第7話 じゃあダンジョンを出たらシャワーを浴びてコーラ片手にポテチとチョコを食べながらネトフリでアニメを見ましょう!
腕のシルエットが崩れ落ち、後に残ったのは皇帝から授かった宝剣の片割れだけだった。
賀山の頬を、某だの涙がつたい落ちていく。
「うでぇえええええええ! うでぇええええええええええええええ! オレのぉおおおおおお! あぁあああああああああ! 嘘だぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
腕さえあれば、切断面を合わせて回復魔法をかければ治る。
そんな期待があったのだろう。
けれど、腕が跡形もなく消えてしまった今、もはやその望みは完全に絶たれてしまった。
「ぼ、僕は悪くないぞ! 七草がよけるから悪いんだ! 七草! どうしてくれるんだ!?」
「知らないよ」
「ぎぃいいいいあああああっ! あっ! アっッ――」
そこで賀山の悲鳴はぷっつりと途切れて消えた。
肉体的ダメージか、精神的ショックか、あるいはその両方だろう。
「賀山!? くそっ、なんでだ! なんで七草なんかに!」
説明するのも面倒なので俺が黙っていると、代わりとばかりに真宮先生が口を開いた。
「あのねぇ君、ダンジョンボスを倒した時点で七草君が君よりも強いのは明らかでしょ? 自分に都合の悪い情報は嘘だと決めつける思考停止、自業自得ね」
「ッ、学年首席の僕をバカにしているのか!? 第一七草がこんな強いなんておかしいじゃないか! こいつだって僕らと同じタイミングでこの世界に召喚されて、しかも戦っていないからレベルは1のままだろ!? それがたった一日で!」
激昂する造園寺とは対照的に、真宮先生は余裕の態度を崩さなかった。
「ふ~ん、じゃあ聞くけど、昨日と違って君たちが全員ボス部屋に来れているのはなんでかな?」
「そ、それは何故かモンスターがいなかったから」
「なら、誰かがモンスターを駆逐したとは思わないの? いや、想像できないのかな?」
「ま、まさか!?」
顔を歪めて驚愕する造園手に、真宮先生は頷いた。
「そう。このダンジョンのモンスターは、全部七草君が倒しちゃったの。補充されるには数日かかるでしょうね。もう、彼のレベルは君らの遥か先よ」
「な、な、なぁ……あ……」
眼鏡をずり落としながら愕然とする造園寺から視線を切って、俺はあらためて出口へ向かった。
「じゃあ、俺は行くからな。かかってくるなら、賀山と同じになってもらうぞ」
今の脅しが効いたのか、造園寺を含め、みんな恐怖に顔を歪めた。
だが、回復魔法で火傷から立ち直ったのだろう。賀山と同じ一軍女子の源田が声をあげた。
「ま、待ちなよ七草。あんたすっごい強くなったじゃん。あんたあたしらのリーダーなんない?」
みんなはぎょっとするが、ハッとして源田の尻馬に乗った。
「そ、そうそう。そうだよ七草」
「もう賀山は再起不能って感じだし。ねっ?」
「だな。今ならお前のこと、認めやってもいいぜ」
「だから、どうやって一日で強くなったのか教えてね」
あまりに身勝手な言い分に、俺は少し苛立った。
真宮先生のおかげで過去のクラスメイトなんてどうでもよくなった俺だけど、ここまでしつこいと同情する気もなくなる。
「昨日、俺を裏切っておきながら手の平返しが通じると思っているのか? お前ら、どれだけ自分に価値があると思っているんだよ?」
「あ、あれは仕方ないじゃん! 生き残るためにはさ!」
「そうだよ! ちょっと強くなったからって偉そうに!」
「七草君が同じ立場だったら絶対に同じことしたよ!」
「ていうかお前が強くなれたのってその爆乳ちゃんのおかげだろ? オレらも同じ方法使って強くなれば魔王なんてイチコロだぜ!」
「世界を救うためだ。嫌とは言えないよな?」
墓穴を掘ってくれた元クラスメイトたちに、俺は冷たい感情で淡々と尋ねた。
「つまり、自分が助かるためにクラスメイトを裏切るのは仕方ないし、立場が逆なら俺も同じことをしたはずだから、お前らは悪くないってことだな?」
何を勘違いしたのか、連中はチャンスとばかりに頷いてきた。
「うんうんうん!」
「だからさ、過去は水に流してこれからは一緒にやっていこうよ!」
誰かに回復して貰ったのか、真宮先生にブチのめされた弁村先生まで上から目線に加わる。
「そうだぞ七草! せっかくクラスの仲間たちが手を差し伸べてくれているのに断るなんて人として最低だぞ! いいか、これはお前が人として一回り成長するためのチャンスなんだ! 一度や二度裏切られたのがなんだ! 何度裏切られたって助ける。それが真の友情でありワンフォーオール、オールフォーワンの精神じゃないか!」
自然、俺の口元に薄い笑みが浮かんだ。
「だから、俺はお前らを捨てるよ」
きょとんとする連中に、漂白された言葉を紡いでやる。
「自分が助かるためにクラスメイトを裏切るのは仕方ないし、立場が逆なら俺も同じことをしたはずで、裏切られても助けるのが真の友情なんだろ? じゃあ、お前らと一緒にいたらまた殺されそうだから、俺は自分が助かるためにお前らを見捨てるよ。でも、もしも俺が困っていたらお前らは助けてくれるんだろ? それが友情だもんな?」
『ッッッ~~~~~!!!』
源田や弁村、造園寺、権藤は深く歯噛みしながら反論の言葉を出せず、悔しそうに震え続けた。
「じゃあ先生、帰りましょうか」
「そうね。じゃあダンジョンを出たらシャワーを浴びてコーラ片手にポテチとチョコを食べながらネトフリでアニメを見ましょう!」
「シャワー!?」
「コーラ!?」
「ポテチ!?」
「チョコ!?」
「ネトフリでアニメ!?」
「ええ。私の能力で作った宿直室はね、生徒の人数分の飲食物が毎日自動補充されるしネットも完備されているのよ。受信しかできないから地球と連絡ではできないけどね♪」
先生にとびきり明るい声に、連中は物欲しそうな表情とプライドがせめぎ合う複雑な表情をしていた。
けれど、興味がないので俺は早々に踵を返して、ボス部屋を後にした。
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