第107話 間男としての本性&悪女の片鱗

―王太子視点―


 俺は自室で笑う。もう少ししたらソフィーが来るはずだ。

 あいつの口からグレアに対する不満を聞いてから、あいつの警戒心は、目に見てわかるほど弱くなってきていた。


「当り前だ。女にとって、弱みや不安を共有してくれる人間は、味方だと勘違いしやすい。それがたとえ俺のようなクズだったとしてもな」

 たしかに、俺はクズだが、それでも力はある。たとえ公爵家の後継者だったとしても、超えることはできない。ソフィーも本来ならだれもがうらやむであろう貴公子を裏切って、俺を選んでくれた。その事実が、俺の自尊心を高めてくれる。


「これであの女は、もう何でも言うことを聞くだろう。楽しくなってきた。もし、運命が少しでもずれれば、一国の王女のように扱われていた女。もしくは、公爵家の良妻賢母になっていたはずの女。その女が、性欲に狂い俺のもとにやってくる」

 この背徳感が最高のスパイスになっている。あの女は俺のお気に入りだ。学校を卒業した後も、遊び相手として面倒を見てやる。表向きは、公爵家の婚約者が、裏では俺のおもちゃ。最高じゃないか。


 俺は女が変わっていくのが大好きだ。少しずつ重厚なワインも口にするように変わっていく。少しずつ、罪悪感が薄れて、密会に喜びを見出して変わっていく。生真面目な女が、婚約者の悪口を言うように変わっていく。その様子を特等席で眺める。


 これが将来、国の頂点に立つ俺の特権でもある。これから、ソフィーは俺とグレアを比べて、俺のほうがあらゆる面で有利であると刷り込ませて、グレアを陰で馬鹿にする女にしてやる。


「これを知ったとき、グレアはどんな顔をするんだろうな。あいつが絶望に染まる瞬間が楽しみだ。そして、その時のソフィーの顔も……」

 こういう時に、女側もすごい顔をする。隠していた罪悪感が一気に溶け出すような、そんな絶望感に染まるあの一瞬が好きなんだ。


 今はお気に入りの女だが、それも長くは続かない。どこかで捨てる時期がやってくる。あの女を正室に迎えるなどありえないのだから。だからこそ、あの女を捨てる時は、最高のショーにしてやろう。


 足音が聞こえた。さあ、刹那の快楽の時間だな。

 俺は優しく、彼女を受け入れた。


 ※


―ソフィー視点―


 すべてが終わった後、私は殿下の顔を見つめる。心がきしむほど、美しい顔が目の前にあった。儚さを含んだ笑みが、私の心を溶かしていく。


「なあ、ソフィー、意地悪な質問をしていいか」


 わたしはゆっくり頷く。


「俺とグレアどっちが好きだ?」

 それは踏み絵のようなものだ。なら、一時の関係だとわかっているから、少しだけリップサービスをしてしまう。


「今だけはグレアみたいな男の話はしないでください。結局、あの男は口だけで、殿下のように私を救ってはくれないもの。力も男性としての魅力も、あなたはグレアと比べ物にならないくらい魅力的です」


 彼は満足そうに笑う。そして、私は続けた。


「私は、グレアじゃなくて、あなたと一緒に添い遂げたいです」

 今の自分は邪悪に笑っているのがわかった。

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