バスト・アンサー

渡貫とゐち

しんねんのお話

「なあなあ、貧乳派? 巨乳派?」


 新年早々、久しぶりに再会した友人からの質問だ。

 それを聞いてどうするんだ、とも思ったが、する会話がなくなったところで切り出されたので、友人も絞り出してした質問なのだろう。その善意を無下にしたくはない……。


 真面目な質問ではないだろうし、次へ活かすための踏み台だとすれば、まあ、黙秘するほどでもない質問だ。

 二人きりだし、女子がいれば躊躇うだろうが……隠したい性癖でもなかった。


「貧乳派だ」

「えぇ……」


「なんでだよ……ってことは、お前は巨乳派なんだろうな?」


 もちろんだ! と元気良く、ぐっと親指を立てる。

 別に巨乳派が正解でもないだろ。好みに正解も不正解もない。


「絶対に巨乳の方が良いと思うけどな……でかい方がいいだろ。

 でかいからこそより輝くものだと思わないか!?」


 両手で揉む仕草をする……、公園で二人きりで良かったな……。

 人混みの中だったらお前のそのジェスチャーは危ないヤツだぞ。


「でかいことが完成みたいなところがあるじゃんか!!」

「いや、別に」


 冷たいかもしれないが、その意見には共感できなかった。

 大きさじゃないのだ、ようは『誰が』、そしてどんな『反応』をするかが重要であり、大きさは重要視しない。こいつだって、胸だけを見て人を選んでいるわけではないだろう。


「うぐ、」


「その反応は胸で判断しているな? まあ、嫌われるのはお前だからいいけどさ……」


 好きにしてくれ、だ。


 胸の大きさが、こいつの中の審査の基準として多くを占めると言うのであれば、『大きい』側からすれば有利に働くことになる。

 どれだけ他の部分で他人より劣っていようとも、ただ胸だけが大きいというだけで、こいつの中のボーダーを越えることができる。

 そう思えば、悪いことばかりでもない審査基準である。


 ……そんな審査をしているこいつに気に入られたい女性がいるかどうかは分からないが。


「おまえは貧乳派か……でも、なんでだ?

 男みたいにしか思えな――あっ、おまえっ、男に興味が!?」


「違う。お前が『巨乳』か『貧乳』か、どっちが好きなのか聞くからだろうが……。

 どっちかと言われたら貧乳ってだけの話だよ」


「ふうん。でも、なんでだ?

 バカにしているわけじゃなく、巨乳派からの純粋な興味なんだけどな……」


 貧乳の良さとは?


 と、――真面目な顔で質問された。


「貧乳には天井があるけど、巨乳には天井がない……限界がないからな」

「?」


「貧乳はどんどん小さくなっていっても、マイナスへいくことはないだろ?

『0』までいけばそこで止まるんだ。お前が言ったように、男みたいな胸で止まる……、膨らみこそないが、原形はとどめているだろ。

 だけど巨乳は違う……膨らめば膨らむほど……人の形を失っていくんだ――」


「そこまで膨らむ女の子はいないだろ」


「極端まで突き詰めたらの話だ。仮定の話だ、最後まで聞け」


 友人は呆れた様子だ。

 またか、みたいに溜息を吐く……、

 こっちは真剣に考えてやっているのに、なんだその態度は。


「……音楽プレーヤーがあるとする」

「また話が変わった」


「例えだ。音楽プレーヤーは、手の平サイズまで小さくなってるだろ? もっと小さく、人差し指と親指でつまめるようなお菓子サイズでもあるはずだ……。

 これがさらに小さくなれば、どうなる? 限界は『消滅』だろ?」


「消滅? ……まあ……」


「音楽プレーヤーを大きくしようとすれば、どこまでできる? テナントビルか? 高層マンションか? 惑星規模にもできるだろ?

 もちろん、実現可能かどうかは置いておくがな……際限がない。世界にスペースがあれば、どんどん巨大化させることができる」


「そうなったら差し込むイヤホンもでかくなりそうだな」

「無線でいいだろ」


 って、違う、そんな指摘をしたいわけじゃない。


「……貧乳の限界は消滅だ。だけど巨乳の限界は……ない。地球をはみ出る胸を持つ女性を、俺は同じ人間とは思えない……、化物だ。さすがに化物を好きにはなれないな」


 たとえ胸以外が普通の女性だとしても、難しいだろう……。

 バストアップを見てしまえば、絶対に目に入る『異常』だ。


「でもさ、おれは別に、そこまでの巨乳のことを言ったわけじゃないぞ?」


「どこまでどこの範囲を巨乳として考えているのか、俺はお前の頭の中を見れるわけじゃないんだ、分かるわけがないだろ。

 カップサイズで言ってくれれば、俺も答えられたが、貧乳か巨乳かで質問されたら、化物になることはない貧乳を選ぶ。

 迂闊に『巨乳』と言って、後々、化物の面倒を見なくちゃならなくなるなんて、漫画みたいな結末はごめんだからな」


「地球からはみ出る胸か……、やべえな、想像してもまったくエロくない」


「過度になると感じなくなるんだろうな……だから適度な大きさが一番良い」


 貧乳でもなく、巨乳でもない『普通』が一番だ。


 だけど『普通』と答えればつまらないと言われる……、

 だからどちらかに偏るしかなかった。偏るなら……貧乳である。


 そう、だから信念を持って、貧乳が好きなわけではない。


「そういう考えならおれも貧乳だな……やっぱ、ちょうどいい巨乳が好きなだけで、でか過ぎる胸が好きなわけじゃないしなー」


「お前には信念がないのかよ……」



 新年早々、バカな話である。



 ―― 完 ――

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