第41話 エピローグ

 休憩所に戻ったら、歌弥さんに熱烈なキスをされた。

 公衆の面前でやってはいけないようなタイプのキスで、周囲の人は度肝抜かれていたし、歌弥ななは結構な悲鳴を上げた。

 時間にして二、三分のはず。いつもはキスしている時間はあっという間に感じるのに、かなり長く感じられた。

 ……公衆の面前では、キスは控えてほしいもの。

 そんな一幕もありつつ、俺たちは最後に少しだけ周辺を散策した後、帰路についた。

 歌弥ななは家までついてくるのかと思いきや、もう満足したから帰る、とのことで途中で別れた。ちなみに、歌弥さんの家は実家から電車で一時間半程度のところらしい。


「星香さん。私は一応あなたが姉と一緒にいることを認めました。けど! 次はこっちの両親を認めさせないといけないんですからね! ここで油断してはいけませんよ!」


 歌弥なながそんな捨て台詞を残していったので、少しだけ気が重い。もちろん、歌弥さんの両親を納得させる人間になれるよう、頑張るけれども。

 気合いを入れる俺に、歌弥さんが言った。


「秋夜君はそんなに気負わなくていいよー。秋夜君の場合、普通に頑張る、くらいが世間の人からすると一生懸命のレベルだからさー。あたしがお願いしてる仕事も、ちょっと頑張りすぎー。人間はリラックスしているときこそいいアイディアが出るし、活力も沸くんだから、頑張りすぎるの禁止ー」


 そんなことも言われてしまって、少し困惑。

 頑張りすぎないように頑張る。……で、いいのかな?


 歌弥さんの家に帰り着いたのが、午後六時半すぎ。

 帰って早々三人分の食事の準備を開始。少し手抜きで、ささっとハヤシライスを作った。

 食事中、少しばかり気になっていたことを、歌弥さんに尋ねる。


「そういえば、歌弥さんってどうしてやたらとラブアンドピースって言うんですか?」

「ああ、あれ? 小説って結局ラブアンドピースを書くんだなー、って悟りを開いているから、とりあえずラブアンドピースって叫ぶことにしてるのー」

「……小説って、そういうもんですか?」

「全部とは言わないけど、人が求めるものを突き詰めると、ラブアンドピースだとは思うよー。ラブアンドピースの状態にたどり着きたくて、主人公たちは頑張ってるのさー」

「……まぁ、大きな目で見ると、そうかもですね」

「うんうん。そういうもんなのだよー。逆に、ヘイトアンドウォーを目指す作品なんてないでしょー?」

「……ないですね。世の中に出してはいけないような気もします」

「そういうことー。物語は自由に書いていいとはいえ、書いちゃいけないものも結構あるのさー」


 なるほどなー、と納得。

 そういえば、俺が目指しているのも、大きな目で見るとラブアンドピースなのかもしれない。


 そんな会話をしつつ、食事も終えて。

 歌弥さんと芽吹が一緒にお風呂に入るのも割とよくある流れで、その後に俺が入るのもよくあること。

 その後は各自で好きなことをやることが多いのだが……。


 入浴後に俺が戻ると、整えられたベッドの上で、芽吹が何故か正座をしている。しかも、いつものパジャマ姿ではなく、白いワンピースを着用している。

 歌弥さんは、ベッド脇で愉快そうに唇を歪めている。


「えっと……どうかした?」

「星香君」


 芽吹が俺の名前を呼ぶ。神妙な表情、赤らんだ顔で。


「……うん?」

「……わたしと、しましょう」

「しましょう、とは?」

「……言わなくても、わかるでしょ」

「……じゃあ、そういう意味で言ってるのか?」


 芽吹がこくんと頷く。

 今まで、芽吹は添い寝とキスより先のことを求めてこなかった。

 どういう心境の変化が……? 思い当たることがあるとすれば、俺が歌弥ななに色々と宣言したこと?


「ちなみに、歌弥さんは、好きにしなよって言った」

「……まぁ、歌弥さんだもんな」


 歌弥さんはにやにやしている。口を挟むつもりはないらしい。


「だから……しましょう」


 芽吹の顔が、既に真っ赤になっている。自分から誘うのは恥ずかしいし、勇気のいることだったろう。

 ……とはいえ、気乗りするかというと、そうではない。

 そういう関係になるのは、歌弥さんだけで良かった。

 ただ、ここで断ると芽吹は傷つくし、歌弥さんもつまらなそうにするのだろう。

 やるしかない、か。

 それはそうとして。


「……もしかしてですけど、歌弥さん、そこで見てるんですか?」

「うん。だって、千花ちゃんが、見ててください、って言うんだもの」

「……芽吹さん、それでいいのか? 初めて……だろ?」

「……歌弥さんなら、いいかなって。それに、わたし、普通の人だったらまずしないようなこと、したい。遠回りして今に至ったからこそ、やろうと思えたこと、したい。だから……この形がいい」

「そう……」


 初手からなんてアブノーマルなことをするのか。

 高校生の芽吹だったら、絶対にこんなことはしない。現役で大学に受かっていたとしても、こんなことはしない。

 遠回りしたからこそ、やろうと思ったこと、か。

 その気持ち、応えたいよな。


「……わかった」

「……ありがとう。わがままに付き合ってくれて」


 芽吹の隣に座る。

 歌弥さんに見せつけるように、濃厚なキスをした。


「んっ……、んんっ……!」


 芽吹が少しだけ苦しそうにしている。でも、嫌がっている感じではない。

 キスをしながら、右手で芽吹の胸に触れる。下着を身につけているので、感触は硬い。そんな中で、先端を探す。芽吹の体がびくりと動く。

 キスをしながら、歌弥さんの様子もちらりとうかがう。

 実に実に楽しそうに、微笑んでいる。

 ……変な人だ。本当に。

 この人と一緒にいたら、俺も、少しずつ歌弥さんの色に染まっていくのかもしれない。

 ……それでいい。むしろ、そうなりたい。

 歌弥さんのために生きる存在に、なりたい。


 芽吹と交わろうとしながら、歌弥さんのことを考えるなんて失礼な話。

 だけど、芽吹はそれを承知で俺に頼んでいるはず。

 こんな形の初めてで、本当に良かった?

 改めて思う。口にはしない。

 芽吹も、壊れたいと言っていた。その願いを叶えてやるだけ。


 長いキスを終えたら、ワンピースを脱がす。

 白い下着を身につけた芽吹は可憐にも感じられた。

 その下着も、ゆっくりと脱がしていく。

 あらわになる大きな乳房に、濡れた陰部。

 ……そして俺は、歌弥さんの見守る中、芽吹の初めてを、もらった。

 自分の中で、また何かが壊れたような気がした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ここまでお付き合いくださってありがとうございました!

 人気はあまり出ませんでしたが、お読みくださった方の中に何かしらを残せていたら幸いです!

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家出中に出会った美人お姉さんと(いい意味で)爛れた関係になってみたら、元クラスメイトまで巻き込んでしまった。 春一 @natsuame

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