第34話 中華ものの新連載を始めた話

 お久しぶりです。8月から更新が途絶えていたことに気付いて愕然としました。

 この間、和風ファンタジーだったりトルコ風ファンタジーだったりを書いていて、しばらく中華から離れていたからなのですが、第9回カクヨムコンに中華もので臨むことにしたので、また参考文献等を語って行こうかと思います。




 新連載は「魁国史后妃伝 ~その女、天地に仇を為す~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330666693315522)、あらすじは以下の通り。


  かい国には、外戚の禍を避けるために、皇太子の生母は必ず死を賜るという法がある。

 その残酷な法により姉を殺された翠薇すいびは、姉の子が健やかに成長して名君になることを願っていた。けれど、後宮の権力争いにより、その子までもが暗殺されてしまう。

 怒りと悲しみの中で、翠薇はすべてに復讐することを決意する。魁国の法、皇帝、後宮の女たち──そのすべてに。皇后の地位も国母の栄誉も、生きながらにして手に入れることによって、法に盲従した者たちをあざ笑うのだ、と。


 手始めに、翠薇は姉に似た容姿を利用して皇帝を篭絡する。あるいは皇帝の寵愛を笠に着て、あるいは野心を持つ臣下と結んで。競争相手を追い詰め、邪魔者を排除する彼女は、やがて悪女と呼ばれるようになるが──




 明るく爽やかな「花旦綺羅~」と比べると愛憎ドロドロのずっしりした、悪女の復讐譚になります。京劇とも離れてしまうので、このエッセイで扱うのは主題が違うかもなあ、とも思うのですが、中華もの括りで強引に続けます。


 本作の中核・発端となる要素は「外戚の禍を避けるために、皇太子の生母は必ず死を賜る、という法がある国」です。本作、連載前にとある企画で冒頭部分だけを公開したのですがその時は「本当にありそう」「ひどい」「実効性はあるのか」等々の御声をいただきました。どれもまことにごもっともだと思います。


 というのも、この制度は南北朝時代の北魏において実際にあった「子貴母死しきぼし」の制度から着想を得ているからです。外戚の禍を避けるため、という名目も同じくですが、実際にはそれ以外の側面も多々あったようなので「実効性はあるのか」=「実母を死なせたところで外戚対策になるのか~?」という疑問も恐らく的を射ていると思います。残酷な制度であることは言うまでもありませんね。


 この「子貴母死」の制度を知ったのは「中国儒教社会に挑んだ女性たち」(あじあブックス、李 貞徳 著、 大原 良通 訳、2009年)でした。本の主題としては、北魏時代のとあるDV殺害事件を取り扱っています。


 降嫁した公主が、懐妊中にも関わらず駙馬(夫)の暴行により胎児ともども亡くなった事件。

 鮮卑族、すなわち遊牧民族をルーツに持つ皇室の主要メンバーは、公主と胎児の死は皇族への加害であるとして重罪を求めます。一方、漢人の官僚団は儒教倫理に則った「嫁いだ女性は婚家の者になる」という思想のもと、単に「夫から妻子への加害」として法に従った処分を訴える──と、いわゆる胡族の気風を持っていた北魏・鮮卑族がいかに中華的価値観と折衝していったかを、女性の立場や権利に主眼を置きつつ語る、といった内容になります。


 女性も発言権が強く、しばしば権力を握る太后が現れた北魏の気風が隋・唐へと伝わり、やがて則天武后の登場に結実した、という話もとても興味深かったのですが、とにかく印象に残ったのが子貴母死の制度でした。だって明らかにひどいですから。

 外戚の禍を避けるため、とは言いつつ、母を知らずに育った皇帝は乳母を慕って皇太后並みの待遇を与える、そしてその乳母(保太后と言ったりするそうです)は権勢を振るい政治に口を挟む、という記述を見れば「えっじゃあ実母はなんで殺されなきゃいけなかったの……」と思うというものです。


 その後読んだ別の本(和蕃公主の時に紹介した「王昭君から文政公主へ 中国古代の国際結婚」なのですが)では「奇習」と断じられたりしていて「やっぱり?」と思ったりもしたのですが。


 とにかく、こんな制度がある時代と国に生まれて、こんな謎の理屈で殺されることになったら言いたいこともたくさんあるに違いない! と考えて書き始めたのが今回の作品なのでした。最近流行りの(?)逆行転生で「殺されたと思ったら寵愛を受ける前に時間が戻っていた!」パターンも考えたのですが、自分の破滅を回避するよりは愛する人たちの復讐のほうがヒロインの感情は深く強くなるんじゃないかな、と思ってこの形になりました。


 というわけで、しばらくは北魏・南北朝時代について調べたこと・考えたことについて書いていきたいと思います。こちらのエッセイの「本編」として、連載もお楽しみいただけると嬉しいです!

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