49 思いがけない再会

「ごめん、なさい……!」


 ミーシャが滅茶苦茶落ち込んでいた。

 ちょっと前にも見たというか、まだ玄無に負けてから半月も経ってないのに敗北の上塗りだ。

 しかも、どっちも戦いもミーシャに多大な責任がのしかかってた。

 ユリアはミーシャを胸に抱いて「よしよし」とする。

 小さい頃の妹にやってたみたいに。


「ミーシャ殿、何を落ち込むことがあるのかね?」


 そんなミーシャに対して、欠片も揺らいだ様子のないバロンが、優雅にヒゲを触りながら、そんなことを言う。

 彼だって悔しい思いをしたはずなのに、なんという強靭なメンタル。

 あんたのメンタルは、オリハルコンか何かか。


「忘れてはいないかね? 我々はなんのためにこの国に来た?」

「……強く、なるため」

「その通り! 力が足りないことなど玄無との戦いでわかっていただろう? それを補うために来たのだ。解決策を既に思いついているというのに、どうして落ち込む必要があるのかね!」

「…………そうね。言われてみれば、その通りだったわ」


 バロンの言葉で、ミーシャは立ち直った。

 俺の胸から離れ、涙を乱暴に手で拭い、強い目でフォクスフォリアの去った方向を睨む。


「今に見てなさい、あの狐女……! 次に会った時は、私の炎で消し炭にしてやる! このミーシャ・ウィークをここで仕留めなかったこと、絶対の絶対の絶対に後悔させてるわ!!」


 泣き跡の残る顔で、気丈にリベンジ宣言をかますミーシャ。

 焚きつけたバロンが満足そうに笑い、ラウンも心底ミーシャに同意するように、思いっきり首を縦に振ってる。

 そんな仲間達に支えられるようにして、こっちも地味にダメージを受けてたユリアのメンタルが回復していくのがわかった。


 ああ、強いなぁ。

 ウチの仲間達は、どいつもこいつも凄ぇなぁ。

 この世界における『勇者』が称号じゃなくて、本来の『勇気ある者』って意味だったら、こいつら以上に勇者パーティーの名前が似合う奴らはいないかもしれない。

 俺もユリアの延命装置的な謎のポジションとはいえ、一応はこのパーティーの一員として気合いを入れなければ。


「よし! では、直近の目的として、フォクスフォリアへのリベンジを目指して頑張……」

「「「うわぁああああああああ!?」」」

「!?」


 一応はパーティーのリーダーとして、俺が「頑張るぞー!」的な声をかけようとした瞬間。

 何人かの人達の悲鳴と共に、空から何かが落ちてきた。

 その落ちてきた何かは、結構なスピードで地面に激突し、派手に爆発四散して炎上する。


「え!?」

「何!?」

「何事!?」


 仲間達も突然の墜落事故に目を丸くした。

 そんな俺達の前で、墜落物から燃え上がっていた炎が一瞬にして鎮火する。

 多分、魔法による現象だ。

 そして、それを成したと思われる一団が、墜落現場から歩み出てきた。


「ホッホッホ! 失敗失敗! やはり、遺物の完全再現にはまだまだ遠いのう!」

「死ぬかと思った……! 死ぬかと思った……! 私が結界魔法を覚えてなきゃ絶対死んでた……! なんてことに巻き込んでくれてんだ、このクソ爺!!」

「あ痛っ!?」


 先頭を歩くのは、どこかで見たことがあるような七十代くらいの爺さんと、その爺さんにポカポカと殴りかかる十代後半くらいの女の子。

 残念なことに、胸部装甲はミーシャと良い勝負だ。

 悲しいなぁ。


「皆さんもすみません! Sランク冒険者の皆さんを、こんなクソ爺の狂気の実験に巻き込んでしまって!」

「ホッホッホ! 生きとるんじゃから、結果オーライじゃろ!」

「黙れぇ!!」

「おぐっ!?」


 そんな二人の後ろから、冒険者風の装備で武装した四人の男女が続き、女の子は彼らに謝りながら爺さんをどついていた。

 老人虐待……。


「……正直、俺も物申したい気持ちでいっぱいだ。あんな危険物に乗らせるのなら、せめて事前に言っておいてくれ」

「仰る通りです! すみません! すみません!」


 その四人組の一人が、虫ケラを見るような目で爺さんを見下ろしていた。

 女の子が爺さんに代わって、必死に頭を下げている。


「まあまあ、爺さんも抉るようなボディーブローを食らったわけだし、さすがに反省してんだろ。これ以上はやめとこうぜ?」

「甘いぞ、ワルビール。俺は自分一人だけじゃなく、お前達の命も預かってるんだ。なあなあで済ませるわけにはいかない」

「ま、グランの言う通りね。でも、ルーンちゃんに頭を下げさせ続けるのは違うでしょ」

「アドリーヌさんの言う通りです。請求はワイズさんにするべきです。というわけで、私も殴っていいですか?」

「どうぞどうぞ!」

「では」

「はうっ!?」


 四人組の一人、白っぽいローブを着た女の子が、爺さんに追撃を加え始めた。

 日頃の鬱憤でも溜まってんのかってくらい過激なビンタだ。

 ……というか、あの四人組に滅茶苦茶見覚えがある。

 ゲーム知識を有する俺だけじゃなく、新参のバロン以外の仲間達全員がだ。

 特にラウンは、彼らを見て大きく目を見開いていた。

 そして、彼は条件反射のように四人組に向かって駆け出していた。


「皆さん!!」

「ん? おお!? ラウンじゃねぇか!」

「え!? ラウンさん!?」

「ラウンちゃん! こんなところで会えるなんて! あ、いけないわ、ヨダレが……!」


 四人組のうち、三人は即座にラウンに反応して、歓迎ムードって感じの雰囲気になった。

 一人は悪人面、一人は悪女っぽい雰囲気のおっぱい様、一人は清楚系ビッチっぽい雰囲気の少女。

 しかし、俺達は彼らが見た目とは正反対もいいところな良い奴らだということを知っている。

 そんな良い奴らのリーダーである、爺さんに虫ケラを見るような目を向けていた剣士の男は……。


「……久しぶりだな、ラウン」


 ラウンに対し、嫌悪感すら浮かんでいるように見える鋭い視線で睨みつけた。

 だが、それは見た目だけだ。

 その証拠に、ラウンは満面の笑みで。


「うん! 久しぶり、グラン!」


 まるで離れ離れになっていた恋人にでも会ったかのような花の咲くような笑顔で、彼に笑いかけた。

 それを見て、爺さんにビンタを食らわせていた少女、カナンの目が輝いた気がした。


 彼らは冒険者パーティー『グラウンド・ロード』。

 かつて、共に『奇怪星』トリックスターと戦った仲で、ラウンの元仲間達。

 辿り着いた賢者の国での思いがけない再会だった。

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