国王「えー、チートは困るよ君ぃ」

脳幹 まこと

国王「えー、チートは困るよ君ぃ」


 俺、地井ちい 徳郎とくろうは何もないところでつまずいて、トラックに突っ込んだ。

 目を開けると一面が真っ白い場所にいて、「転生神」を名乗るジジイが宙に浮かんだブロックの上に鎮座していた。


転生神「スキルを授けてやるぞい」


 石のような物体を手渡された。ジジイ曰く「スキルの源」らしい。

 願いながら食べるとその願い通りのスキルが手に入るらしい。


 気になったのでジャンプでブロックを下から叩いてやると、スキルの源が更に出てきた。


転生神「あ、それは次の主人公に渡すやつだぞい……」


 もひとつ叩くと、スキルが3つ。

 叩いてみるたび、スキルは増える。


転生神「こんな奴は初めてだぞい。適当に魔王いるところに転生さすぞい、まあ頑張るんだぞい」


 こうして、俺は異世界に転生したのだった。


 うは、勝ち確じゃん。



STAGE1:国王の城


 というわけで、無難に幼少期を過ごして、気持ち高校二年生になった。

 これから俺の輝かしい人生が始まるんだ!!


 魔族の活動がついに俺のいるところ、キテヌ王国にまで達したらしい。

 ということで、国は魔王討伐の人員を募集した。地位や名誉は関係ないらしいので、F級貴族だった俺も選抜試験に参加出来た。



 魔王討伐を志望する者は他にも大勢いた。

 見るからに筋骨隆々だったり、体じゅうに傷があったり、高級そうな服装に身を包んでいる。

 見た目ひょろひょろな俺なんかは、声には出されずとも明らかに蔑視されていた。



 選抜試験は巨大水晶を使ったステータスの確認だった。

 一人ずつ水晶に手をかざしていく。


 兵士達が「基礎力4200」「スキル【投石ストーンスロー】」などとパラメータやスキル名を宣言していく。

 上記の内容によってC級やD級といったランクがつけられるようだ。


 俺の一つ前が終わった。


兵士「基礎力12000、スキルに【念動力サイコキネシス】【疾風迅雷マッハベロシティ】……スコアは79、A級相当でしょう」


 ざわつく一同。

 国王は「こいつで決まりだな……」と安堵した表情を浮かべる。


 さて、その直後にひょろ男である。兵士の目にも憐れみがありありと伝わる。


 自信なさげを装いつつ、手をかざす。

 すると巨大水晶が光り出し、唸りを上げ、バチバチィッッ!!と電撃を放った。

 そして、黒い煙を上げてその機能を停止した。


 兵士は呆気にとられた表情で、出力結果を読み上げた。


兵士「基礎力999999……」

兵士「スキルは……

 【完全防御いたくない

 【完全回避あたらない

 【無限跳躍どこでもいける

 【無限超越なによりうえ

 【究極把握なんでもしってる

 【必中即死攻撃ぜったいしぬ

 【神権公使すごいやつ】……」


兵士「スコアは算出できません。前例どころか、想定だにしておりません……」



 皆が沈黙する中、「あれ、やり方間違えちゃったのかな?」的な演技をする俺。

 そこで強者ムーブをしてもいいが、能ある鷹は爪を隠すとも言うしな。


 宰相も現れて、国王と一緒に会話をしている。



宰相「うーん、なるほど。うーん……」


国王「これは……アレだな……」


宰相「そうですね……アレですね……」


 しばらくやり取りがあった後に、宰相はおもむろに結論を伝えた。


宰相「まだ後が控えているが、先に伝えておこう。合格基準はどうあれ、君だけは、魔王討伐隊には含めない」


 何を言っているのだろうか。【究極把握なんでもしってる】を使えば他人の心を読むことも出来るのだが、癪なので一丁前に会話することにする。



俺「なぜですか!? 俺がF級の貴族だからなのですか!?」


国王「そういうわけではない」


俺「ならばなぜです!? 俺の凄まじさは見ての通りではありませんか!?」


国王「凄い凄くないではない。困るのだ、そういう手順書マニュアルに書いてないことされると」



 手順書マニュアルだって!?

