蛇口

Tempp @ぷかぷか

第1話

 じゃらじゃらと水が流れる音で目が覚めた。

 蛇口でも閉め忘れたかなと思って体を起こす。寝起きで頭は少しぼんやりしている。なんかだるいけど、閉めなくっちゃ。そう思ってなんとか体を起こしてシンクに行くと、水は出てなくて小さな蛇がいた。

 その蛇がじゃらじゃら言っていた。体長は10センチほどの見知らぬ蛇。

「どっから来たの」

 なんとなく、そう聞いても蛇はじゃらじゃらと言うばかりで、こちらをじっと見つめている。

 蛇をどこかに移さないと、でも手を出したら噛まれるかな。そんなことを思って手を伸ばしたり引っ込めたりしていると。

「もう少ししたら出て行きますよ」

と蛇から声がした。

「どうやって出ていくの?」

「私はこの蛇口から来ましたから、この排水溝に流れます」

 排水溝に? 詰まってしまわないかな。

「細いから大丈夫ですよ」

 不安に思っていると、小さな蛇は僕の考えを読んだかのようにとそう言った。確かに蛇の胴回りは5ミリほど。これなら大丈夫なのかな。


「ところてなんで蛇口からでてきたの?」

「蛇口には蛇がいるものですよ」

「そうなの?」

「そうじゃないと水の音がしないじゃないですか」

「そうなの?」

「そうですよ」

 試しに蛇口を捻って水を出してみても、確かに何の音もしなかった。蛇は飛沫を嫌そうに避けたので、すぐに水を止めた。しばらくすると、蛇はじゃらじゃら言い始めた。ああ、水の音って、蛇が出してたんだ。

「それではそろそろ失礼します」

「あ、うん、さようなら」

 蛇はぺこりと頭を下げて、水と一緒に排水溝に流れていった。

 蛇がいなくなったせいか、僕の家の蛇口を流れる水からは音がしなくなってしまった。


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