第8話 学園ガチャを回せ!

 最速でダンジョンから脱出して宿直室へ戻った俺はシャワーを浴びると、火照った体に冷たいコーラを流し込んで息をついた。


 異世界ファンタジーにはミスマッチだけれど、生きているという実感してやめられない。


「ふふ、今日もおつかれさま。ところで七草君、ガチャを開いてくれる?」

「はい……え?」


 言われるがまま、ステータス画面からスキル画面を開くと、俺は目を疑った。


 大量のモンスターを倒した結果、ガチャを大量に回せるようになっているのはわかるけど、そこには【★5確定チケット×1】とある。


「おめでとう。それはダンジョンボスを倒した報酬よ。まず試しに、普通にガチャを回してみて」

「はい」


 画面をタップすると、ガチャが回り、光の中から一枚のカードが表示された。

 カードは【★1シャープペンシル】だった。


「続けて、10連ガチャを回して」


 【ガチャを回す】の下には【10連ガチャ】という表示ある。

 こちらは、★4以上が最低1枚は出るのが確定するボーナス付きだ。

 ちなみに排出率表には、

 ★1 50パーセント

 ★2 25パーセント

 ★3 15パーセント

 ★4 09パーセント

 ★5 01パーセント

 とある。


「1パーセントを切らないなんて、良心的なガチャですね」

「私は地球のガチャが異常なだけだと思うよ……」


 真宮先生が辟易とする横で、俺は10連ガチャを引いた。


【★1週刊少年ジャ●プ】

【★1制汗剤】

【★1あんぱん】

【★1オレンジジュ―ス】

【★1爪切り】

【★2ジャージ】

【★2女子の制服】

【★2ジーパン】

【★3間接照明器具】

【★4ニ●テンドースイ●チ】


「え、ちょ、ジャ●プとスイ●チって学園生活に必要なんですか?」


 俺の能力は、学園ガチャである。


「学園生活でみんなの話題についていくには必要ということね。それよりも女子の制服は先生に着せるためかな?」

「ち、違いますよ!」


 真宮先生の爆乳女子高生スタイルを想像してしまったことを恥じながら必死に否定した。


 幸い、真宮先生は追及することもなくイタズラっぽく笑いながら、説明を続けてくれた。


「カードになったものはいつでも出し入れできるから遠慮なく使っていきましょう。じゃあ本命の、★5ガチャで生徒を引いてくれる? きっと、これから君のことを助けてくれる仲間になってくれるはずよ!」


 ぐっと握り拳を作って、真宮先生は鼻息を荒くした。


「は、はいっ」


 次はどんな人が出てくるのか。

 また、真宮先生のように素敵な人が出てくることを期待して、俺は★5確定チケットをタップした。

 すると★5確定演出なのか、光が虹色に輝いた。

 ドキドキハラハラしながら光が晴れるのを見守っていると、それは現れた。


【★5 理想の幼馴染・朝倉倉音】

 ジョブ:恩寵師おんちょうし

 スキル:幼馴染特権 以心伝心 全バフ魔法

 レベル:80

 身長:164センチ

 

 画面に、ひどくムチましい女の子が映っていた。


「あらあら、おっぱい大きい」


 あんたが言いますか? と心の中でツッコミながら、俺は眉根を寄せた。


「あのう……理想の幼馴染って書いていますけど、俺に幼馴染なんていませんよ?」


 さらに、嫌な予感がしてくる。


「もしかしてですけど、自称幼馴染っていう設定の女の子が召喚されるんですか? しかも、無条件で俺のことを好きになるっていう暗示のかかった」


 だとしたら興ざめだ。

 心のないロボットをはべらせて喜ぶような悲しい趣味はない。

 けれど、そんな俺の心を見透かしているように、真宮先生はウィンクをくれた。


「うふふ、心配ご無用。学園ガチャは世界の理すらも超える究極スキル。朝倉さんは、君の本物の幼馴染だから」

「それってどういう――」


 そこで急に意識が遠のいて、俺は何も感じなくなった。


   ◆


「そうなんですよぉ、うちの子も今日からこの幼稚園に入園するんですよぉ。ほら倉音、あいさつして」


 知らない女の人の陰から、ひとりの女の子がおそるおそる顔を見せた。

 小柄でゆるい癖毛のかわいい、垂れ目の女の子はもじもじしながら俺にあいさつをくれた。


「はじめまして、わたし、あさくらくらねです。おともだちに、なってください」



 その日、倉音が野良犬に襲われて助けに入ると、膝を思い切り噛まれた。でも、その日から俺と倉音は仲良くなった。


 小学校にあがると、毎日一緒に手を繋いで通学した。


 学校では男子たちに夫婦だとからかわれたので無視をしたけど、倉音がはずかしがったので男子たちをとっちめてやった。


 倉音が、七夫くんとなら嫌じゃないよと言ってくれて俺も恥ずかしくなった。


 それから毎年、一緒にお花見に行って、夏祭りに行って、海に行って、スキー場ではすべれない倉音に付き合って一緒に雪だるまを作った。


 バレンタインチョコは毎年義理チョコをくれたけど、中学に入ってからは義理チョコの形がハートになったことを深読みしてしまう自分を叱咤した。


 幼い頃はつるぺただった倉音は中学に入ってから背も伸びて、出るところがみるみる出てきて、高校では思春期男子たちの注目のマトだった。


 そして、何故か俺が恨まれた。


 そんなある日、俺と倉音は謎の光に包まれてこの異世界に……。



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