第15話 キセル疑惑は晴れ、さらなる精進へ。
ところで山藤さん、堀田の奴、ホンマに二等車に乗ってきました?
そう言いつつも、かもめには乗ったけどやっぱり三等車とか、あるいは普通列車でこっそり姫路入りとか、そんなキセルまがいでもしてやせぬかと(苦笑)。
渡辺氏と山藤氏はこの日が初対面であったが、すでに打ち解けている模様。
堀田氏の弁護人的な立ち位置で、山藤氏が即座に文書を提示して反論する。
「渡辺さん、それは間違いない。私が証人です。領収書に加えて、ちゃんと切符も確保しておりますから。鉄道趣味界で高名な渡辺さんでしたら、すぐご理解いただけましょう」
山藤氏は、2人分の二等運賃の乗車券と特別二等車の特別急行券を提示した。
乗車券のほうには、すでに無効印が押されている。
丸眼鏡を少しずらして、渡辺氏は切符と領収書の文字を追う。
米屋の税務対策用の領収書と無効切符は、新任教授の危機を救ったのだ。
各文書の文字を追い切った渡辺氏は、ビールを少し飲み、穏やかな声で述べた。
確かにこれは、岡山駅発行の乗車券と特別急行券、それに本日付領収書です。
堀田君は、これで山藤さんと特ロに乗って姫路入りされたのですな。
からす、もとい、「かもめ」の特ロ、特別二等車は、東海道の「つばめ」「はと」程は混まないから、当日でも何とか間に合うみたいで何よりでしたね。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
「さすがに帰りは、各停でのんびり帰ろうかなとも思っていますよ。また急行の食堂車に入り込んで飲んでしまっては、あとが仕事になりませんから」
堀田教授のその言葉を継いで、石村教授の母が一言。
「それがよろしゅうございましょう。出世列車も特別二等車も大いに結構です。ですが堀田先生、どうぞ、初心を忘れられることなく、これからも、御精進なさいませ」
これまで黙っていた堀田教授の母が、石村教授の母に、丁重に、御礼を述べた。
「石村さん、以前うちの息子がお世話になったようで、ありがとうございます。おたくの修(おさむ)さんほども出来の良い息子ではございませんが、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
軍服姿の青年の遺影は、その酒席中、決して、笑顔を絶やすことはなかった。
ばら寿司は特ロに乗せて 与方藤士朗 @tohshiroy
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