第二部 王の胎動編

第26推活 大ピンチってコト?!

「世界様、世界様!」


「ん、ふぁぁああ……」


 二日酔いなのか、少し青ざめた最上さんに肩をゆすられ目覚めると、繋げていたキングサイズのベッドの真ん中で俺は大の字で眠っていた。 

 両サイドに桃と凛が無防備な子供のように寝息を立てている。守りたいこの寝顔。

 俺は上体を起こして、眠い目を擦った。


「おはようございます、最上さん。今何時ですか」


「11時です」


 眠りについたのはおそらく6時頃だ。今日は予定もないし、もう少し寝ていたい。


「ではもう少し寝かせて下さい」


 俺はもう一度ベッドに体を倒しながら言った。


「お、お待ちを! レッドPhantomの5階が出現したと牧町さんから連絡が」


「ええ?!」


 一気に目が覚め、飛び起きた。3階建てのレッドPhantomで、40階級の難易度だった。それが、5階建て?

 80階、下手したら難易度が100階建てを越える可能性がある。あれからかなりレベルは上がり、俺は55レベルになってはいるが、流石に挑めるものではない。


「んん、どちたの世界っち」


「トラブルですか?」


 凛と桃が俺の驚いた声で起きて、手を伸ばした。腰と足のあたりを掴まれる。二人ともまだお眠なようだ。 


「おはよう二人とも。レッドPhantomがまた出たそうだ。けどレベルが高すぎて今の俺たちじゃどうしようもない。封鎖してコツコツとレベル上げだな」


 人口Phantomの建設は順調だが、Phantom化するのはランダムだ。あまりに大きなものからPhantom化して、そこからモンスターが溢れたら大問題なので、ある程度順を追って建設して貰っている。まだ最大で60階建てのものしか出来ていない。それをいつ攻略するかと悩んでいたくらいだ。 


「レッドPhantomって、世界さんがドラゴンと戦ったってお話してたやつですよね? 怖いですね」


「近寄らない方が良きだナ。寝よ」


「そ、それがですね……牧町さんとのグループチャット確認して下さい」


「?? わかりました」


 俺達は2度寝を中断して、スマホを開く。そこにはこう記されていた。 


 ○

 みら〜じゅ!様


 早朝に失礼致します。牧町です。

 お引っ越しでお忙しい所申し訳ありません。 

 5階建てのレッドPhantomの顕現報告が入りました。

 さらに、広瀬美希のマネージャーから、レッドPhantom前で位置情報が消え、朝6時から連絡が付かないと報告がありました。 

 契約等は対国家として広瀬美希とは一切結んでいませんが、二鷹様とのご交友があったと伺っていましたので念のためご報告です。

 ですが、決して独断でレッドPhantomに向かうことがないよう、宜しくお願い致します。


 牧町


 ○


 俺は理解が追いつかなかった。寝ぼけていたからでも、二日酔いだからでもない。なぜ美希がPhantom攻略を続けているんだ? 

 仕事に専念するんじゃ……いや、それは俺が勝手に推測していただけか。


「朝6時……もう5時間経ってる」


 俺が立ち上がると、凛と桃が俺の背中の服を掴んだ。


「どこいくの?」


「ダメです、世界さん」


「とりあえず水を、あと牧町さんに電話を」


「わかった。最上っち、水お願い。世界っちはあーしがおさえとく」


「はい」


 最上さんはキッチンに向かった。俺は二人に抑えられ、ベッドに腰をかけ直すが、気が気じゃなかった。


「す、すまん。冷静じゃないのはわかってる」


「絶対行っちゃダメだからナ」


「行くなら私たちも行きます」


「それはダメだ! 死にに行くようなもんだぞ」


「だから止めてるんです!!」


 凛が俺の腕を掴んだまま、まっすぐと見据えて言った。俺はハッとして息を飲み、何も言えず俯いた。凛が「すみません」と呟いた。美希がもう死んでいる可能性を示唆してしまったからだ。


