第2話 実践
「ほうほう、腕はこうして足は……」
今の時代、基礎レベルなら独学で簡単に学べる。
クーラは静かなで公園で、右手に深紅の長剣を、左手に長剣指南動画を流したスマホを装備し、一人訓練に励んでいた。
お手本を見て素振り、お手本を見て素振りの繰り返し。
また動画に残して確認したりもする。便利な時代になったものだ。
そうしていくうちにボクシングのように足や腰の使い方が大事だということを学んだり、時々動画を撮影するなどして戦闘フォームはみるみる内に綺麗になっていった。
飲み込みの早さには自信がある。故に器用貧乏なのだ。
そして実践。
最弱であるスライムは動きの遅さから初戦でも全く驚異ではなかった。学んだ戦闘フォームで斬り込むと簡単に真っ二つに斬ることができた。そこから斬る感覚を学ぶ。
次にゴブリン。戦うとイメージよりもすばしっこさと少しの頭脳が持ち合わせており、初めは倒すのに時間がかかった。そこから自分のスピードの遅さを認識する。
そういう学びを得ながら五日ほど練習をこなしたところ、最初よりも更に戦闘フォームが綺麗になったことでパワーが増し、実践をこなすことでフットワークも軽くなりスピードの上昇を実感する。
初日に苦戦したゴブリンも五秒あれば倒せるくらいの大成長っぷり。
「おい誰かいないか! 助けてくれ!」
「ブォオオーン!!」
フッと息をついていた時、村の入り口から慌てふためいた村人の悲鳴と何者かの悍ましい重低音が耳に届いた。
長剣を背中に背負い、慌てて駆け寄る。
泥のついた茶色の体毛、ひくひくと何かを嗅ぐ大きな鼻。村の離れにある森に生息しているはずの巨大なオークが村の入り口を隠すように佇んでいた。
「そこを離れて! 俺がやる」
人前で見せる一戦目。気合を入れて走り、そして踏み込む。柄を握りしめオークの首元を狙った一撃。
「ブォーン!」
オークは動きは遅く、クーラの渾身の一撃が見事にオークの右首元に命中した——が斬れない。
泥のついた体毛は乾いて鎧のように固まっていた。
「くそ、ただ斬るだけじゃダメか——ウッッ」
斬った後の隙をオークの頭突きが見舞う。腹部が貫かれたかのような衝撃を受ける。
「ぐあっ!」
五メートルほど飛んだか、生きてきてここまで吹っ飛ばされたのは初めてだ。
体の至る所に擦り傷ができ、腹部の鈍痛と合わせて全身が悲鳴を上げ始める。
防具を買っておくべきだったと反省しなければならない。
——せっかく命中したのに、一発で刃を通すことの出来ない相手とは。
先ほど一撃叩き込んだオークの右首元には刃の痕がくっきりと残っている。次は確実に斬れる。全く同じ箇所を狙い、確実に。
クーラは体を痛めながらも素早く立ち上がる。まだ一撃を食らっただけだ。
オークは次の行動に移ろうとしている。右足で地面を掻く動作。間違いない、次にくるのは突進だ。
そしてこの行動は小回りが効かないということもなんとなく知ってる。
深呼吸をし集中する。対ゴブリンで身につけたフットワークを見せる時。
「ブブォオオオン!!」
息を整えると同時に予想を上回るスピードで正面のオークがクーラの体を目がけて走りだす。
タタッタタッタタッタタッ——
ゴブリンを遥かに上回る物凄いスピードだ。
——少し踵を浮かせる。
——集中する。
タタッタタッ——タタッ——
凄まじい集中力でオークの一歩が明確に聞き取れた瞬間、オークが地面を蹴るのに合わせた完璧なタイミングで真右に飛ぶ。オークとの距離、僅か一メートル。
「じゃあっ、な!」
綺麗に脇をとり無防備に晒し上げられたオークの首元に先ほどよりも冷静に強烈な一撃を叩き込む。
「ブワァアーン…」
その見た目からは想像し得ない真緑の血が吹き出しのそりと倒れ込む。緑に染まったその様は動物ではなくモンスターだったのだと実感させられる。
——疲れた。
全く大物ではないただのオーク。勝負も二撃で決まったが、超集中による疲労と全身の擦り傷、腹部の鈍痛が切れたアドレナリンにより体を襲い始めるのはもう少し後の話。
「ありがとう!」「サンキュー!」
傍らで見ていた数人の村人たちの少ない歓声が疲れた体を癒す。こんなに気持ちいいことは滅多にない。偉大な達成感を感じながら帰路につくクーラであった。
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