専念する。基本的には桃に守られながら、俺が戦うスタイルになるけど、勿論危険なかけでもある」


「!! なんでもします、お力になれて嬉しいです」


 凛は顔をぱっと明るくさせてこたえた。


「しかし、二鷹様……」


「天野総理、美希が見た者がライドンだったかどうかを確認できるだけでも行く価値があります。大丈夫です、俺も勝算がなければ行きません。桃とミミの巻き添えは確定なんです。それを確かめに60階建ての人工Phantomに向かいます」


「しかし……」


「どちらにせよ、もう安全な選択肢はありません。なら俺は勝負に出たい。待ってるだけではジリ貧です」


「……ひとまず60階建てPhantomの攻略と、先ほどの確認を同時進行で行っておきます」


「ご英断感謝します。では人工Phantom付近の1階建てのPhantomに向かい、みら〜じゅ! チームは俺と桃に一番強い装備を。チームランカーズはミミに一番強い装備を渡して、最集合します!」


「はい!」


 俺が立ち上がり伝えると、全員気持ちのいい返事を返してくれた。田所は俺の元に駆け寄り、手術前の医者にすがるように感謝し続けた。まだ助けられたわけではないが、俺は田所の背中を軽く叩き微笑んだ。 


 やるしかない。やるしかないんだ。


 ○


 1階建てのPhantomの中に入り、タッチパネルに手をかざす。最上さんが美鶴の姿になった。浮かない表情だ。俺は美鶴のそばによってしゃがみ込む。


「美鶴、ごめんな。置いてけぼりにして」


「んーん、世界たんの力になれなくて悔しいだけっぴ」


「俺の帰りを祈っててくれ。また必ず会いに来る」


 美鶴は寂しそうに微笑んだ。


「わかったぴぃ」


「凛と桃も、ありがとな。どうして止めてたのに参加してくれたんだ?」


「顔見ればわかるヨ。死にに行くのと、戦いにいくのは違うぢゃん!」


「桃ちゃんの言う通りです。美希さんも心配ですし」


「2人とも……」


「さ、装備を移そうぢゃん!」


「ああ、そうだな!」


 二鷹世界 

 ブラッディポン酢

 レベル55

 プレミアムロングソード

 大蛇の盾 

 聖騎士の鎧一式 

 邪竜銃 6発


 スーパーバニーカチューシャ

 斬撃の指輪 

 大守護の指輪

 爆発の指輪


 剣スキル 

 斬撃+5

 回転切り+3

 強撃+2

 巨人穿つ大剣の一撃 5回


 スキル

 龍の舞


 回復薬×10

 超回復薬瓶×1

 ハイポーション×3

 強壮薬×3



 俺の装備とスキルはこうなった。美鶴や凛に渡していた防具やアクセサリーで強力なものも全て単独で装備した。

 桃は未だに邪竜セットが現役だ。セット効果の防御力アップが強力で、新たな防具との入れ替えの必要がない。 

 空間に巨大な盾を作るスキルと、自身の防御力を上げるスキルも覚えている。


 そのまま一階層をクリアし、外に出た。凛と美鶴は装備したまま出てると、やはり現実でもそのまま装備されていた。服の上からなので変な感じだ。

 最上さんが少し気まずそうにしていた。防具の形女の子もだもんね。


 俺と桃はミミと合流した。凛と最上さんは吉成に預けた。きっと上手くやってくれるだろう。

 牧町に案内され、人工Phantomに辿り着いた。非常にコンパクトな作りだった。しかしPhantomは中に入るとサイズが変わるため、人口Phantomはこれがベストと言える。


「20階程度の高さしかありませんが、60階建てになります。お気をつけて」


「はい。行ってきます」


 牧町が心配そうに扉の前で頭を下げた。

 俺は桃とミミを連れて、人工Phantomに入った。


 ○


 2時間後。俺は桃とミミに肩を担がれて外に出た。


「二鷹様! お帰りなさいませ、お早いご帰還で安心しました」


「ただいま、牧町さん」


 外に出て怪我が全快し、自ら立ち上がる。よかった、傷一つ残ってない。 

 桃は俺の体をペタペタ触って確かめ終わると、大声で怒鳴った。


「あんな戦い方するなんて聞いてないぢゃん!」


「その通りです! ゲームの中だからあり得るんですよ、現実でやることじゃないです!」


 何でも肯定してくれていたミミまで俺を責めてきた。そうだよな、他人やってたら心配するよな。


「でもこれしかない。60階のボスは瞬殺だった。行かせてくれ」


「……最後の手段にして下さい。まずは使わないで、私たちにもっと頼って下さい」


「ああ、勿論だ。今は急いでたのと、実際に発動できるか試したかっただけで。それに、今回のPhantomでエレメントソードもドロップしたし、大丈夫だ」


 エレメントソードは全属性を選択できるレア武器だ。なんのボスが待ち受けているかわからない現実のPhantom攻略において、一番欲しかった武器と言っても過言ではない。


「約束しろし」


「ごめん。約束する」


「あ、あの、話が飲み込めてませんが、どうしたら宜しいでしょうか?」


「すみません牧町さん。総理にレッドPhantom攻略に向かう許可を。勝算は十二分にあります。クリアできれば、ライドンを楽々と倒せる武器も手に入るでしょう。行くしかありません。凛も呼んでください」


「畏まりました!」


 俺は牧町の車に戻った。桃はまだ全身をペタペタと触って怪我が残っていないか試しているようだ。60階の人工Phantomのボスを瞬殺できたことから、総理からの許可も渋々降りたようだ。16時半ごろ、俺たちはレッドPhantomの前に到着した。

 生きててくれよ、美希。今行くからな。


       ☆☆☆

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