第24話 偽善者の最期
「あ、あなっ、たにもっ」
パルモは全身焼けただれながらも必死に何かを訴えてくる。
「パラライズ!」
わたしは今度こそ彼女の全身を麻痺させた。
これ以上何も言えないように。これ以上わたしの心をかき乱さないように。
そして、指紋が付かないよう手袋をして動かない甲冑男の槍をパルモの左胸に向ける。
麻痺したままパルモが目だけで恐怖を示したのが分かった。
「心は筒抜けだったんだろうから、すべて知ってると思うけど、あえて話してあげる」
わたしは、いつでもパルモを殺せる状態になったら不思議と口が軽くなる。
「私の親友は転生者に殺されたの。だから転生者を皆殺しにして、わたしを含めた転生者の元凶を炙り出すつもり」
パルモの目から涙があふれ始めた。
好意的にとらえればわたしの悲しみが伝わったのだろうが、まあ、単なる死への恐怖からだろう。
「このチート能力でそいつも殺して、わたしを受け入れてくれた親友の故郷に帰ってあの子の墓の前で死ぬ予定よ」
わたしは自分の心臓があるところを右親指で指す。
「復讐は何も生まない……、言われたわ。ミアもわたしがこんな風になってしまうことなんて望んでないこともね。でも、もう見たくないのよミアみたいに意味も解らず転生者に殺される人間を」
そこで私は一息ついた。
「奴は言ったわ。『この世界はすべて自分たち転生者のために用意されたもの』だって。だけどそれを終わらせて『転生者のものじゃない当たり前の世界を作る』。それがわたしの目的。そうすることでやっとミアの死に意味が生まれるわ」
とうとうわたしは、甲冑男が持たされていた槍をパルモの心臓に突き立てた!
ドクドクと血が溢れ出す。これはさすがに死んだだろう。
あっけなかったのか、それとも苦しみは十二分に味わったのか、それさえ分からないけど、とにかくこれでパルモは死んだ。
家族と無理心中したらしいが、やっと、「あるべき場所」へ行ったのだろう。
わたしは独り言を続ける。
「わたしという『転生者殺し』を生み出したこと、それがミアの死の意味。ミアの最期の言葉は『楽しかった』だった。転生者さえいなかったら今も楽しかったはずなのよ」
わたしは、自分が関与したように見えないようにできる限りの証拠隠ぺいを行って、階段を上がっていく。
「お姉さま!」
ずっと階段から誰も下りないように見張っていたらしいクーディリアがわたしの姿を認めるなり抱き着いてきた。
そして、耳元でわたしにだけ聞こえるようにつぶやく。
「殺したんですか?」
「ええ」
短く答えるとクーディリアは腕に込める力を強くする。
「ボク、肝心な時に役に立たなくてごめんなさい……」
「十分役に立ったって。特に夢から覚ましてくれたことがね」
クーディリアは複雑そうな顔をしたが、悪い気はしていないようだ。
「揉め事が広がる前にこの店を出るわよ。わたしが殺したことにはならないでしょうけど、面倒は避けるに限るわ」
そういえば、クーになにかお礼をしてあげなきゃ。
わたしは添い寝と一緒にお風呂に入るのとどっちが彼女が喜びそうか考えた。
――この子はミアの代わりなんかじゃない――
強くそう思いながら。
店を出て数分、店長、つまりパルモがどこにもいないことから少しづつ騒ぎが起こり始めた。
後で知った話、パルモの死は自ら生み出したフレッシュゴーレムの暴走、というか反乱ということに落ち着いたらしい。
さらにあの幸せな夢を見せるハーブティーの原料となっていた植物がご禁制の品――つまり麻薬だったことが判明し、依存症になっていた患者が供給元が絶たれて混乱が起こった。
こうしてわたしとクーディリアは表向きは普通の冒険者としてモンスターを狩ったりしながら、裏では麻薬取引の大手を潰したことになる。
しかし、それも表に出ず、店員たちも何も知らなかったらしく、パルモ一人の罪になった。
そっれにしても転生者ってろくなことしないわね。
こんなのを世界中から消して回るなんてわたしって結構気が長い野望を持っているのかもしれない。
RKR-転生者殺しの転生少女 第1章 完
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