第29話 最終回

 わたしはウォルフの両腕にバインドの魔法をかけた。二本の足はすでに骨を折っている。しかし念のため足にもバインドをかけておく。いつ魔法で回復して逃げ出すかわからないからだ。


 そう。


 わたしことリンカ・ネイシは憎き仇、親友のミアの仇、ウォルフィガング・シードを追い詰めた。


 読者の方々には突然のこのような場面をいきなり描写してさぞ驚かせてしまっていることだろう。だが仕方がない。これがこの物語を終わらせるに最もふさわしい話なのだから。


「な、ぜだ……?」


 そういえば口にはバインドをかけていなかった。それは意図的なものだった。

 ミアをわたしから奪ったことをわずかでも後悔する台詞を吐かせてやりたかったのかもしれない。


「同じ転生者で、力の差はないはずだ」


 なんだそんなくだらないことを言うのか。つまらない。


「なぜ、僕は負けた? 最強で、神に選ばれたはずの僕が」


 ばかばかしい。神が同情して至上の力を与えた? その力をいかんなく振るえる場所がこのブレイブランド? ならば、元からブレイブランドにいたミアやクーたちはなんのために存在したというのだ。


「言いたいことは色々あるけれど」


 そこで、わたしはその日初めてウォルフに話しかけた。


「疑問には答えてあげる。あんたがわたしに負けた理由」


「なぜ、なんだ……?」


「この世界に来てたくさんの転生者と出会って一つ気づいたことがあるの。まず純粋に強いこと。わたしも含めてね」


「…………」


「もう一つは『魔法』に頼り切っていること。元の世界には無かったこの世ならざる力を手に入れたことがうれしくて仕方がなかったから」


「そりゃそうだ。僕たちは元の世界でろくな目に合わなかったからその代償として神が力を与えてくれたんだから」


「それには同感ね。わたしも前の世界での暮らしはひどいもんだった。友達はいなかったし、いつも独りで親もいないも同然だった」


「なら、僕たちの気持ちがわかったはずだ!」


「いいえ、分からないわね。少なくとも与えられた力をそのまま使うだけのあんたたちには」


 そこでわたしは血塗れのウォルフの顔を見た。何発かグーパンで殴ってやったおかげで青アザだらけだ。


「さて、約束通り質問に答えましょう。同じ転生者同士の戦いでわたしが勝った理由」


 ウォルフの眉がピクリと上がる。なぜならその言葉と同時にわたしは右手を魔力で硬化させたから。


「『努力』したのよ。あんたたち転生者全員がしなかった『修行』をね」


 そして、わたしは思い切りウォルフの心臓目がけて右手を突き立てる!


「あんたたち転生者は転生と同時に『最強の力を得た』と思い込んだ。自分がそれ以上強くなれる可能性なんて考えもしなかった。それがわたしがあんたに勝てた理由よ」


 右手の中指の先からウォルフの汚らわしい血が滴る。


「最後に何か言いたいことは?」


 だんだんウォルフの目から光が失せつつある。もう口も利けず、死にゆきつつあるのだ。


「ミアは最後にあんたに心臓を貫かれながらも、わたしに最後に『楽しかった』と言い残そうとしてくれた。あんたにはそれさえもさせてやらない」


「…………」


 やがて痙攣さえしなくなったウォルフの体からわたしは血塗れの手を引き抜く。

「生きるための努力をしなくなったことがあんたたち転生者の罪。そして死の恐怖さえ味わえなくなったことがあんたたちに与えられた罰」


 さて、転生者最強、ブレイブランド最強と謳われたウォルフィガング・シードは死んだ。

 そろそろ黒幕に出てきてほしいところだ。わたしたちを転生させた元凶。


 次の瞬間、急に心臓がドクンと大きく脈打った。


『どうやら、君を転生させたのは失敗だったようだね』

 そんな声がどこかから聞こえ、わたしは自分が死にゆくことが分かった。

「ミア、クー、たの、しかった、ね……」


 よかった、最後まで言えた。



 本当に、よかった。



RKR-転生者殺しの転生少女― 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

RKRー転生者殺しの転生少女 天野 珊瑚 @amanosango

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