 転生前の世界じゃあるまいし、ここでは自由に生きさせてくれよ!!



俺「俺がいれば魔王討伐に有利となるのは明らかでしょう!!」


国王「といっても、我々に制御できないのは、ちょっと、困る。」


俺「いや、魔王に滅ぼされたら何もかも台無しでしょう!? それに比べたら」


国王「うーん、でも、ねぇ。その時はその時というかだな……」


 次の瞬間、俺は城から外に出ていた。自分のスキル【無限跳躍どこでもいける】を使った初めての瞬間だった。



STAGE2:冒険者ギルド


 俺は不当に追放されたのだと思った。

 魔王討伐に赴く勇者がダメなら、冒険者にでもなってやる。

 というより、そちらが本命だ。


 跳躍先はキテヌ王国における冒険者ギルド「ソケクヤ」であった。

 気を取り直して「F級貴族のチート無双」を開始しようじゃないか。


 入ってみると、受付と思しき美少女(14)がいた。その美少女はギルドマスターの一人娘であり、資金難に苦しむこのギルドをどうにか立て直そうと奮闘しているらしい。

 俺は【究極把握なんでもしってる】。


娘「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか」


俺「このギルドに入りたいんだけど、何か試験とかあったりします?」


 そうすると彼女はぱあっと明るい笑顔を浮かべて、「お父さん!!」と駆けていった。

 数刻すると、スキンヘッドのギルドマスター(42)がやってきた。


父「このギルドにはSSS級~F級まであるのだが、まずは技量を見せてほしい」


 その内容は……的当てだった。

 元々は「技量」の前に、筆記試験だとか面接が挟まっていたのだが、【神権公使すごいやつ】で操作した。

 何事も手っ取り早い方がいい。


 的がやってきた。

 俺は右手を突き出して「ファイア」と唱えた。


 すると、会場そのものが半壊した。

 ひょっとしてうっかりやってしまったか?


 そんな様子を見て、父娘おやこは顔を見合わせて、目くばせをする。

 もちろんその内容を見逃すことはしない。 



娘(今までのパターンにハマってないよ、この人……どうしよう)


父(どうするたって、このザマじゃ何も測定できないし、こりゃあ、困ったな)


娘(とりあえず……様子見で雇ってみない?)


父(そうだな。ひょっとしたら、扱えるようになるかもだ。しかし、ランクはどうしたものか?)


娘(Fランクなんじゃない? 測定不能の場合は例外なく、そうなる仕組みだよね?)


父(そうだな……Fランクとしか言いようないな……)



 無言のやりとりを重ねた後、父親は度量を見せたいかのような満面の笑みで、こちらに迫ってくる。


父「誰でもまあ最初はこんなモンだ、さて、ランクの方だが……」


 もういい!



STAGE3:近くの森


 こうしてギルドからも追放されてしまった。

「絶対後悔させてやる」と胸に誓った。


 すると、「キャー」という甲高い声が聞こえる。

 木の陰から覗いてみると、エルフの美少女がドラゴンに追い詰められている。

 しかしまだ傷一つついていない。まだ「やり頃」ではない。ある程度ボロボロになってもらわないと困る。

 

 様子を見ていると、ドラゴンは順調に彼女をいたぶっているように見えた。服がいい感じで破けてきている。

 そろそろ出番だろう。エルフの前に出てきて、かっこいい構えを取る。


俺「殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだ」



 俺の基礎力はカンストである。スキルを使うまでもなく、素の身体能力だけで最上級モンスターとも対峙できるのだ。

 ドラゴンは突然の来訪者に取り乱しているようだが、隙を逃すことなどしない。懐に入ると、寸勁すんけい……ワンインチパンチとも呼ばれる一撃を繰り出す。

 その刹那、ドラゴンの身体に大穴が空いた。そら見ろ、やっぱりチートじゃないか。

 王よ、ギルドマスターよ、逃した魚は大きかったな。戻ってこいとか言っても、もう遅いんだぞ!!


