第25推活 産まれてきて良かったってコト?!

 超高層タワーマンションから見る夜景と、デリバリーピザ、高級ワインと美女2人と信頼できるおじ様と過ごす夜は、言うまでもなく豊かな時間だった。


「最上さん、飲める口ですね〜」


 俺は最上さんに赤ワインを注ぐ。凛と桃はピザを食べ終わると「ちょっと待ってろし」と言って自室に戻っていた。ニコニコしていたが、なんだろう。


「いやあ、お恥ずかしい」


「一緒に飲める人が居てくれて嬉しいですよ。桃も来年からは晩酌に参加できそうですね」


 もう一本のワインはあらかじめ空けておいて、あえて酸化させることで味を開けている。ちょうど1時間が過ぎたので、少し早いが良い頃合いだろう。


「桃さん飲めるようになるの凄く楽しみにしてるので、きっと喜びますよ。凛さんがウズウズしそうですが。あ、では世界様にはこちらを」


 例のワインを、最上さんがグラスに注いでくれた。本日何度目かの乾杯をしてワインを口に含み、ゆっくりと味わう。 

 同じワインだが、これまた渋さやえぐみに変化が出て、たまらない味わいだった。


 最上さんがスマホをチラッと見ると「失礼」と言って立ち上がり、電気を消した。 

 なんだなんだ、俺の誕生日はまだまだ先だぞ?


 キョロキョロしていると、簡易ステージにスポットライトが照らし出された。そこにはなんと、アイドル衣装を見に纏った凛と桃が居た。ポーズを決めて、俺を指差している。


「みら〜じゅ! 単独リアルライブに、ようこそぢゃーん!」


「世界さん、楽しんで行ってくださいねー!」


 いつの間にか最上さんがPAと照明卓に移動し、みら〜じゅ!オリジナルソング【鏡の国のお姫様】のイントロが流れ出す。


 キラキラ笑顔の全力ダンスで、俺だけのために2人から極上のファンサが常時送られてる。

 俺は血湧き肉躍った。立ち上がり、エアペンライトを持ち上げる。


「いっくぢゃーん!!」


「ちゃんと私たちのこと、見てて下さいねー!」


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 「鏡の国のお姫様」

 君の瞳に映し出された私は何色? 

 染め上げてね どこまでも君色に! 

 

 胸のときめき 私達を加速させて

 見ててよね 君だけの一番星なってみせる!


 夢ならまだ醒めないで 

 鏡の向こうでも微笑んで

 例え違う世界に生きていようとも 

 

 今ならきっと間に合うよ 

 好きって絶対伝えたいんだ

 君の鏡に私を映してね

 願いを叶える流れ星になるから


 「願いは君の 幸せだー! やっと見つけたお姫様! 好き好き大好き 愛してる! 流れずにずっと輝いて! あい!」



 1コーラス目が終わり、俺のバイブスは最高潮に高まり、ガチ濃い口上を叫び散らす。

 美鶴のパートも2人が歌っているため、ふと気になりPA卓の最上さんをみると、感極まって泣いているようだった。

 2人のこの姿を見たくてマネジメント頑張ってきたんだもんな。地球に知らしめていこう、みら〜じゅ!の素晴らしさ。

 いつかバーチャル空間で美鶴も一緒の3人のライブが観れると思うと胸熱にもほどがあるってもんだ。

 

 

 割れた鏡に映し出された私は本物? 

 どれもあなただと 教えてくれたんだ 


 涙の夜も 必要だったと思えるように

 今を変えるよ 過去も全て置き去りにして


 2bが終わるとギターソロが入り、凛と桃のダンスがより一層激しくなる。桃の胸が揺れすぎて心配だ。凛はいつものクールな表情が砕けたアイドルフェイスになり、そのギャップにやられてしまう。間奏を終え、落ちサビがくる。俺はしゃがみ込み、腕をグルグルと回して全身を捧げた。


 夢ならまだ醒めないで 

 鏡の向こうでも微笑んで

 例え違う世界に生きていようとも 

 

 今なら絶対間に合うよ 

 好きってもっと伝えたいんだ

 君の鏡に私を映してね

 願いを叶える流れ星になるから  


 君のために輝く一番星になるから

 

 

 落ちサビからの転調ラスサビで最高潮になったテンションが、最後にもう一度くる落ちサビの1フレーズ、からの後奏でのダンスパート。

 あっという間に曲は終わってしまった。エンドレスにアンコールしたい。神曲すぎる。


「ありがとぢゃーん! 世界っち、楽しんでるー?」


「いええええええええいい!!!」


 サンシャイン川崎より空前絶後に叫ぶ。喉が千切れても構わない。


「今日は、いつもお世話になってる世界さんにサプライズがあります!」


「ええーーー?! なになにー!?!」


 キモオタ、大絶叫である。表情もディズニー映画ばりに動かしている。


「それは〜! 新曲です! みら〜じゅ! デジタル2nd Single 世界で一番王子様! 聞いて下さい!」


「うおおおおおおおおお!!!」


 凛が後ろを向き、桃がポーズを取った。

 なんとサプライズは俺の名前が入った新曲だった。振り付けも新しいものになっている。俺が知らないところで練習していてくれたと思うと、感無量だ。限界を超えたバイブスは、俺の内なる小宇宙を燃やして限界を超えていく!


