エピローグ「世界一の『キス魔』とその後」




ルナ

「2回……」


ルナ

「2回もしたのに……」



 ルナはそう言って、むくれてみせた。



リイナ

「女の敵。最低のクズ。社会の最底辺ですね」



 リイナはいつもの調子だった。



ヨータ

「まあ……うん」


ヨータ

「空飛ばれるのは、新しいスキルが無いと、厄介だったし……」



 ヨータは自信の無い口調で、弁解らしきものをしてみせた。



ルナ

「…………」


ヨータ

「これやるから、機嫌直せよ」



 ヨータはルナに、薬瓶を差し出した。



ルナ

「……それは?」


ヨータ

「さあ? たぶん回復ポーションだと思うけど」


ヨータ

「『鑑定』してみないと分からん」


ルナ

「別に、ポーションなんか要りません」


ヨータ

「そう言わずに」


ヨータ

「ひょっとしたら、良い物かもしれんし」



 ヨータは強引に、ルナに瓶を押し付けた。


 ルナの右手は、杖で塞がっていた。


 それで、左手で瓶を持つことになった。



リイナ

「乙女の純潔を奪っておいて、物で許してもらえると思っているんですね」


ヨータ

「頼むから、これ以上ややこしくしないでくれ」


リイナ

「隠蔽体質ですか?」


ヨータ

「頼むから」


リイナ

「……まあ良いでしょう」


リイナ

「奪われたのは、私の唇ではありませんからね」


リイナ

「私の……」


リイナ

「…………」



 話をすることで、ヨータとのキスを思い出したのだろう。


 リイナは赤くなり、ぷるぷると震えた。



リイナ

「やっぱり許せません」


ヨータ

「どうしたら許してくれるんだよ?」


リイナ

「お姉様を返してください」


ヨータ

「それは無理」


リイナ

「ぐぬぬ……!」



 リイナは頬を赤くしたまま、ヨータを睨みつけた。



ヨータ

「そんな睨まれても、無理だよ」


ヨータ

「俺の仲間、あいつだけだし」


ルナ

「……すいません」


ヨータ

「いま謝られても困るが……」


ヨータ

「もう帰ろうぜ。とにかく」


ルナ

「そうですね」



 そのとき……。


 3人の方へ、バイクやトラックが近付いてくるのが見えた。


 冒険者たちが、救援に現れたようだった。



ルナ

「上級冒険者のようですね」


ヨータ

「お早いご到着だな」


ルナ

「遅くは無いですよ」


ルナ

「私たちは、ちょっと運が悪かっただけです」


ヨータ

「そ」



 トラックが、ヨータたちの近くに止まった。


 助手席のドアが開き、そこからナミが下りてきた。



ナミ

「ルナちゃん!」



 ナミは、ルナに駆け寄った。



ナミ

「大丈夫!? 怪我してない!?」


ルナ

「怪我は、そこのミユリさんに、治していただきました」


ルナ

「もう痛みはありませんね」


ナミ

「無事でよかった……」


ルナ

「はい。オオバさんは?」


ナミ

「だいじょうぶ。安全な所まで運んでもらったよ」


ルナ

「良かったです」


ナミ

「オニツジくん」



 ナミはヨータに顔を向けた。



ナミ

「オニツジくんが、ルナちゃんを助けてくれたの?」


ヨータ

「まあ、成り行きでな」


ナミ

「ありがとう。ごめんね」


ヨータ

「礼言うのか謝るのか、どっちかにしろよ」


ナミ

「ありがと」


ヨータ

「ん」


ナミ

「リイナちゃんも、ありがとうね」


リイナ

「はい」


ヨータ

「それじゃ、行くわ」



 ヨータはキマイラの魔石を、リイナに投げた。



リイナ

「わっ」


ヨータ

「説明とか、お前らに任せた」



 そう言ってヨータは、ルナたちから離れた。


 そして、自身のスクーターに歩いていった。



ナミ

「ルナちゃん、その瓶は?」



 ナミが、ルナの左手を見て、言った。


 ルナの手は、ヨータに貰った薬瓶を、掴んでいた。



ルナ

「キマイラの、ドロップアイテムです」


ルナ

「一応、『鑑定』をお願いできますか?」


ナミ

「うん。……『鑑定』」



 ナミは、『トレジャーハンター』だ。


 モンスターが落とすトレジャーを、『鑑定』することが出来た。


 ナミがスキルを使うと、アイテムの正体が判別された。



ナミ

「…………! これ……!」


ルナ

「オオクサさん?」


ナミ

「ちょっと、耳貸して」



 ナミはルナを、引き寄せた。


 そして、耳元で囁いた。



ルナ

「っ……!」



 ルナはナミから離れ、ヨータを追った。


 そして、大声で呼びかけた。



ルナ

「オニツジさん!」


ヨータ

「ん?」



 ヨータがルナに、振り返った。



ルナ

「この薬は……」


ヨータ

「何でも良い」


ヨータ

