器用貧乏でもあのドラゴンを倒したい!

クアレンタミル

第1話 そうだ!

 暇だ……なんか面白いことでもないかなぁ。


 いつも通りの時間に目を覚まし、いつもと同じ天井が視界に入る。

 無造作なターコイズブルーの髪と死んだ藍色の目が自分の体たらくを表していた。ここのところ動画を見るだけで終わる日々が続いていた。


 それでも、何かをしたいという好奇心は常に持ち合わせているのだ。


 二ヶ月前にサッカーボールを買いリフティングを練習、五日で百回を達成し満足して終了。

 先月はギターを買ったが二日で初心者の壁と言われるFコードを習得、五日でメジャー曲のカバーを完成させ満足して終了。


『—先日、コルド村に突如現れた赤竜により村は半壊、住民はパニック状態に陥り—』


 不意にテレビから聞こえてきたニュースの一部。

 コルド村は今いるバレン村から南に位置している二つ隣の村だ。

 今何をしたいというものはない、人生目標もない。ただひたすらに何かがしたい。

 

突如雷が落ちたかのように脳内に衝撃が走る。超難問クイズの答えが急にスッと頭に降りてきた時ような衝撃……ピンときた。これだ。

 死んだ藍色の目に魂が宿っていく様を自分自身で感じるほどに興味と期待が沸く。


 ——そうだ、ドラゴン倒しに行こう。




「いらっしゃい、朝早いね。何探してる?」


 バレン村唯一の小さな武器屋。先ほど整えたターコイズブルーの短髪を揺らし入店した。


「どでかいドラゴンをも倒すことのできる剣が欲しい」

「ドハハハ! そりゃ面白い。あぁ馬鹿にはしてねえよ。俺ぁ威勢のいい奴が大好きだ」


 自分の体の倍はある大きな巨体の店主とその笑い方から、まさにイメージ通りのファンタジー世界の職人らしさを感じられた。


「それならリーチもある長剣がいいだろう。こっちだ。好きなの選びな」


 ずらり無造作に並べられた長剣の数々がこの商人の性格をよく表している。

 その中でも一つ明らかに目を引く深紅の長剣が奥に、大きな存在感を放っていた。見比べや使い比べをしていないが、確実に惹かれる何かがその剣にはあった。


 こういうものは性能云々よりも見た目で選定するのがベターだろう。


「この剣は少し値が張るが…リーチも長く軽くて扱いやすい。何より属性を付与出来るのが魅力的だ。まあそこまで使いこなすのはちとハードル高いけどな」


 形から入るタイプだから新しく始めることに金は惜しまない。使い方によっては強力そうだし、何も不満は感じなかった。

 直感は間違っていなかったのだと、喜びと期待で自然と笑みが溢れる。


「これにするよ。あと軽めの盾だけ頼む」

「まいど、君名前は?」

「クーラ。ドラゴン討伐が新しい趣味さ」

「ドハハ、やっぱ好きだぜ。ドラゴン倒したらまた寄ってくれよな。ほんじゃ、良い冒険ライフを」


 そうして武器屋を去ると、背中に背負った深紅の長剣と左腕に携えた子盾をドアの反射で確認する。容姿は立派な見習い戦士だ。


 ここからクーラのドラゴン討伐の旅が始まる。

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