 世界で一番王子様!


 心の隅っこで蹲る 昨日の私に手を差し伸べてくれたね

 あなたと出会って 世界が変わってく

 怖いくらい ときめき止まらないんだ


 この幸せの向こう側には何があるの? 

 あなたと見たい景色があるから


 夢を越えて 奇跡が渋滞中! 

 願う暇なんてないくらい 特別になっちゃったよ 

 今を越えて 永遠を始めよう

 離さないでよね? 世界で一番王子様!


 凛と桃のスカートが翻り、マイクスタンドを使ったパフォーマンスに汗が光る。 

 これが幸せってやつなんだろう。

 決めポーズと共に曲が終わると、2人がステージが降りてきた。 


 俺と最上さんは手が痛くなるほど拍手を送った。汗を拭いながら2人がそばにくる。まったく汗臭くない。どうなっているんだ二人の体は。


「美鶴ちゃんがいなくてごめんなさい、楽しめました?」


「当たり前だ!!!!」


 麦米のルヒィよりデカい声が出た。ドン! 


「続きがあるから、座ってぢゃーん!」


 アイドル衣装の2人に挟まれてソファーに座る。桃と凛がワイン注いでくれるのでグビグビ飲んだ。新しいのいくらでもあるからな!わはは!!


「世界たん。いつもありがとうっぴ!」


 巨大スピーカーから美鶴の声がした。俺の心臓は跳ね上がった。


「美鶴?! どこだ、どこにいるんだ!」


 桃と凛が指さす、ソファーの前の壁に埋め込まれた巨大モニターを見ると、そこに美鶴が映し出された。


「美鶴ぅぅうううう!!」


 俺は壁のモニターに張り付きそうになるのをグッと堪える。せっかく2人がそばにいてくれるんだ。しかしモニター舐めたい。


「世界たんに今日はみら〜じゅ! からのお礼で、収録ライブをお届けするっぴ!」


 美鶴をセンターに、3Dの凛と桃も映し出され、こちらに手を振っている。リアル凛と桃も隣で俺にくっついてテレビを見ている。なんだか魔法にかかっているみたいだ。牧町と相談してあらかじめ作ってくれていたのかもしれない。


 モニター上で、みら〜じゅ!3人揃って鏡の国のお姫様をアンコールしてくれた。たどただしく歌って踊る美鶴は、可愛さの世界新記録を更新していく。 


「ぎゅおおおおおおおおおおおお」


「世界っちウケる笑 なにその声笑」


「喜んでる声ですよね?」


「そうに決まってるだろおおお、推しに挟まれて推しを見るってなんなんだ、それに美鶴ぅうう」


 3人で映像に向かってエアペンライトを振った。満たされるとはこういうことなんだろう。映像が終わると、隠れていた最上さんが電気を付けた。少し恥ずかしそうにしている。


「細やかではありますが、心ばかりのお礼でした。お楽しみいただけましたでしょうか?」


 俺は最上さんに駆け寄り手を取った。 


「最高でした!! ダンスと歌のレッスンもしてくれたんですね!」


「あ、はい。その、美鶴がですが。体を貸してるような感覚でして、私は何も」


「何言ってるんですか、ありがとうございます!」


 俺は最上さんに酔っていたのもあり、感極まって抱きついてしまう。凛と桃がなぜかヒューヒューと冷やかしている。最上さんは体を強張らせた。しまった、気持ち悪いことしてしまった。


「すみません、感極まっちゃいました、嫌ですよねおじさん同士で抱き合って」


「いえいえ、驚いてしまっただけでして! 嫌とかそんな」


 凛と桃がこちらに向けて両手を広げた。アイドル衣装のままなので、ポージングしているようだ。


「何してるぢゃん、あーし達のことも抱きしめてよ」


「お願いします」


「う、うおおおおおおお」


 力強く2人を抱きしめると、切なくなるほど弱い力で抱き返してきた。こんなか弱い2人を危険な目に遭わさないためにも、俺が頑張らねば。

 二鷹世界、推しの住む地球のために、世界を救います。 

 今となってはPhantomに感謝だ、こんな生活が待っているなんて思いもしなかった。

 首洗って待ってろよ、エッフェル塔Phantom!


