第9話 異世界学園ガチャスキル
「ハッ!? 俺は何を!? この記憶は!? まさか洗脳魔法!?」
「いいえ。今のは並行世界の創造と統合よ」
取り乱して周囲を見渡す俺を落ち着かせるように、真宮先生は語り始めた。
「この宇宙には並行世界と言って、無限に可能性の未来が広がっているわ。君が何かを選択する度、別の選択をした場合の世界が生まれる。それぐらい、世界は分岐いやすい性質を持っているとも言えるわね。今のは、もしも君に朝倉倉音という幼馴染がいて、親も良心的で家族ぐるみの付き合いをしていたら、という並行世界を生み出してから、君という存在を分離、10年後にこの世界の君と統合させたの。それは、君自身がよくわかっているんじゃない?」
ふと、俺はズボンをたくしあげた。
果たして、膝には野良犬から倉音を守った時についた傷跡が残っていた。
他にも、なんだか前よりも身長が伸びている気がする。
顔に触れた違和感から宿直室の鏡を覗き込んで息を呑んだ。
そこには、元の俺の顔を原型としながらも、凛々しく精悍な容貌が映っている。
正直、イケメンと言っても差し支えない。
お隣さんが今の俺を見たら「親戚のお兄さん?」と聞いてくるかもしれない。
「これが、俺?」
「そう。大切な倉音ちゃんを守るために悪者に立ち向かいながら運動をするようになって、彼女との日々でストレスからも解放された姿が、今の君だよ」
今までは少し見上げていたはずの真宮先生を見下ろすと、彼女は両手で俺の顔に触れてきた。
「前の子犬っぽい七草君も好きだけどこっちの七草君もかっこよくて好きだなぁ」
絶世の美女が熱っぽい表情で顔を近づけてくるので、俺は心臓を跳ね上げながら頬を硬くした。
「さて、それじゃあ愛しの倉音ちゃんを召喚してみよっか? 彼女の記憶は異世界召喚の光に巻き込まれたところで終わっているはずよ」
「は、はい」
画面をタップすると、真宮先生の時とは違い、倉音はお尻からころりと転がり出るように出てきた。
制服のスカート越しにもわかるお尻のボリュームに下半身が反応しかけたのは一生の秘密である。
大きなおしりをぺたんを絨毯につけたまま、アヒルさん座りをする倉音は両手を股の間に置いて、眠そうなまぶたをトロンと開いた。
「あ、ナナちゃんおはようございますぅ……ん? あれ、なんでナナちゃん、わたしの部屋にいるんですかぁ?」
「いや、お前の部屋はこんな畳とちゃぶ台の似合う昭和風じゃないだろ?」
比較的裕福な家庭である倉音の部屋は完全な洋室で、プチお姫様風の内装だ。
「……あっ」
俺と目が合うと、倉音は頬をかぁっと赤くした。
「あのねナナちゃん。いま、この世界とナナちゃんのスキルのことがわかったんですけどぉ……」
一度うつむかせた顔を上げて、彼女の熱い視線と目が合った。
「わたし、ナナちゃんの幼馴染になるために神様に作られた限定モデルなんですね。ていうことは……わたしとナナちゃんが出会ったのって……運命だよね?」
「え!? そう、なるのか、な?」
「えへへぇ、やっぱり、わたしとナナちゃんは運命の相手なんだぁ」
倉音は両手で顔を覆いながら、一生分の幸運がまとめて来たようにうれし涙をこぼしていた。
真っ赤な顔で嬉し涙を流す美少女の持つ魅力は底無しで、俺は完全に倉音に掘れてしまった。
ついでに、彼女両肘が特盛のおっぱいをむぎゅぎゅ~っと潰して圧縮する様は下半身に毒だった。
「あ、じゃあナナちゃん、今日の晩御飯はわたしが作ってあげますね。ナナちゃんの大好きなぷるぷる卵入りのカレーライス作りますぅ♪ つけあわせのサラダには和風ドレッシングをかけて、あ、牛乳とコーヒーがあるので、ナナちゃんの好きなコーヒーを一割混ぜたビター牛乳ができますよぉ♪」
宿直室の冷蔵庫をあさりながら、倉音は上機嫌にお尻を揺らしながらテキパキと料理の準備を始めた。
倉音の趣味は料理で、小学生の頃から、たびたびお世話になっている。
「…………」
倉音を守るためについた膝の傷跡、真宮先生よりも高くなった目線、鏡に映る精悍な顔立ち。
そして鮮明に思い出せる、倉音の作ってくれた料理の味。
異世界に召喚される日も、俺は休み時間に倉音の作ってくれた弁当を食べた。
