第3話 飽き性
「あぁ、何か楽しいことないかなぁ」
見事オークを倒したクーラは、下馬評通りオーク討伐に満足し剣を使っての戦闘に飽きてしまっていた。
「もっと強くなりたいけど、剣飽きたなぁ。なんか楽しいことないかなぁ」
動画で他の武器指南動画を見漁る日々が続いてしまっている。しかし短剣や棍棒に興味は惹かれず、ドラゴンと戦ったとしても恐らく長剣よりも打点が低いだろう。
「弓や銃を使うくらいなら魔法でいいしなぁ……あ、魔法だ!!」
雷が落ちたかのように衝撃が脳内に走る。ピンときた。
行き先も定まっていないまま体は外へと引っ張られていく。頭のターコイズブルーを整え、深紅の剣と子盾も忘れずに。
「いらっしゃい、何探してる?」
入店したのは防具屋。この間のオーク戦で防具が必要だと学んだので、忘れない内に買っておくことにする。
防具屋の方は武器屋と違い、華奢な女性店主が勤めていた。
「皮装備一式ほしい。それと……」
ノープランで家を出たクーラは、もう一つのメイン目的について一つ尋ねる。
「ここらで魔法を教わりたいんだが、いい人を知らないか?」
もちろんこれまでに独学で学ぼうとしたことはあった。お得意の動画サービスを使っても、学んだことは魔法は動画では学べないということ。どうも最初に伝授をしてもらわなければならないらしい。
「知らないね。実力のある人を探すなら酒場に行ったらどう? こんな辺鄙な村の酒場じゃあまり繁盛してないかもしれないけど」
その手があった。
栄えた村や町の外にモンスターが蔓延るこの世界は、いわゆる冒険者の数は少なくない。そんな人たちが休息したり仲間を集める場。
人が少なくても行ってみる価値はありそうだ。
またクーラは仲間を集めるということすら頭になかったため、魔法の伝授と仲間集めが次の目的となった。
「あぁ行ってみるよ、ありがとう。じゃあ……」
「皮装備を忘れてるよ」
「あっ」
慌ててターンし戻る。
恥ずかしさに顔が紅潮していくのを、強張った顔の筋肉と体温の上昇が証明している。
目を合わせずそれを受け取り、そそくさと店を出る。
皮装備一式を身に纏い、次に向かう場所はバレン村酒場。
酒場に近づくにつれ、談笑の声が大きくなっていく。昼間だが中は盛り上がっているようで安心する。
お邪魔しま——
ガチャッ。
「おう、すまん。皮装備に脆そうな子盾。ルーキーだな」
酒場に入ろうとするタイミングで先に中から出てきた人物。身長が高めのクーラの顔がその人物の胸に目線が合うほどの巨体だった。見るととても大柄な赤髪ウルフの戦士で、目が痛い金の鎧を身に纏い背中には大斧を背負っている。
何も聞かなくても分かる。この人はめちゃくちゃ強い……!
「俺は十日ほど前に始めたばかりの新人で、魔法を伝授してくれる人とパーティになってくれる人を探しにきたんだ。よかったら一緒に……」
「俺の名前はフェルテ。王都から派遣された一級撃退部隊のリーダーだ。俺らの仲間に魔法使いがいるが生憎今は一緒じゃなくてな、申し訳ねえ。まぁそもそもそんな時間もないかもしれねぇが……俺たちはここ最近出没したと言われる赤竜について調査しにきたんだ」
想像通りというか、想像以上というか。トップ層のお出ましに緊張が走る。
しかしどこか少し妙だとすぐに感じた。怪訝な顔を察知したのか、フェルテもまたすぐに口を開いた。
「赤竜の出没はコルド村。ここは二つ隣のバレン村なのになぜ、そう思っているな。心配すんな。次にバレン村が襲われるだなんて言わねぇ。この間の出来事で恐れを成したほとんどのコルド村の人々が、ここ数日で隣のアンダ村やここバレン村に身を移しているんだ。そういう人たちに話を聞こうと思ってな」
なるほど、それでこんなに酒場に人がいたのかと納得する。またクーラのように自分で戦えるようになろうと新しく訓練を始めた者も多そうだ。
「なるほどな、調査頑張ってくれ。ところでドラゴンってどのくらい強いんだ?」
素朴な疑問にフェルテはポカンとした顔で当然のように言った。
「どれくらいって。村を破壊するぐらいだろう」
普通のことを言われた、のになぜか呆然とした。戦闘をかじったこと、オークと戦ったことでその強さがよりリアルに想像できるようになっていた。
どのくらいの迫力でどのくらい恐ろしいか。
うんと頷き、起きた事実を噛み締めて酒場の扉に触れる。
「ありがとう。俺も頑張って強くなるよ」
「おう、じゃあな」
そうしてフェルテと別れ、目的を果たしに酒場へ入る。
少しモチベーションが上がったクーラだった。
器用貧乏でもあのドラゴンを倒したい! クアレンタミル @Teppe0412
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