 みんなで席につき、冷蔵庫に入っていたつまみやらケーキやらも出した。

 俺たちの宴は、朝まで続くのだった。

 こんな幸せが、ずっと続いていくと信じていたんだ。


 ○

 東京スカイツリーの先端。まるで宇宙空間に浮かぶように、人型のモンスターが夜風に溶けて立っていた。

 白く伸びる太ももは、ゴシック調のフリルスカートに包まれている。一見すると黒髪でボブショートをした人間の少女のようだが、上半身は2つあり、お互いを抱き合うように重ね合わせている。


「鼓動が聞こえますわ」


「王が目覚めますわ」


 頬を染め、同じ下半身から生えているようにみえる美少女2人は、見つめ合うとキスをして舌を絡ませた。

 胸と胸を押し付け合い、一つに溶けてしまいそうだ。


 100階層より先にのみ現れる特異点モンスター、王種シリーズの目覚めを暗躍する、外部に漏れ出て息を潜めている高知能のモンスター達は、国家の監視を免れていた。


「ミサミサ、盛るのもそこそこにしておけ」


 浮遊する金髪をかきあげた筋骨隆々、上半身裸で獣のような男は、スカイツリーの先端で自慰をするミサミサに声をかける。


「んっ。ライドン、覗き見ですか。今すぐにでも我々だけで襲ってしまえばよろしいのに」


「ちげーよ。ふん、世界一位のゲーム頭脳をあなどるな。俺たち程度じゃ、すぐに攻略法に気づかれて返り討ちに合うのが目に見えてる」


「我々はエッフェル塔Phantomの80階以上から外に出た特異点なんですが、それでも自信がなくて? 私にはただの変態にしか見えませんが」


「ええ、私にも。あん」


「二鷹世界も自分の乳首つまみ合って、ディープ絡めてるやつに変態言われたくないだろうな。あいつは別格だ。幻想世界にあったPhantomを1人で踏破しそうになっていたくらいだからな。おかげで顕現がだいぶ遅れたよ。あいつが強化される前に、王と共に我々が討つ」


「まあ、見かけによらず慎重ですこと」


「それに、人間の協力者は得られまして?」


「ああ。名を響ノリカ。なんでも交尾の映像を売る仕事をしているらしい。二鷹世界にプライドを傷つけられたようでな。すぐに賛同してくれたよ」


「王が目覚めてPhantomから外に出れば、この星もおしまいだというのに、人というのはわからないものですわ」


「まったくですわ。それとエッフェル塔Phantomからの王の鼓動にお気づきでして?」


「ああ、勿論だ。むしろやっとだな」


「ふふふ、楽しみですわ。この星を火の海に変えることが。あんっ」


 ミサミサは乳房を愛撫しながら首を噛むと喘ぎ声を一層強めた。


「はあ……俺は赤きPhantomの建造に戻る。そろそろ作れそうだ。上手くいけばそちらでも亜種の王が目覚める。お前らは引き続き混沌を集めて、スカイツリーに注いでくれ」


「畏まりましたわ」


「言われなくてもやりますわ」


「あっ、そこもっと」


「んんっ、んあ」


「じゃあな。ほどほどにしとけよ」


 ライドンはスカイツリーから一気に降下し、レッドPhantomに変えられそうな建造物、もしくは空き地を探した。

 空が白んできた頃、良い空き地を見つけると、そばに人間がいることに気付く。しかもphantomレーダーを開いているようだ。


 「あの女を生贄にするか」


二鷹世界を確実に封じることが出来ると思っていたレッドphantomは、意図も容易く攻略されてしまった。しかし、あの程度の名前も知らない女であれば、問題ないだろう。階層も上がっているし、上手くいけば二鷹世界も呼び寄せられるかもしれない。

 ライドンは空き地に手を向け、集めた混沌にスキルを重ねて、レッドphantomを作成した。


「え! 急に出てきたけど、真っ赤なPhantom? んー、5階建てだから私でも大丈夫だよね。一応マネージャーに連絡いれて、一狩りいきますか」


 広瀬美希は背伸びをして、早朝日課にしている低層階のPhantom巡りでのレベル上げに向かっていた。二鷹世界に必要とされるためだ。 

 しかし、それが地獄の門だということを彼女はまだ知らない。


 第一刊 完


         ⭐︎⭐︎⭐︎

 ご愛読頂き、誠にありがとうございます。

 君のためなら生きられる。です! 


 今回のお話で10万文字を超え、単行本1冊分になります。ここまで執筆を続けられたのは、ひとえに読者の皆様のおかげです。

 本当にありがとうございます! 


 一度ここで更新を止めて、書き溜めを作ってから第二巻へ進みたいと思っています。 

 少々お待ち下さいませ。

 進捗については、ユーザーフォロー頂ければ近況ノートでご報告しますので、ぜひフォロー頂けると幸いです。 


 また、再三になってしまい申し訳ありませんが、こちら2/7までのカクヨムコン8に参加しております。

 読者フォローとレビュー数でコミカライズや書籍化が決まりますので、少しでも楽しんで頂けた方は、星を押して頂けると泣いて喜びます。 


 それでは皆様、ご愛読ありがとうございました!

 レビューはこの下から出来ますので是非。

 第二刊でお会いしましょう!


 君のためなら生きられる。 より



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