お狐全裸よ、永遠なれ

 マナイタスキーハウスの騒動から逃げるようにダンジョンゲートをくぐり、振り返る。追ってはいない。受付ごと建物の一部を崩落させたので、みんな入口側へ逃げていた。

 

「しまった。お雪を置いてきたか……?」

「ちゃんとついて来てますよ!」


 お雪がムッとした顔で、俺の服を抱えてやってくる。


「どうするんですか! 堅気じゃない悪党たちを怒らせたら大変ですよ!」

「すまん、見過ごせなくて、気がついたら脱いでいて」

「気がついたら脱げちゃうことなんてないです!」

「まあまあ、細かいことは一旦置いておこう」

「全然細かくないですけどね!」


 服をちゃんと着て、荷物を背負い直す。

 

「しかし、この扇子、たぬきたさんのところの地下で試用させてもらったが、実践で申し分ない威力だ……」

「恐ろしいです、あんなに軽く振っただけであの旋風。まさしく風神の如し。赤宮さんの変態的なステータスだからこそなし得る効果なのでしょうね」


 『濃霧の扇子』は恐るべきポテンシャルを秘めているのやもしれない。

 

 ━━からから


 軽やかな骨の鳴る音。


「わわ、スケルトンです。本物のモンスターです! お雪は初めて見ました!」

「下がるんだ、ここは俺が」


 俺は軽い足取りで近づき、間合いを測る。

 全裸ではないし荷物も背負っているので、正装に比べれば速度はめちゃ遅いが、それでもスケルトンならば十分に翻弄できる。

 

「ここだ」


 スケルトンに一回腕を振らせたあと、素早く扇子で突いた。

 その様フェンシングの如し。スケルトンの胸骨へ一直線に当たり━━その瞬間、骨が砕け散り、爆散した。


「ふわあ、さすがは赤宮さんです」

「たぬきたの所で試用しとうてよかった」


 扇子でできることは大体わかっている。

 この扇子で攻撃する全てのアクションに敏捷ステータスの補正が乗る。扇を閉じて、突いても、殴っても、扇で開いて斬っても、すべてが敏捷補正で強化されるのだ。


「負ける気がしない」

「赤宮さんは最強です」


 俺とお雪はダンジョンで暴れた。

 スケルトンを片っ端から倒した。

 苦戦することはない。全員ワンパンなんだもん。

 俺のスピードについてこれるものはいなかった。服を着て、荷物を背負っていてもだ。


「金目のものは回収できましたよ、赤宮さん」


 ダンジョンの一室で俺たちは指輪やら、盃やら、食器やらを持ち帰ってたんまり回収した。いわゆる換金アイテムだ。ダンジョンの主要な獲物である。


 とりあえず、一旦はこんなところだろう。

 俺たちは満足し、ダンジョンを出た。


「総額で31万といったところだなも。信じられない収穫だなも」


 たぬきたとの契約で金目のものは優先的に彼━━あるいは彼女?━━へ売り払った。稼いだお金で俺とお雪は生活を安定させることを考えた。


 ダンジョンで稼ぎ、悪党を倒し、生活は豊かになっていく。

 すべてが順調に動き出していた。

 


 ━━エージェントPの視点



 お狐全裸がダンジョンビレッジに出現してから2週間。

 エージェントPは神妙な面持ちで、かの変態の手配書を眺めていた。


「お狐全裸がまた出ました。ついに因縁の『マナイタスキーハウス』を単独で潰したようです」


 部下の報告を聞き、片眉をあげ「マジで?」という顔をするエージェントP。


「……やつの【手配度】を★★★★★に引きあげろ」

「またですか? 恐ろしい頻度で手配度上がってますけど……」

「やつは強すぎる。ダンジョンビレッジのパワーバランスが崩れ始めてる。すでにこのいかれた無法地帯を牛耳る6つの”ハウス”のうち1つを潰した。たった2週間でだぞ? 前代未聞だ」

「ま、まあ、確かに……懸賞金はどうなさいますか?」



 ━━お雪の視点


 

 お雪は八百屋で野菜を買い込んで、家への帰路につく。

 寒空の下、鍋の準備をするを楽しみにしていた。


「あああー!」


 壁に貼ってある真新しい指名手配書を見て、お雪は買い物袋をとり落とした。

 手配書を剥がし「ま、また手配度が……!」と愕然とする。


「ヒョッヒョッ、この『鮮烈なるロリコン』今日もかわい子ちゃんみっけ♪」


 お雪は変態の声に振り返る。

 長身男が少女に詰め寄っているではないか。

 まだ昼間だというのに相変わらずの恐ろしい治安だ。


 お雪は冷や汗を流し、自分の先日見た『鮮烈なるロリコン』の指名手配書を思い出す。


(★が4つのスーパー厄介者……! たしか懸賞金は1億近かったような!)


「そこな変態野郎、少女から離れるんだ!」


(もっと厄介な人が来ました!)


 お雪は確信しながら空を見上げた。

 声の主人は雑居ビルの屋上だ。通りの皆の視線が集中する。

 太陽を背に腕を組む男━━誰だ! 一体何者なんだ! 


「ヒョッヒョッ、私の鮮烈なる幼女テイスティングを邪魔するとはいい度胸だ」

「無垢な少女に発情し、昼間から公衆の面前で痴態を晒す。制裁に値する。とうっ!」


 雑居ビルの上から男が飛び降りてくる。

 シュタッと軽やかに着地し、この2週間の間で無駄に洗練された舞を披露したのち、バシッとキレのある動きで足を広げて決めポーズ。


「お狐全裸、ただいま参上」


 今日もネオ群馬シティの平和はお狐全裸によって守られている。












『極振り庭ダンジョン』 完結














━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【あとがき】


 こんにちは

 ファンタスティックです


 というわけで以上で『極振り庭ダンジョン』は完結です。

 たくさんの読者に受け入れられる物語を作ろうと思ったのですが、上手くいきませんでした。赤宮禅とお雪の物語は長編シリーズする構想で、指名手配制度を導入して、ダンジョンの内外で活躍し、いい感じに主人公が大物になっていくストーリーを描きたかったのですが、続けることは難しくなってしまいました……ですので、ここで物語を終わりとしたいと思います。


 やっぱり全裸で指名手配されて暴れ回るのが良くなかったですかね……面白いと思ったんだけどなぁ……。


 この物語を楽しんでくれましたら、コメントとか残してくれると幸いです。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。

 またいつか別の作品でお会いしましょう。

 失礼いたします。


 


 ファンタスティック小説家

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】 極振り庭ダンジョン ファンタスティック小説家 @ytki0920

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