第35話 五胡十六国~南北朝時代難しい……の話

 前回お知らせした通り、中華悪女の復讐譚「魁国史后妃伝 ~その女、天地に仇を為す~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330666693315522)にてカクヨムコンテストに参加中です。

 第三章、起承転結の「起」が終わって「承」に入ったくらいまで公開済なので、お読みいただけると嬉しいです。復讐に燃えるヒロインが着々と敵を片付け、皇帝を篭絡していく様にご好評をいただいております。


 さて。この作品、南北朝の北魏をモデルにしているということも前回語りました。物語の発端・キーワードとなる「子貴母死しきぼし」の制度をはじめ、第三章で描写した遊牧民族系王朝の雰囲気も北魏のそれを大いに参考にしております。


 ここで大問題がひとつ。南北朝時代の前提となる五胡十六国といえば、中国史の中でも屈指のややこしさを誇るとか。漢王朝滅亡後、三国志時代を経て晋の天下が一瞬で終わり、北方からの異民族の流入により(別にこのタイミングで急に攻めてきたわけでもないという話もありますが)諸王朝が興っては亡んだ混沌の時代です。

 すごくややこしいという前評判だけは知っていたので、「花旦綺羅演戯」では主に明代をベースにしていたこともあり、「この時代はパスで^^;」と長らく思っていたんですよね。でも、モデルにするならまったく履修しないわけにはいかないですよね……。この辺り、良い意味で「適当」に混ぜて創作できれば良いのでしょうし、全貌が分かるほど調べ切ることはどだい不可能ではあるのですが、私は型から入りたいタイプの創作者のようです。


 というわけで、「怖いよう」と思いながら何冊か本を読んだところで、まだ諸王朝の入れ替わりも登場人物も人間関係も把握しきれていないのですが。ぼんやりと分かり始めた……というか、これまでもまったく無知だったわけではなかったのですが、いっそう頭に浸透してきたのが、ふんわりと思い浮かべる「中華」というものは、漢民族だけが作り上げたのではない、ということですね。

 そもそも、「中華」が示す範囲からして時代が下るごとに広がっていったわけですし、そこに暮らす民も多様性を増していったわけです。当初は蛮族として見下され、「皇帝」にはなり得ないと考えられていた(自分たちでもそう思っていた)「五胡」たちが、いかに中華の一員・一部としての自覚や自負を持っていったのか、という辺りをもっと学ぶと楽しそうじゃないかと何となく感じ始めたところです。


 その点で言うと、鮮卑族が建て、元来の風習と漢化政策の相克がありつつ華北を統一し、隋・唐への布石を作った北魏の在り方をモデルに架空の歴史を描いてみるのは面白い試みかもしれません。扱い切れるかまだ分からないですが! 個人的にも、国の在り方・民族の気風が変容していくタイミング、新旧の価値観の相克は非常に興味を持つところですしね。


 という知見を得るのに役立った本をご紹介して今回は〆ようと思います。


「北魏史 洛陽遷都の前と後」 窪添慶文 東方書店 2020年

 いずれも短命に終わった五胡十六国が共通して抱えていた課題として

・牧畜民族とは生活スタイルの異なる漢族(農耕民族)をいかに統治するか

・自己以外の諸族との関係をいかに保つか

・自身の統治をいかに認識し、かつ正当化するか

 ……を最初に掲げてくれたため、これがこの時代のテーマか! というとっかかりにできました。

 タイトル通り、孝文帝による改革をメインに扱っているのですが、その義理の祖母である文明太后にも紙幅が割かれていたのが嬉しかったです。長く権勢を振るい、政治的にも重要な助言を行った(一方で皇帝を暗殺したりもしている)女傑なのですが、拙作のとあるキャラクターのモデルになっていたりしますので。史実と比べていただけると面白いかもしれません。


「中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史」 松下憲一 講談社選書メチエ 2023年

 上記でも触れた孝文帝などによる改革は、必ずしも漢化を目指したものではなかった、という指摘が興味深かったです。「北魏史」の指摘にも通じますが、胡族出身の王朝が漢族を含めた複数の民族を統治するためにどんな方策を採ったのか、という観点で見ると「中華文明に憧れる蛮族」というバイアスから離れて、したたかさや柔軟さも感じられるような気がしました。


 また、「中華を生んだ遊牧民」では中国ドラマ「北魏馮太后」の存在を知ることができたのも良かったです。馮太后はすなわち上述の文明太后のことなので、この時代の後宮の風俗が実写で分かるかも! と。幸いにTSUTAYA DISCASで全話見ることができたので、その感想などはまた回を分けて語りたいです。

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