第45話「ヨサク、オルドス村に帰る」

 ちなみに、魔女リタのお願いは王家の秘蔵の宝物庫や書庫の中身を見たいという地味なもので、聖女クラリスの願いは地方を周って慈善事業をする資金的な支援であった。

 勇者パーティーは、世界を破壊神の災厄から救うという目標を達成して、それぞれ新しい道を進んでいく。


「それでは、私はここで失礼いたします」


 王都からオルドス村までは、馬車で一ヶ月もかかる。

 途中まで同行した聖女クラリスも、北方ノースサイドに入る頃にわかれた。


「オルドス村にもぜひ寄ってくださいね」

「ええ、必ず」


 聖女クラリスの行く道は過酷だ。

 辺境には、この度の災厄で傷ついた地域はたくさんある。


 それらの街や村を一つずつ周って、人々を癒やしていこうというのだから、また長い年月のかかる旅となるだろう。

 ようやく懐かしいヒルダの街について、リリイ伯爵夫人とも会ってきた。


「リリイ様が、オルドス村に帰ったら、驚くことがあると言ったけどなんだろうな」


 急ぐ旅ではないが、つい足は早くなってしまう。

 季節は、厳しい冬を越えてすっかり春だ。


 遠方に、懐かしいオルドス村が見えてきた。


「ああ……」


 オルドス村が、すっかり見違えている。

 村々の建物は綺麗に直されており、やぶれかぶれだった村の柵までもが、かつて賑やかだった頃の村のように綺麗になっている。


「やったぁああああ! ルーラルローズ男爵領、完全復活ですわぁああああ!」


 シャルロットは、馬車の屋根に飛び乗ってぴょんぴょん飛び跳ねておおはしゃぎだ。


「おーい!」


 ヨサクたちは、村で忙しく働いている見知った顔の村人たちに手を振る。

 リリイ伯爵夫人の支援があって、ヒルダの街に逃げていた住民たちがみんな戻ってきたのだ。


「ヨサクさんたちがもどってきたぞ!」


 村人たちは歓声を上げて、我らが小領主と村の英雄を出迎えた。

 子供たちは、ヨサクに口々に言う。


「ねえ、お土産は!」

「王都はどうだった、どんなところだった!」


 それを、まあまあと落ち着かせながら、マジックバックから王都でもらってきた豪華な料理やお菓子を配って、思い出話に花を咲かせる。

 村人たちは、珍しい料理に舌鼓をうちながら、飽きることなくヨサクのとんでもない話に驚いて耳を傾けるのだった。


 まるで、オルドス村が昔に戻ったみたいだ。

 荒廃していた他の四つの村にも人が戻ってきて、今急速に復興が進んでいるらしい。


 まるで、全てが元通りになったみたいだ。

 夢じゃなかろうか。


 こんなことがあっていいものだろうかと、ヨサクは幸せな気分になる。

 もちろん村が復興しても、取り戻せないものもあるけど……。


 それでも、きっとこれから観光客とかもきて村はもっと賑やかになっていくに違いない。


     ※※※


 そうして、懐かしい温泉にもしっかり浸かり長旅の疲れも取れた、次の朝。

 ヨサクはさっそく、早朝から元気に家を飛び出していく。


 それを見つけて、フレアが聞く。


「ねえ、ヨサクはこれから何をするの?」


 何をって、決まっているではないか。


「リリイ伯爵夫人に、たくさん炭を借りただろう。まずそれを作って返さなきゃならん」


 返さなくていいと言われたが、貸し借りはきっちりしとかないと。

 ただでさえ、リリイ伯爵夫人にはお世話になっているのだから、面倒をかけっぱなしでは申し訳ない。


 あとは春になれば農作業もあるだろうし、これからもっと忙しくなる。


「ヨサクらしいね」

「ああ、どうやら俺はこれが性に合ってるらしい。フレアも手伝ってくれるか」


 もちろんと、フレアは笑っていう。


「ヨサクは、次はボクに何を教えてくれるの」


 そうだった、ヨサクはフレアの先生マスターなのだ。


「教えることか。そうだな、春になれば森にはいろんな山菜が取れる」


 フィアナのばあさまが、今年は春から豊作になるって言ってたからな。

 きっと山にはわんさか食べるものが生えてるだろう。


「どんな山菜。どんな料理にするの」

「そりゃ、調味料とか食材もいっぱい買ってきたからな。豪勢に、わらびのバター炒めなんてどうだろう」


 そう聞いて、よくわかんないけど美味しそうとフレアも笑うのだった。

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田舎に帰った元冒険者ヨサク 〜引退したのに、なぜか勇者の先生に!?〜 風来山 @huuraisan

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