第36話 これが修羅場か

 俺はベルと元幹部の戦い……一方的な殲滅を見ながら、幹部が死んだ事をアリシアになんて話そうか考えていると……


「———優斗様っ!! どうでしたか!? 私結構頑張ってましたよね?」


 ベルが全てのスキルを解除して俺に抱きついて来た。

 色々と言いたいことはあったが、まだ完全に制御出来てないし、今回は他の場所への流れ弾もなかったので、俺は良くやったと言う意味も込めて頭を撫でる。

 ベルは気持ちよさそうに俺のなされるがままになっていた。


 数分程そうしていた後、ベルが俺の胸から俺を見上げて申し訳なさそうに言う。


「……幹部達と貴重な戦力を消滅させてごめんなさい……未だ威力の調整が上手く出来てなくて……」

「もう良いよ。俺がベルにやれって言ったんだからな。このことは俺がアリシアに何とか言っといてやるよ」

「いえ、私もアリシアさんの所に謝りに行きます!」


 俺はベルの妙に力の篭った言葉に首を傾げる。


「……何でだ? 別にベルは俺の部下で、部下の失態は上司の失敗だろ? だから別にわざわざベルがアリシアに謝らないでも———」

「ダメです! 優斗様をアリシアさんと2人にしてはいけません!! (……あの女の事です。こう言った状況に乗じて必ず優斗様を堕としにきます。私が絶対に阻止しなければ……)」

「は、はぁ……?」

「兎に角! 私も一緒に行きますからね!」


 と言う事で俺達は2人でアリシアに謝りに行くことになった。







「ふーん、それでベルに戦闘を任せたら幹部諸共全ての敵を殲滅した……と?」

「ああ。お咎めなしと言うわけにはいかないだろうが、一応謝っておこうと思ってな」

「申し訳ありませんでした、アリシアさん」


 俺とベルは魔王城のアリシアの部屋で頭を下げていた。

 アリシアは俺の報告書を読みながら半目で俺たちを見ている。

 しかし少ししてアリシアが、はぁ……と大きなため息を吐くと、「もう頭を上げていいわ」と言った。


「勿論責任は取ってもらうわよ。幹部はまだいいとしても、軍団はこれからの戦争で貴重な戦力になり得た存在なのだからね。さて……一体どんな処罰にしようかしら?」

「何でもいいぞ」

「………………な、何でも?」


 突然アリシアが黙ったかと思うと、恐る恐ると言った感じで俺に訊く。

 まぁ本当にどんな処罰であろうと受けるつもりなので、特に反対せずに頷くと、アリシアがごくっと喉を鳴らした。

 そしてアリシアはモジモジと指を弄んだ後、少し小さな声で言う。


「じ、じゃあ、今度私のレベル上げに付き合いなさい。その夜は豪華な料理もご馳走して貰うわ」

「そんな事でいいのか? 分かっ———」

「———そんなのダメです!!」


 思ったよりも軽い処罰に少し安堵しながら、同意しようとしたら、横からベルが声をあげた。

 ベルの方を見たアリシアが不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。


「何よベル。貴女には関係ないでしょう?」

「ありますよ! 私のミスなんですから。そもそもアリシアさんは1人でもレベリングは出来るでしょう? だって魔王なんですから」

「でも優斗がいた方が安全だもの。私が行こうとしているのは地獄の森だから。貴女は私達がレベリングしているのをこの町で指を咥えて見ているのね」


 アリシアとベルはお互いに笑顔だが、その間に火花が散っているのが見えるのは俺だけなのだろうか。

 何だかめちゃくちゃ怖い。

 俺のせいじゃないはずなのに冷や汗が止まらない。


「まぁ私は今度優斗様とデート・・・をしますけどね」

「はぁ!? どう言うことよ優斗!」

「あれ? どうしたのですかアリシアさん。いきなり騒ぎ出して。2人でレベリング・・・・・に行くのでしょう? ですが私は優斗様とデート・・・に行くので、色んな美味しいお店を回ろうと思っています」

「———優斗! 処罰は変更よ! 私と今度ベルの様に1日中デートしなさい!」

「あ、え? ま、まぁ処罰じゃなくても行きたいなら行くが」

「「………………え?」」


 俺の言葉に2人の動きが止まる。

 その瞬間だけは両者の間に生まれていた火花も消えており、平和な時間が訪れた。

 しかし2人は同時に動き出して口を開く。


「「なら明日プライベートで私とデートしなさい(してください)!! ———キッ!」」

「え、えぇぇ……」


 俺は目の前でお互いにガンを飛ばしまくる2人を見てふと日本で読んだ漫画にこんなシーンがあった事を思い出した。



 これが俗に言う———修羅場というやつか。



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