「やるって言っただろ? とっとけよ」


ルナ

「ですが……これは……」


ヨータ

「……中1の時さ」


ヨータ

「クラスで、財布が盗まれた事件が有ったよな」


ルナ

「え? はい」



 ヨータは唐突に、昔話を始めた。


 ルナはヨータの意図を読めず、ただ頷いた。


 ヨータは話を続けた。



ヨータ

「俺はさ、施設出身だからって、真っ先に疑われてさ」


ヨータ

「味方も居ないし、もうダメかなって思った」


ヨータ

「けど、お前がいきなりさ」


ヨータ

「『彼が犯人だという証拠でも有るのですか』ってさ」


ヨータ

「あれが無かったら、俺は学校を辞めてたかもしれねー」


ヨータ

「……ありがとな」


ルナ

「昔の話ですよ」


ヨータ

「良いだろ? 別に」


ルナ

「……釣り合わないですよ」


ヨータ

「たかがポーションだ。そうだろ?」


ルナ

「…………」


ヨータ

「んじゃ」



 ヨータはスクーターに跨った。


 そして、走り去って行った。



ルナ

「オニツジさん……」


リイナ

「はぁ。トレジャーの換金が、まだなのですけどね」



 残されたリイナは、呆れたように、そう言った。




 ……。




 ヨータのスクーターが、学校の駐車場に帰還した。



ティナ

「おかえり」



 駐車場には、なぜかティナの姿が有った。



ヨータ

「ん? ああ」



 どうしてそこに居るのか。


 ヨータは尋ねなかった。



ヨータ

「ただいま。親友」



 ヨータはにこりと笑い、ティナに歩み寄っていった。


 そして、大した理由も無く、彼女にキスをした。




 ……。




 ヤマグチ東部にある、とある病院。



ミカコ

「…………」



 個室のベッドの上で、アマガミ=ミカコが眠っていた。



ルナ

「お母様……」



 病室内には、ルナの姿も有った。


 ルナは、ベッドの隣に立った。


 そしてミカコの口に、薬瓶を当てた。


 薬瓶の中身が、ミカコの体内に、流れ込んでいった。


 それは、ヨータに貰った薬だった。


 やがてミカコの全身が、うっすらと光を放った。



ミカコ

「…………」


ミカコ

「う……?」



 6年ぶりに、ミカコの目が開いた。



ルナ

「お母様……!」


ミカコ

「ルナ……?」



 ミカコはベッドに横たわったまま、視線だけをルナに向けた。



ミカコ

「……………………」


ミカコ

「背が、伸びましたか?」


ルナ

「……はい」


ルナ

「少しだけ」


ミカコ

「ここは、病院のようですね」


ミカコ

「私は……助かったのですね」


ルナ

「…………」


ルナ

「お父様とお姉様を呼んできます」



 そう言って、ルナはベッドから離れた。


 ルナが病室を出ると、すぐ近くに、姉の姿が有った。



サン

「…………」


ルナ

「お姉様」


サン

「……お前の実力を、見誤っていた」


サン

「グズだと言ったことは、撤回させてもらう」


ルナ

「ふふっ」


サン

「何だ?」


ルナ

「6年も前のことを、覚えていらしたのですね」


サン

「……記憶力が良いだけだ」


サン

「とにかく、よくやった」


ルナ

「……いえ」


ルナ

「私は何もしていません」


ルナ

「親切なクラスメイトが、私を助けてくれたのです」


サン

「そうか」


サン

「1年で、ユニークモンスターを倒すとは」


サン

「その人は、きっと『勇者』に違いないな」


ルナ

「いえ。彼は『キス魔』ですよ」


サン

「……何の冗談だ?」


ルナ

「冗談ではありませんよ」


ルナ

「彼は確かに『キス魔』で……」


ルナ

「けど、世界一の『キス魔』なんです」




 ……。




 それからしばらくして、アシハラの国は、ダンジョンの脅威から解放された。


 ダンジョンの完全攻略には、1人の英雄の活躍が、大きく影響していた。


 その後、救国の英雄は、世界へと飛び立った。


 そして、ダンジョンに苦しむ国々を、救っていった。


 人々は彼に感謝し、褒め称えた。


 そんな彼の天職は、『勇者』ではなく、『キス魔』だった。


 後世の歴史書には、そのように記されているのだった。





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❀天職『キス魔』のせいでパーティ追放された俺、詰みかと思ってたけど、優しい美少女幼馴染のおかげでなんとかなるなる? ダンジョン攻略の最適解は、親友との甘々キスでした。~フレンドキス~❀ ダブルヒーローꙮ『敵強化』スキル @test_whero

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