 ズシン……と巨体が倒れる音を聞きつつ、俺は振り向いてエルフのもとに駆け寄る。

 


俺「大丈夫ですか?」



 大穴が空いたまま、ドラゴンは言った。


ドラゴン「えー、物理法則ルールに従わないのは困るよ君ぃ」


 え、ちょっと?

 ドラゴンの方を振り向く。

 すると、助けを求めたエルフは言った。


エルフ「ここ住み心地いいんだけどなー、たまーにこういう人が出るから困るんだよなー」


 エルフの方を振り向く。

 聞き捨てならないぞ、色々。



俺「襲われてましたよね? そのまま放っておけばよかったんですか?」


エルフ「助けるにも作法マナーってものがあるじゃん……」


俺「助けるのに体裁りゆうが要るんですか?」


エルフ「いや、だって、困るでしょ?」


 困るって何?

 国王もギルドの奴らもだけど、何を困るの?


俺「困るって何です?」


エルフ「困る」


俺「困るだけじゃ伝わらないでしょうよ!! ちゃんと説明してください!!」


エルフ「えー、例えば、めんどくさそうだなー、とか」


俺「何がめんどくさいんだ!!」


ドラゴン「はぁぁぁ………ッッッはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」



 ドラゴンがクソデカいため息をついた。

 え、これ、俺が悪いの? 俺が悪いことになってんの?

 エルフとドラゴンは顔を見合わせて、目くばせをする。



エルフ(この場はなかったことにしますか)


ドラゴン(このヒトどうします?)


エルフ(ちょっと、お引取りいただいて……)


 なにこれ、求めてたんと違う。



FINALSTAGE:エピローグ



 俺はこの後もチャレンジし続けた。

 一人でダンジョンに飛び込んだし、【神権公使すごいやつ】でダンジョンを作ったこともある。

 街をモンスター達の大狂乱スタンピードから守ったこともあるし、けしかけてやったこともある。

 多くの勇者・賢者の卵を育てたこともある。SSS級の奴らだけが通う学校を作ったこともある。SSS級の魔族を作ったこともある。


 結果として、俺以外は、みんないい感じになっている。互いに手を取り合って絆や温もりを感じている。

 俺はそんな光景をむっすーとした表情で見ていた。時たま「ねぇねぇ俺は俺は?」と飛び出してみることもある。

 そんな俺を見るみんなの顔は、どうにもひきつった笑いであり、問いただしてみても「困るから」しか言わなかった。

 

 こんなはずじゃなかった。



 ある日、苛立ちがピークに達して、関係のない住人に【必中即死攻撃ぜったいしぬ】を使った。

 そいつは死んだ。


 それからは、病みつきになって、バカスカ殺していった。もちろん、秘密裏にだ。


 みんな恐怖した。

 今まで一緒に幸福を分かち合っていた人物が、突然いなくなってしまうのだから無理もない。


 ある日、冒険者ギルド「ソケクヤ」に移動した俺は、すっかり大人びた受付のヒロインの前に姿を現した。



娘「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか」


俺「この国で起こっている怪死事件だが、それをやってるのは、この俺だ」


娘「それは……困りますね……」


 あの時のように右手を突き出す。

 だが、唱えるのは「ファイア」ではない。


俺「お前が死んだら、きっと親父さんも悲しむだろうなあ!!」


娘「困ります……」


 この期に及んで、まだ言うか!!


俺「……お、お前が俺と一緒に来てくれたら、止めてやってもいいぞ」


娘「嫌です……」



 なんで?


 なんで、な、ん、で?



娘(困るから……)



 もういい。

 俺は自分の身体を媒体にして、究極魔法「爆発堕ちゃんちゃん」を発動した。


 うわあああ、ぎゃああああ、ぬわあああああ、びゃああああああ……


 全世界から響き渡るおびただしい数の断末魔。


 ざまあみろ。

 もう遅い。


 最期に虚空の狭間なにもないところから声が聞こえた。


「ええええぇぇぇぇ、困るよぉぉぉぉ君ぃぃぃぃぃ……」







転生神「そんなに早く死ぬなんて台本マニュアルに書いてないぞい……」

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