さっきの今だからか、真宮先生は並行世界との統合とは言うけれど、俺には倉音と過ごした世界が二週目の人生にしか思えなかった。
賀山たちと過ごした一週目の世界のほうが夢に思える。
――倉音は、俺のスキルで生み出された人工生物でもキャラクターでもない。10年間、俺と思い出を育んだ、本物の人間なんだ。
朝倉倉音。
一週目の人生で俺がとうとう手に入れられなかった。俺の大切な友達……。
「倉音」
いつのまにか、俺は台所に立つ彼女をうしろから抱きしめていた。
「な、ナナちゃんッ!?」
腕の中で緊張しながらドンドン体温を上げていく倉音の存在を確かめるように体を重ねながら、俺は彼女の耳元でささやいた。
「倉音は、俺が守るよ」
「ッッッ~~~~!?」
途端に、彼女の体重がずっしりと預けられた。
見れば倉音は幸せそうな顔で昇天しており、すっかり意識を失っていた。
「えっ!? なんで!? どうした倉音!? 真宮先生! 倉音が目を覚ましません! 回復魔法も効かないです!」
「う~ん、七草君、君はもうちょっと乙女心を勉強しようか?」
「その冷たい笑顔はなんなんですか!? 俺が何をしたっていうんですか!?」
三人ぽっちりの宿直室に、俺の絶叫が木霊した。
◆
同じ頃。
城へ戻った賀山たちは、地獄のような環境に置かれていた。
謁見の間に集まった賀山たち、とは言っても、賀山は未だ憔悴状態なので、造園寺が最前列中央に立たされている。
「ほう、つまりダンジョンボスの正体がネクロマンサーで死んだ仲間のナナクサを盾にして襲われ、敗北したと?」
皇帝に睨みつけられて、造園寺は平静を取り繕いながら返事をした。
「は、はい。ですが、前回は中層で止まったダンジョンの最下層までたどり着いたのですから、そこは評価して頂きたいですね」
「黙れ!」
皇帝の一喝に、造園寺は口を閉ざした。
「どうやら、余は貴公らへの対応を間違えたらしい。大切な人材と思い、この数か月基礎訓練や各地での低レベルモンスター討伐を指示したが甘かった。まさか、こんなにも緊張感のない甘ったれ部隊に育つとは」
「甘ったれ、ですって?」
造園寺は怒りを押し殺しながらも、反抗的な態度だけは隠しきれなかった。
「事実であろうが。どうやら貴公たちには一度、地獄を見せて必死になってもらわなければならないらしいな」
周囲の衛兵たちが一歩詰め寄ってきて、生徒たちは怯えながらも虚勢を張るように姿勢を正した。
「お言葉ですが陛下。我々は皆、神から上位の戦闘ジョブを持つ異世界勇者。そもそも、陛下の軍では魔王に勝てないからこそ我々を召喚したのでは?」
正論でなんとか論破を試みる造園寺だが、皇帝は眉ひとつ動かさなかった。
「それは将来の話だ。帝国最強の騎士団には、貴公らよりもレベルの高い者などいくらでもいる」
皇帝の目配せ一つで、衛兵の一人が殺意を以って造園寺に歩み寄ってきた。
「近寄るな!」
反射的に火炎魔法を放つも、衛兵は剣の一薙ぎで紅蓮の業火を蹴散らした。
「なっ……ガハッ!?」
鋭いボディブロウが叩き込まれて、造園寺は体をくの字に曲げながら、膝を折った。
異世界勇者であり、なおかつ正統な勇者ジョブを持つ賀山に並ぶ主戦力の敗北に、源田や権藤、弁村たちは縮み上がった。
「だが、余は慈悲深い男だ。選ぶがよい。地獄の特訓で死に物狂いに強くなるか、それとも奴隷に堕とされるか」
それで皆は気が付いた。
皇帝は、最初から便利な道具のつもりで自分たちを召喚したのだ。
これは、ストレスフリーな異世界転移チーレムストーリーなんかじゃない。
自分たちは外国拉致監禁された、テロリズムの被害者だったのだ。
今まで、日本でも異世界でも常に安全圏から他者を虐げ搾取する側であった彼らは今、この瞬間から本当の恐怖を知ることになったのだった。
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人気が出たら本格連載したいです。
異世界学園ガチャスキル 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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