第36話 (宣伝もあるよ)「北魏馮太后」を観た話

 カクヨムコンテストに「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625)を応募しました。カクコンは旧作には厳しい場であるのは百も承知ですが、小説家になろうの第11回ネット小説大賞にて、最終選考で落選したのが悔しすぎるので「またチャンスを!」の気持ちです。1万5千作品中の71作には残ったのだから、客観的にも面白さがあるていど担保されてると思います。

 コンテスト期間中に番外編を追加するつもりでもあるので、(このエッセイをご覧の方はほとんど既読では、と思うのですが)この機会にお読みいただけると幸いです。

 本稿で書いてきた京劇・中華の歴史や風俗を詰め込んだ中華後宮×演劇のエンタメ活劇、華やかさも爽快感も詰まっています。書籍三冊分くらいのボリュームがあるので年末年始のお供にも良いかと!


      * * *


 強引に宣伝を挿入したところで、「魁国史后妃伝 ~その女、天地に仇を為す~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330666693315522)の参考資料として視聴した中華ドラマ「北魏馮太后」の感想を述べていきます。

 「北魏馮太后」、2006年作のテレビドラマ。全42話。

 三代の皇帝の治世を見守り(そのうちひとりは、史実では殺したことになってるんですけどね)、政治に大いに影響を与えた女性の数奇な人生を描いたドラマ、ということです。軽く総括すると以下のような感じ。



 北燕の皇族の流れを汲む名家馮家は、一族のひとりの敗戦・敵への投降の罪に連座する形で族滅される。ひとり難を逃れた淑儀シューイー(のちの馮太后)は左昭儀さしょうぎとして皇帝の寵を得ていた叔母に庇護され後宮で育つ。

 皇帝の孫であるジュン皇子の学友に抜擢された淑儀シューイーは、漢人の学者崔浩ツァイ・ハオのもとで学び、国の在り方について考えていく。

 ジュン皇子は即位して文成帝となるが早逝、後を継いだ献文帝も対立する鮮卑の名族と漢人官僚の間で政治に倦み、陰謀に巻き込まれた末に自害(上述したように史実だと馮太后=淑儀シューイーによる暗殺)する。さらに後を継いだ、淑儀シューイーにとって義理の孫にあたる孝文帝ホンは聡明で寛大、慈悲深く、時に功を焦り血気に逸りつつも彼女の理想に近い道で国を導いていく。

 寵愛争いや対立する者たちとの政争に明け暮れ、愛する者を多く失った淑儀シューイーだが、孝文帝に希望を感じつつ、彼に魏の将来を託して世を去る。



 こうして圧縮しただけでも波乱万丈な人生で、ほぼ史実に則ったストーリーでここまでイベント盛りだくさんなのはさすが大陸! という感じがします。

 さらには、この時代の有名人である花木蘭ファ・ムーランも登場してシューイーの兄とロマンスを繰り広げたりと恋愛要素もあれば、時代的に当然のことながら戦争の描写もあったりして、盛りだくさんな内容で、話数的にも大河ドラマのような作品だったのかもしれないですね。


 衣装・調度・建築等の描写の参考になれば、というのも視聴の動機のひとつだったのですが(もちろん考証については別途自分でも確認するとして)、さすが本場だけあって、かつWikiによると制作費用をかけただけあって豪華でしたね! 特に女性の衣裳や髪型、色鮮やかなだけでなく形もデコラティブで変化に富んでいて、かえって小説の描写としてそこまで書き込むのは難しかったりするくらいに眼福でした。

 建物についても、しばしばフィクションのモデルにされる唐や明・清よりも前の時代、かつ遊牧民族をルーツに持つ国家ということで素朴さや質実剛健さを感じました。あと、この時代はまだ椅子に座る文化がないので、みんな床に座るスタイルなのが時代を感じますね。拙作でも一応それを前提にした描写にしております。




 また、鮮卑族と漢族の違いがひと目で分かるのもこの時代のこの国ならではのことかと。

 きっちり髪を結っている漢族に対して、鮮卑族は「胡族」らしく髪を降ろした人も結構いたし、袍衣と胡服などの衣服、冠の形も民族の違いを現していて面白かったです。(鮮卑族の皇族が、よくチョウチンアンコウを思わせるポンポン飾りのついた冠を着用していたのはいったい何だったのでしょう……たぶん考証もとがあるのでしょうが……)


 ストーリー中においても、既得権益を握る鮮卑族と、改革を試みる漢族の対立が大きな軸のひとつとなっていましたね。この辺り、鮮卑族の皇族や王族はしきたりに囚われ私欲に囚われた頑迷な人々で、国の将来を思う漢族官僚が唱える改革案(もちろんヒロインの淑儀シューイーはこっちを支持している)を卑劣な陰謀で妨げる──という構図が何度も繰り返されたのにはややうんざりしました。

 先に読んでいた書籍だと「北魏の漢化政策とは従来の習俗のすべてを捨て去るわけではなく、複数の民族を統治する必要上、巧みに取り入れた方便であった」というような説明だったものですから……(前話参照)。このドラマが制作されたころはそういう漢族優位的な理解が主流だったのか、それとも中国のことだから「漢民族の文化は素晴らしい!」という方向にしなければならなかったりするの……? とちょっと悩んだりもしました。




 なお、北魏史のざっくりした流れは頭に入れてから視聴に臨んだのですが、それでも最初は誰が誰だか分からなくてちょっと混乱しました。なぜなら字幕の人名表記がすべてピンイン準拠のカタカナだったから!

 ヒロインの淑儀シューイー、有名人の木蘭ムーラン、字面的にも立ち位置的にも分かりやすい崔浩ツァイ・ハオはまあ良かったのですが、イー・フンが乙渾おつこん、ゾン・アイが宗愛そうあいのことだと気付くのにしばらくかかりました。書籍で中国史ものだと人名は音読みであることがほとんどなので、現在の中国語をベースにしたドラマならではの現象だったかもしれません。


 ちなみに宗愛は太武帝(淑儀シューイーの夫である文成帝の祖父)を殺した宦官なのですが(北魏の皇帝は暗殺等で天寿を全うしなかった人がほとんどです。怖いですね)、鬚のない男性という時点で宦官であることを想起すべきだったのかもしれません。

 フィクションの世界だと中華ものであっても鬚のない男性がほとんどですが、文化的には普通は鬚を蓄えるものですよね……。とはいえ、ドラマ中でも文成帝をはじめとしたヒーロー枠の男性登場人物は皆すっきりした顎まわりだったので「髭はむさい・美しくない」という概念は現代の日中両国に共通していそうな気がします。という発見でした。



 そのほか魁国史后妃伝の執筆の予習としては、作品のテーマである「子貴母死しきぼし」(皇太子の生母は死を賜る)と、北魏史を調べていて気になっていた金人鋳造きんじんちゅうぞう(皇后冊立の際など、候補者に金人を鋳させ、その成否によって吉凶を占う)に注目しました。いずれも考察・ツッコミのし甲斐がある制度というか習慣なので、また回を改めて語りたいと思います。

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