第3話 血の味は鉄の味がするって言うけど、鉄を舐めても血の味はしないと思う

 手を振り払われた男が言う。

「……っ! ふざけんじゃねー! お頭のお気に入りか何か知らねーが、おとなしくしねーと少しばかり痛い目見ることになるぞ!」

 んむう。 良く漫画とかで雑魚が言うセリフである。

 ただ、現実世界ではほとんどというか全く聞くことのないセリフに少し興奮している。


 いや、違うか。

 これはリリアンデモールの気持ちか。


 今、身も心もリリアンデモールになっている僕にとって、逆らってくる奴は大好物なのかもしれない。

 彼を心から屈服させて、ペットとして服従させたい。 そんな屈服した彼を笑いながら殺してやりたい。

 謝っても叫んでも泣いても許しはしない。


 だってもう、


 身も心も悪魔になっているのだから。


「いつまでもうるさい男ね。 そうゆうセリフ吐くやつは大体すぐ死ぬのよ」


 そうなのである。

 漫画であれば、多分次のコマで八つ裂きになったりしているはずだ。


「身も心も地獄の豪華に焼かれるがいいわ」


 そう言い放つと僕は、左の手の平を男に向けた。


「ファイアー!!」


 言うのが先か、その瞬間手の平から炎の玉が出た。


「うあ! ……あちい! あち……あっ! あーっっ……!」


 なかなか衝撃的な場面だ。皮膚が焼かれて爛れてボトボト千切れ落ちる様を見るのは。

 ただ不思議とあまりなにも感じない。

 それどころか少し熱っぽいというか、身体が熱い気がする。

 僕の身体の中心の少し下の真ん中にある、息子と呼ばれる場所も(今は娘なのか?)なんだかジンジンするような不思議な感覚だ。


 僕が作り出したこのキャラクターは、なかなかの変態かもしれないな。次からはもう少しノーマルなキャラクターも作らないとな。 と心に決めたのであった。


 ちなみにだが、僕が先ほど放ったファイアーは火魔法の中でも1番簡単な低級魔法だ。

 サキュバスとして作った為、魔法も使えることは使えるのだがあまり得意では無い。低級魔法が少し使える程度だ。


 他にも色々な魔法があるがそれはいずれお見せできればと思う。


 てゆーか、魔法出るんだなやっぱ。 なぜか不思議と驚きはない。まるで昔からこの世界にいるような感覚。幼い時から魔法を使っていたような感覚だ。


 僕は今サキュバスなんだ。 だからそれが当たり前の感覚となっているのかもしれない。


 焼け焦げた何かを見ながらふと考えていた。



 そろそろココを脱出しよう。


 落ちていた鍵を拾う。 先程の焼け焦げる前のこの人が持っていたものだろう。


 たぶんだが、僕の魔力量と魔法があれば牢くらい壊せるかもしれない。

 なんとなくだがそう思った。


 分かりやすく説明すると、道に子供が歩いていたとする。 見ればなんとなく分かるだろう。 この子供になら勝てると。 なんかそんな感じだ。


 漫画的であれば、爆発して脱出するのがかっこいいのかもしれないが、大袈裟な脱出は見つかってしまう恐れがある為、ここはひっそりと抜け出す。


 ガチャ……ガチャガチャ……


 ガチャン!


 一瞬ドキッとした。

 意外と響く音がしたからである。


 足早に牢を出る。


 通路が一本道で良かった。 実は方向音痴という設定を加えてあったからだ。


 冷たい感じなのに方向音痴とか萌えポイントだからだ。

 やはり女の子は少し抜けているくらいが可愛い。



 コツコツコツ……

 誰もいない通路に足音が響く。

 近くに誰かがいたらきっと見つかってしまうんじゃないか。


 少しドキドキはするが、怖い感じでは無い。

 むしろ見つかっても倒しちゃえばいいか。 そんくらいの軽い気持ちの自分にビックリだ。


 通路を進むと分かれ道になっている。


 左の方からは男たちの声が聞こえる。

 きっとさっきの男たちだ。


 こうゆう時は、僕はゴールじゃない方から行くことにしている。

 RPGなどのゲームでも全てを踏破して、全部の宝物なども取らなきゃ気が済まない。

 どちらかというと攻略本や攻略サイトを見ながら進めて行くタイプなのだ。


 右に進もうと思ったが、思っただけで思いとは裏腹に左に進む自分がいる。


 そうか。

 設定だ。


 リリアンデモールの性格はそんな細かい感じにはしていない。 豪胆で恐れ知らずで生意気な感じだ。

 そんなキャクターなら間違いなくまずは左に行くであろう。


 あくまでも、キャラクターなのだ。

 俳優が殺し屋の役をやっていたとして、途中で殺さないことがあるだろうか。


 いや、きっとない。


 話しの設定や内容にもよるが普通はないだろう。


 僕はあくまでそのキャラを演じているのだ。

 明らかにキャラ設定と違う動きはできないのかもしれない。


 まずは、ここを無事に出てから考えよう。


 左に歩いていくと大広間のようなものが見える。


 宴会でもしているのだろう。


 近づくにつれ声は大きくなる。


 何人いるんだ。

 壁越しだが、目を凝らすと魔力のようなものを感じる。

 これが魔力感知か。


 微々たるものだが、気配を感じる。


 5人か。


 先程のリーダーのような男はいないようだ。


「お、おい!」

「女だ」

「あいつはどうしたんだ」


 辺りがざわついている。

 それゃそうだ。


 牢に入れていた女が勝手に出てきてるんだから。


「別にいいじゃねーか。 俺たちと遊びたくて出てきたんだろーよ」

「せっかくだし遊ぼうぜ、お姉ちゃん」


 1人の男が腕を掴もうとしてきた。


 その瞬間、掴もうとしてきた腕よりも早く、男の喉元を貫いた。


「あ……がが……」


 その場に倒れ込む男。


「て、てめー!」

「ぶっ殺すぞ」


 他の男たちが近くにあった武器を持ち立ち上がる。


 喉元に刺さった指を抜くと、舌舐めずりをして男の血の付いた指先をぺろっとした。


「触らないでって言ったでしょ。あっ……まだ言ってなかったかぁ♡」


 初めて舐める血の味はなんだか鉄臭く、口の中に残る感じが少しだけ気になったような気がした。

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転生してもコスプレイヤーは、ただのコスプレイヤーでした @nekomataninzaburou

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