第40話 side 歌弥ゆゆ

 side 歌弥ゆゆ


「羨ましいですね、あんな熱い告白をしてくれる人がいるなんて」


 一緒に秋夜君とななの会話を聞いていた千花ちゃんが、本当に羨ましそうに言った。


「いいでしょー? あんな人があたしの彼氏なんだー」

「……っていうか、彼氏、なんですか? まだちゃんと彼氏彼女って言ってなかったと思いますけど」

「んー、そうだけど……もういいや。今日からそういう関係ってことで!」

「思いつきですか……」

「いいじゃんいいじゃん、細かいことはさー」

「歌弥さんとしては、どうなんですか? 星香君のこと、どれくらい好きなんですか? 恋愛感情、ちゃんと持ってます?」

「うーん、それが少し難しい。恋愛感情らしきものも感じてはいるよー。まぁ、秋夜君のことを考えると胸がキュンキュンしちゃう、とかはないとしてもねー」

「恋愛感情らしきもの……」

「そもそもあたしの場合、恋愛に関する考え方が少しずれてるんだよねー。付き合う相手を決めるとき、恋愛感情を最優先にしてないの。だから、恋愛感情はあるの? って訊かれても、あるっちゃあるけど、それってあんまり重要じゃなくない? って思っちゃうのー」

「……そうでしたか」

「ただね、秋夜君を見ていると、すごくわくわくする。この人はこれからどうなるのかなーって。


 それに、秋夜君が傍にいてくれると、安心するの。あたしが世間にどう見られていても、この人はあたしの傍にいてくれるだろうなーって。


 あとねー、寂しくないんだ。あたし、こう見えて一緒にいる人を選ぶタイプでね。自分と感性が合わないと感じる人とは、長く一緒にいたいと思えないの。その点、秋夜君は一緒にいて平気だし、ずっとくっついていたくなる。


 もう、こういう気持ちになれたならさ、恋愛感情がどうとか、どうでもよくないかなー?」

「そうかもしれません。結婚するなら、恋愛感情がどうとかっていうより、その人物そのものを好きになれるかが大事なんてことも聞いたことがあります」

「ま、そんな感じー」


 千花ちゃんが、ふむ、と思案顔。


「……わたしはまだ、ここにいていいんですかね? 二人が両想いなら、わたしは……」

「いいよいいよ。むしろいいてよー。秋夜君は、まだまだ壊れた方がいいところたくさんあるんだからさー」

「わかりました。なら、一緒にいます」

「千花ちゃんこそ、秋夜君のこと、好きなのー?」

「好きですよ。わたしは……歌弥さんに恋をして、変化していく星香君が、好きなんです」

「……二番目の彼女、みたいな枠でもいいのー? 独り占めしたくならない?」

「わかんないです。独り占めしたくなる日も、一番になりたくなる日も来るかもしれません。

 それでも、わかっていることがあるんです。わたしには、歌弥さんのように星香君を変える力がありません。

 わたしと一緒にいるだけでは、星香君の成長も変化もとまってしまいます。だから今は、この立ち位置で星香君を少しずつ籠絡していきます」

「なるほどねー。りょーかーい」


 もしかしたら、千花ちゃんとドロドロの愛憎劇を繰り広げることになるかもしれないわけか。

 少しわくわくしてしまっているのだから、あたしはやっぱりどこかおかしい。


「あと、わたしがこんなことを言うのも変ですけど」

「うん?」

「……星香君と出会ってくれて、ありがとうございます。星香君が少しずつ立ち直りつつあるの、歌弥さんのおかげです。歌弥さんのためだから、もう一度頑張ろうって、思えているんです。

 星香君が一番落ち込んでいたとき。出会ったのがわたしだったら、きっと、星香君はこんな風になっていません。

 だから、ありがとうございます」


 千花ちゃんの目に涙が溜まり、それがすぐに溢れて頬を伝った。

 ……この子は、恋をしているんだな。至極、まっとうに。

 秋夜君を好きだから、自分の力では好きな人を救えなかっただろうことが、すごく悔しいのだ。


「……あたしには、千花ちゃんを慰める言葉は言えないね。ま、これだけは言っておこうかな。あたし一人にできることはやっぱり限られてるからさ。あたしたちの力で、秋夜君をもっと面白い子に育てちゃおーよ」

「……わかりました。どうなっても、知りませんからねっ」


 千花ちゃんの泣き笑い。

 独り占めしちゃって申し訳ないなーと思うくらい、素敵な表情だった。

 さて。

 秋夜君があたしにベタ惚れっぽいのはいいとして、うかうかしてたら千花ちゃんに取られちゃうかもだよね。

 もうすぐ二人が帰ってくるだろうし。

 帰ってきたら、まず真っ先に、秋夜君に熱いキッスでもしてあげようかなー?

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