災害
やはり、19時間前に危惧したとおりに災害はやってきた。
帰郷していた兄も、本日帰る予定だったのがパアになった。
(もしかしたら20時台の新幹線で帰ることができるかも?)
いつ、何時だろうがやってきては人の予定を狂わせ、心を折り、蹂躙していく災害。
やはり私はこいつが恐ろしい。
NHKのアナウンサーが叫んでいた。「東日本大震災を思い出してください。」と。
今でも鮮明に思い出せる。
当時、私は小学生。
「6年生を送る会」の練習をしていた。
アルミ製のちゃちなひな壇の上で、ぎゅうぎゅうに固まっていた時だった。
ものすごい揺れ。
地震だ、とは気付かなかった。身体に受けた衝撃は今まで経験した「地震」の比ではなかったから。
教室では、落ち着きのない私を窘める役目だった友人がぎゅうと私の手を握ってきて縋りついた。私の反対側にいた女の子とも手を握った。
私の前の壇には「死にたくない死にたくない」と何度もつぶやくクラスメイトがいた。声の主は、いつも粗野に振る舞っていた派手な女の子だった。
アルミが擦れる不快な音と、なにかがガシャガシャ割れる音の印象が強くて、誰がどんな悲鳴を上げていたかは知らないが、明るい人物から聞こえてきた「死にたくない」の連呼は今でも記憶に残っている。
地震が収まっても、なお揺れている体育館のライト。
とんでもなく高い天井に括り付けられたそれが、あんなにぶらぶらと揺れて天井にぶつかっている姿をもう二度と見ることがないだろう。
あの時は不思議と「これで死ぬのか」と諦観していた。
壊れていくひな壇の上に馬鹿みたいに突っ立ったまま、「もうここで終わるのか」と。
だが地獄は続いた。
停電、断水、寒さ、売り切れて何も買えないスーパーの売り場、避難所…
そして、被災地のニュース。
私が住んでいる地域ですら上記に悩まされた。生きて行くことに必死だった。
ただ、それ以上に津波による被害に遭った人、原発事故により住んでいるところを追われた人、そういった悲惨なニュースが飛び込んでくる。
恐ろしかった。
生きている限り、恐ろしいことを経験しなければならない。
生きていたいなら、恐ろしいことを乗り越えなければならない。
私が経験した以上の恐ろしいことが、世の中にはたくさんあることを目の当たりにした。そして実際に福島から逃げてきた人と会った。
今まで4人の被災者と出会ったが、皆一様に 自分が存在しているそのスペースを少しでも小さくしようとするかのように縮こまっていた。
それでも皆お子さんがいたからか、力強い目をしていた。
とても衝撃だった。人はこんなに強く生きられるのかと。
家族のため、守るべきもののために必死に生きて行けるんだと。
私には無理だと思った。
数秒先に死んでいるかもしれないifの世界が怖い。
きっと生きていれば何度も心を折られるだろう。それでも持ち直せるだろうか?
もう怖い思いをしたくない。だから早く死んでしまいたい。
全般性不安障害と診断され、常に不安感が付きまとう毎日から解放されたかった。
そう、ただ怖いだけだ。生きていると遭遇するすべてのモノが。
私の言う「死にたい」の正体の一つが「恐れ」なのだろう。
いつか訪れる離別、災害、犯罪、悪意、死……
常にこれらへの恐れが私を悩ませる。
必死に生きてきた人に失礼だ。
戦争を生き抜いた人、残された家族。考えるだけで胸が苦しくなってくる。
頑張って生き抜いた先に、なにかあるのかな。
それは生きてみないとわからないだろうな。
強くなりたい。
強くなるには経験が必要だ。何度も打たれて、鉄のような靭性でやり過ごして
いつか鋼の心を手にしたら、その頃にはよい人生になっているだろうか。
自殺という選択肢 キヲ・衒う @HanketsuZoroli
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