6話 フラれた男子は隣になった女子から知られていた

 ある日の放課後、席替えをした。


 葵音との関係はもちろん修復できていないが、ここは一度距離を取った方がむしろ適切な気がする。


 ここが変わった自分を葵音に見せることができる絶好のチャンスでもある。


 くじ引きを引いた後、各々席を移動させる。


 席の移動の際には葵音とは特に何も話さなかった。いや話せなかった。


 気まずすぎるが、今は我慢の時だ。


 

 俺の席は、窓側の一番後ろ。


 葵音の席は、廊下側の一番前。


 対極にも対極である。


 もうこれは一定期間距離を置けという神様からのお告げだろう。受け入れるしかない。


 少しがっかりして、気分を落ち込めていると

 

 

 俺の前の席になった大輝が


 「おー!絃羽が後ろはでかい!!!」


 テンションMAXで言ってきた。


 「俺も大輝と一緒で嬉しいよ」


 素直に"友達"が近くなのは嬉しい。


 そして、葵音のことについても相談がしやすいので、そういう面でも良かった。


 

 そして、



 「あ、あの、よろしくね!絃羽くん!北小春っていいます!」


 隣から声が聞こえてきた。


 ちょっと震えた声。


 どこか柔らかい。


 葵音の多少の凛々しさが含まれている声とは違う、少し脆い感じ。


 聞くだけでジブリの世界に身を置いたように感じる。


 

 俺の心臓が鼓動を強めている。


 しかし、俺はこんなところでまた人見知りを発症するわけにはいかない。


 物恐じしてるわけにはいかない。


 あっちも言い方的に結構勇気出して言ってくれた感じだった。


 だから、まずは目を合わせて

 

 「う、うん!こちらこそよろしくね!小春さん!」


 すると、小春さんは驚いたように固まった。


 え?え?これどういう固まり方?


 キモすぎて固まってるのか、それとも意外にも俺がフレンドリーに話したからなのか、俺の声がデカすぎたのか、それとも、、、、


 思い当たる節が多すぎて挙げ出したらキリがない。


 一層高まり出す鼓動を必死に抑えながら平静を保っていると


 大輝が


 「小春が自分から話しかけいくなんて珍しいな どうした?絃羽に惚れたのか?」


 大輝がそう言うと、小春さんはハッとして


 「ちーがーうー!私だって人見知り克服しようと頑張ってるの!」


 小春さんは顔をさくらんぼみたいな色に赤らめて、そして頬を膨らませながら大輝に怒っている。


 気になったので質問してみる。


 「2人結構仲良いの?」


 大輝が


 「お、言い忘れてたな!まあ、小学校から一緒だから結構長い付き合いなんだわ」


 小春さんは


 「へへ ごめんねー いつもこんな感じだから気にしないでね」


 と恥ずかしそうに言う。


 こんな感じで一連のやり取りを終え、みんなは各々部活に行ったり、帰宅したりしていた。


 大輝も部活に行ってしまった。


 

 さて俺も帰ろう、と思い席を離れようとした次の瞬間、誰かに袖を掴まれた。


 

 「ね、ねえ、絃羽君、ちょっといいかな?」


 

 震えた声が後ろから聞こえてきた。


 振り返るとそこには、恥ずかしそうに俺を見上げる小春さんの姿があった。


 まんまるな可愛らしい目が俺を見上げる。


 袖を握っている小さな白い手は小さく震えている。


 俺は驚きのあまり、硬直してしまい


 「ど、どうしたの?」と聞いた。


 すると小春さんは一呼吸おいてこう言った。


 


 「私の事覚えてない?」




 ん?え?どういうこと?


 頭が混乱している。


 過去に何かしらの関わりがあったのか?


 でも、俺の頭にはそんな記憶はない。


 「え?どういうこと?」


 もう聞くしかなかった。


 思い出せないことは失礼かもしれないけど、このまま思い出せずに黙ったままなのも良くない。


 そして本当に俺と小春さんが昔出会っていたならば、俺は小春さんを思い出せなかったことを謝らなければならない。


 

 俺が聞いた後小春さんは少しもじもじして早口で


 「だ、だよね! いや、何でもない!忘れて?」


 「ごめんね!変なこと聞いちゃって


 私もう帰らないとだからじゃあ!またね!」


 「あ、、、じゃあね」


 小春さんは落ち着かない様子で小走りで教室を去って行く。


 結局小春さんがなぜあんなことを言ったのか分からなかった。


 

 ただ、一つ気になったことがある。


 帰って行く小春さんはどことなく寂しそうだったことだ。


 

 何か腑に落ちないまま教室を出ようとすると、慌てるあまり小春さんが机の上に忘れていったメガネが俺の視界に入った。


 普段は外しているが、授業の時とか、必要な時はかけているというイメージが俺にはあった。


 届けるかどうか考えた。


 でも俺はこのモヤモヤした気持ちに整理がつけられず、俺は迷いながらもそのメガネを持って小春さんを追いかけた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転校先で再会したフラれた男子とフッた女子 紙ト六五 @RIti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