ダルマールの偉大なる驚異の岩について【抜粋】
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ダルマールの偉大なる驚異の岩について
【より正確な表題】
レイレ・セア=ネーメル・セン=ケールメジシャが
【書への名乗り】
我はネヘムの祝福を受け
***********
まあそんなことを言うのはつまらない連中ばかりで、ネケサル砂漠であれタルミイェ氷河であれ、どこにでも驚くべき生物は存在するものである。
ベクロイマイのドゥーケンによる『博物誌』には
手頃な
石灰質の大地に手を当てたが、ネヘムが私に与えた《水源探し》の祝福を持ってしても、地下水は遥か深くにあることしか分からなかった。水は慎重に使うべきだろう。
辿り着いて二日ほど経つと、黒っぽい大きな毛玉のようなものが風に煽られて大地を転がったり宙を舞ったりしているのを見かけるようになった。これは
もう二日進むと、私は三人の
彼らは毛の塊を集めているようだった。これで彼らの衣装を作っているのかもしれない。
件の獣はもう少し北東に進めばいるかもしれないとのことだったので、私は喜び勇んで向かうことにした。神官たちによると、
はたして、我が待望の獣を発見した。
「大きい」という点については『博物紀』も神官たちも正しく、平均して
角も美しい色とは言いがたかった。
何にせよもっとじっくり眺めよう、あわよくば触れてみたいと考えていた矢先に、近づきすぎた二頭の角がぶつかった。硬い音ではなく、明るく澄んだ鉄の鐘のような音が響いた。カーンともキーンとも表現できない、トーン?ポーン?ちーん?(以下、一ページに渡り音の考察が続く)
ともかく、この獣を
気がつくと周囲を
ずっと響き渡っているゴリゴリという低い音は巨大な臼歯(
わくわくを抑えきれない私は彼らのぼさぼさの毛をぜんぶ三つ編みにしたいくらいの気分だった。この生き物を前にして無関心でいられる灰色の神官たちは相当な鍛錬を積んでいるのだろう。
すっかりこの地に居座る意思を固めた私は
私は神殿の中に足を踏み入れ、近くにいた神官を捕まえた。それから自分はケールメジスのレイレ(注:「《狐の丘》の毒ニンジン」を意味する)だと名乗ると、いつも通り絶妙な顔をされた。灰色の神官たちはもっと無味乾燥だと思っていたが、思ったより感情豊かであるようだ。
一応、神官たちの生活にも触れておこう。
彼らは全部で二〇人ほどで、それぞれに緩やかな役割があるようだった。神殿を清める者、
歩いて四刻も南にある
神官たちは私をほとんど無視しており、挨拶の声をかけるとまるで私が非常識なふるまいをしたような視線を向けてきた。その反応がいつまで続くか確かめるため、私は挨拶を続けることにした。
神官長を含む何人かは私を気にかけてくれた。あるいはそこらじゅう荒らし回らないように見張っていたのかもしれないが。
手始めに
この土地は一年を通じて気温が低く、地上の水分をすべて吸い上げたような曇天が広がっている。大地の貧しさから、
私が本当に居座ることが分かると、黒い肌のソルハという神官が私にいろいろと尋ねてきた。私がアリトゥリの学者で、たまに
子どもは私がどんな人物か分かるまで隠されていたらしい。
この日は子どもの名付けの日(注:名を与えた日を祝う)だったらしく(ラルラーと呼ばれていたが、その意味は釈然としない)、神官長が町で買った日持ちのする菓子類や燻製肉、
子どもの持つ色からして、
前述の通り、ここの神官たちは精神的にも非常に慎ましい生活を営んでおり、基本的に神官長ラッシェンとソルハ、バルバス、ディハキム以外は子どもに対しほとんど注意を払っていなかった。子どもは私の持っているさまざまな道具に興味を示し、私の描いた様々な生き物の素描を見て首を傾げた。私の画才は同僚をして「味わいのある
今日は珍しく
結局落ち着かなくなった私は蝋を擦り込んだ
換毛期を過ぎ毛はすっかり生え揃っていた。この地は年中冷たく乾いているのであまり見栄えは変わらないらしい。三本の指趾を持つ足の大きさは
競争相手がいないためか、
観察から分かったのは、彼らは一度にそれほどたくさん食事をしないということだった。
この
さらに、採取した
調査に伴った子どもにとっても興味深い出来事だったようで、
さて、ラルラーを連れて地質の調査を始めた。この地がかつて海であったことは風土記にも記されている。硬い大地を
ラルラーは
さて、ソルハの目を盗んで
北にゆくほど、つまり環境が厳しくなるほど
さらに
そこでふと思い立ち、
ここの
はたしてこれは
私は小ぶりな
その結果はまさしく驚異的だった。なんと
もっと様子を見たいところだったが、
養分を得て成長する
私は自分の頭の中の知識と手持ちの資料を持ち寄り、更に観察を続けた後、こう結論づけた。
これは
肥沃な
私はさらに彼らの分布を調べた。
彼らはいつからここにいるのだろうか?少なくとも、ドゥーケンが『博物紀』を書いた時には彼らはいなかったはずなので、この
ひょっとすると、これは彼らの選んだ生き方なのかもしれない。不毛な土地で風や
できることならいくつか小さなゴリシャを連れて帰りたいところだが、研究者たる私とて大きな禍いを招くのは抵抗がある……。
この問題について考えるのは後回しにして、この前見つけた妊娠中の
**********
この地へ来て一年が過ぎ、神官たちも若干うんざりした様子を見せ始めたので、いったんアリトゥリの研究室へ戻ることにした。やはり乳の採取を試みて踏み潰されたのが悪かったのだろうか。あれはさすがに完治に
ゴリシャの意志を尊重し、一欠片も携えることなく泣く泣く置き去りにすることに決めたが、いくつもの瓶に詰めた
ゴリシャの発見という一大事にもかなり反応が薄かった神官たちとの別れは淡白なものだったが、ラルラーは
そういえばこの土地を離れる道すがら、奇妙な人物とすれ違った。白い髪に踊るように歩く……精霊のようだが、
●注
・林檎蛇 (Šašfotzk):オツカルヴァエ地方にいる毒蛇。咬まれれば死はほぼ確実だが、林檎のような大きな毒壺を持っているため動きが鈍いので「彼は林檎蛇に咬まれた (Dj'toravóch'f artúr séa Šašfotzkir)」は「とてつもなくのろまな」を意味する。だがレイレは「めったに咬まれない毒蛇に咬まれた」と大興奮していた。なお、彼は《水》ネヘムより毒を中和する力を与えられていたので腹を下すだけで済んだ。
●単位
・長さ
1 redoz= 1.08㎞
1 kliš = 108cm(1/20 redoz)
1 esov =約 36cm (1/3 kliš)
1 makhat = 約1.8cm (1/20 esov)
・重さ
1 demora = 36㎏
1 šman = 1.8㎏
1 kaniy =9g (200 šman)
・時間
1 atúo = 1時間
1 tzuf = 1分
1 yemura = 1秒
ダルマールの偉大なる驚異の岩について【抜粋】 f @fawntkyn
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