 最上さんが水を持ってきてくれたので、一気に飲み干す。最上さんと凛に礼をしてコップを返した。

 何かの間違いかもしれない。とりあえずは牧町に連絡だ。俺は震える手で牧町に電話をかけた。スピーカーで皆に共有している。1コールで即繋がった。


「おはようございます、牧町さん。連絡見ました」


「おはようございます二鷹様。ご確認ありがとうございます。現在現場で封鎖作業を完了させ、対策を練っている途中です」


「その、マネージャーさんから何かの間違いだったとか、連絡は」


「残念ながら」


「そう、ですか……」


 俺は事実を事実として受け入れられなかった。信じられなかった。自分で言った言葉だ。死にに行くようなものだって。


「この後対策本部とマネージャーを交えて会議を行います。同席願えますでしょうか」


「はい、勿論です」


「では準備が出来次第フロントにお声がけください。みら〜じゅ! 専用の運転手は常に待機させています」


「わかりました。助かります」


「こちらこそ。では後ほど」


 電話を切る。みんなが俺の顔を見つめていた。


「大丈夫だよ」


 俺は笑って見せた。が、みんなの心配は変わらなかった。俺の体は寒気にやられたように震えていたからだ。

 最上さんに連れられて洗面所に向かい歯を磨き顔を洗った。

 みんなもベースメイクと歯磨きを終え、最上さんはスーツに着替えた。俺も適当な服に着替える。

 10分前後で準備を整えて、フロントに伝えると、すぐに案内された。

 最上さんが助手席に座り、後部座席で凛と桃に挟まれて、手を握ってくれた。以前俺の震えは止まっていない。事実を事実として認識することも出来ていない。


 閣議室に着くと、チームランカーズと牧町と、対策本部の人間が集まっていた。天野と黒瀬も既に到着していて立ち上がり、俺は上座に通された。


 すると、一人の男が俺の膝にしがみついた。 


「二鷹世界様ですよね?! お願いします!! 美希を! 美希を助けて頂けないでしょうか?!」


「田所さん! 今回の救出は諦めて、情報提供者として同席するお約束です」


 牧町が慌てて田所と呼ばれた男を引き剥がした。美希のマネージャーなのだろう。

 俺はどうすることも出来ず、立ち尽くした。


「マネージャーさん、ですよね? すみません、今の俺では、救出はほぼ不可能です……勝ち目がありません」


 田所は牧町に指示された部下二人にもおさえつけられ、閣議室を追い出されていく。


「そこを何とかお願いします! 美希は決まっていた仕事から先の仕事は入れず、尋常じゃないスケジュールの詰め方の中、一人でPhantom攻略を続けていたんです!」


「……え?」


 追い出されながらも抵抗し、必死に田所は叫び続ける。 


「世界くんに認めてもらうんだって、ずっと言ってたんです!! 女優を引退して貴方と共に生きることがあの子の夢でした!! それがこんな形で……どうか、どうか!!」


 二人がかりで追い出され、牧町が田所の口を塞ぎ押し込んでいく。

 俺は信じられなかった。何も抵抗せずに諦めようとしていた自分自身が。田所の話を聞くと、俺の震えは止まっていた。


「牧町さん、待って下さい」


 牧町は俺を無視して田所を追い出していく。口をおさえられて、何を言っているかもわからない。


「牧町さん」


 俺がもう一度、大きな声で声をかけた。牧町は動きを止め、天野と黒瀬の方を見た。


「話を聞かせてください。お願いします」


 俺は天野と黒瀬に向き直り告げた。


「し、しかし救出の許可は何があっても降ろせません。聞くだけお辛くなるだけかと」


 天野が答えた。俺も言葉を返す。ここは冷静にならなければ、きっと俺は拘束されるだけだ。


「凛と桃の為にも無駄死には俺も出来ません。皆が納得いく作戦を考えられなければ俺は動きません。それに、田所さんは交換条件で何か情報を伏せて同席してますよね? じゃなければここに呼ばれるはずがない」


 天野と黒瀬は驚いた。図星なんだろう。


「その通りです!! お話しする機会を! どうか!」


「田所さんから話を聞いてからでも遅くはないと思います。大丈夫です、俺は冷静です。心配なら先に拘束して頂いても構いません。すでに桃と凛に掴まれてますが」


 俺はわざとらしく笑ってみせた。

 天野は一つ唾を飲み「畏まりました」と言って、牧町に目線を送った。田所の拘束が解かれる。 


「はぁ……はぁ……! ありがとうございます、ありがとうございます!」


 藁にもすがるとはこのことなのだろう。

 俺は凛と桃の手を握り返し、大丈夫だ、と意思表示し席についた。


「田所さん、落ち着いて下さい。慌てればまたすぐに摘み出されます。まずは座って下さい。そして、冷静に今持っている情報の全てを伝えて下さい」


「しかし、美希の救出をお約束頂けないのにお話するわけには」


「であればお帰り下さい。確定で約束できる状況ではありません。お話頂ければ、今では絶対にない救出を行う可能性が上がるかもしれません。どうしますか?」


 俺は心を鬼にした。一分一秒が惜しい。


「……わかりました」


 スマホを取り出しながら田所は席に着く。


「美希からラインがあったのは朝6時です。突如目の前に5階建てのPhantomが現れた。その色が真っ赤だった、と」


「はい」


「そして、見間違いかもしれないけれど、一瞬その赤いファントムの上に金髪の獣のような上裸の男が見えたと」


「なんだって?!」


「本当です、ほら」


 たしかに美希からのラインにはそう記されていた。 


「まさか、ライドン……」


 ミミが顔面蒼白させ呟いた。俺も田所の話を聞いて真っ先に想像したモンスターが、ライドンだった。 

 牧町はすぐにライドンを検索し、ゲームの情報をモニターに移し共有した。


「レベル75以上推奨 人型モンスター。いつのまにPhantomから出てきていたのか? 一体どこから」


「あるとすれば、エッフェル塔Phantomでしょう」


「そんな……エッフェル塔Phantomから外にモンスターが出たという報告は入っていません。ドローンで360度監視しているはずです」


「外に出たら核を撃つ条約なんですよね? 他国にバレない極小数のモンスターが出現することを把握していても、果たしてそれを報告するでしょうか」


「……あり得る話です」


「田所さん、ありがとうございます。非常に重要な情報でした」


「で、では美希の救出は」


「不可能です! 二鷹様の命に全人類の命運がかかっているんです! それをたった一人の、それも生きているかどうか分からない人間のために向かわせるなど、言語道断です」


 天野が声を荒げた。


「そんな……」


 田所は項垂れて拳を握りしめた。


「ですが、このままでは全人類の命が危ぶまれることも確定しました」


 俺はつとめて冷静に現状を伝えていく。 


「ライドンに今の俺ではPhantom内でも勝てるかどうかはわかりません。そして何点か実験しなくてはならないことがあります。そしてこの情報がなければ、人類は滅亡していたかもしれません。美希が意図せず命懸けで取った情報です」


「では……!」


「作戦を伝えます」


        ☆☆☆

 ご愛読ありがとうございます!

 君のためなら生きられる。です。

 第二部の開幕、お待たせ致しました!週2本投稿目安で書き進めて参りたいと思います。


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