プレゼントとして貴方が欲しい

御厨カイト

プレゼントとして貴方が欲しい



『私はサンタさんが欲しいです』



真っ白な雪がしんしんと降り積もる、12月24日。

俗に言う「クリスマスイブ」

仕事で入ったある女の子の部屋でサンタクロースの俺はそんな手紙を読んで苦笑いしていた。



「……ハハッ、まーたおませちゃんかな」



どうやら、差出人を見てみると中2の女の子のよう。

やっぱり多感な時期だからか、たまーにこういった手紙が置かれてあることがある。

まぁ、サンタクロース自体人気な職業だし、どんな人が家に来るのか事前に知らされてるというのもあると思う。

正直、こういった手紙が嬉しいけどね。

流石に応えることは出来ないけど。


でも、来たからには何かプレゼントを置いて行かないとな……



俺は頭をポリポリと掻きながら、寝ている女の子を起こさないよう、静かに必需品である白い大きな袋の中から手軽なプレゼントを探す。



すると、奥から中々良さそうなネックレスを見つけた。

ピンクゴールドのチェーンにハート形の板がチリンと揺れるネックレス。

うん、結構可愛い奴だと思う。

……あまり、この年代のトレンドが分からないから心配ではあるけど。

気に入ってくれたら嬉しいな。


あと折角こういった手紙を書いてくれたから返事も書いておこうか。

流石に22歳の男が14歳の女の子に手を出すのは事案だから応えられないけど、書いてくれた勇気を讃えてっ……と。



『きっと、君のような優しい子なら私以上の素晴らしい人に出会えると思います。なので、その言葉はのちに出会う人のために取っておいて下さい』



よし、これでいいかな……って時間がヤバい!?

そろそろ次の子のとこに向かわなくちゃ!



俺は急ぎながらも寝ている女の子を起こさないように窓へ向かう。

そして、その寝ている女の子へ小さく「メリークリスマス」と呟き、勢いよく窓から飛び降りて、次の子の元へと向かうのだった。










********










『私はサンタさんが欲しいです。なので、サンタさんの好きな服のジャンルが知りたいです』




今年もやってきた、サンタクロースとして1番忙しい日である「クリスマスイブ」

俺もその例に漏れず、必需品である白く大きな袋を持って指定された地域の子供たちの元へプレゼントを配りに東奔西走していた。

……と言っても担当する地域が変わることはめったに無いから、もう殆どの家の場所は覚えてるんだけどね。

その中でいかに早く、効率的に周れるかがカギになってくる。



……でも、まさか今年もこんな手紙を貰うとは思ってもいなかったな。

しかも、去年と同じ子。

なんか追加情報も要求されているし。

正直、去年のアレで終わると思ってたんだけど。


まぁ、相変わらず応える事は出来ないけど、服のジャンルぐらいなら教えても良いかな。

あんまり重く考えてもしょうがないし。

もしかしたら一種の気の迷いで書いたのかもしれないしね。

これがガチだったとしたら……それはそれでその時考える。



『嬉しいお手紙ありがとう。その気持ちには応えることは出来ないけど、好きな服のジャンルは教えることが出来ます。私の好きな服のジャンルはカジュアル系、ワンピースが好きです』



お返事としてはこんな感じかな。

でも、何か物としてのプレゼントも置いて行かないといけないからなー……どうしようか。


「うーん……」と考えながら、俺は寝ている女の子を起こさないように静かに袋の中を漁る。

そういえば同期が「へぇー、最近はこういうのが流行ってるんですね」とプレゼントを詰める時に言っていた服があったはず……



確かこの辺に……あった!

カジュアル系の黒いワンピース!



……ていうか俺の好みの服じゃん。

ただの偶然だけど驚きを超えて、最早面白い。

よし、今年のプレゼントはコレかな。

なんか狙ってるみたいけど……とりあえず気に入ってもらえたら嬉しい。



それじゃ、ここも終わったから次の子のとこへ向かいましょうかね。

去年よりかは時間の余裕があるからか、寝ている女の子を起こさないように俺は慎重に窓へと向かう。

そして、寝ている女の子の方へ振り返り、小さく「メリークリスマス」と呟いて、次の子の元へ向かうのだった。











********









『私はサンタさんが欲しいです。なので、サンタさんの好きな髪型が知りたいです』





今年もやってきました、年に1度の繁忙期「クリスマスイブ」!

……でも忙しいのその1日だけだから正確には「繁忙期」とは言わないけど。

まぁ、そんなことは置いといて今年もしゃかりきとなって俺は子供たちの家を周っている。

そろそろこの仕事もやり始めて4年経ち、ある程度慣れてきたからか幾許かの余裕が出てきた。



そんな訳で今回も少しドキドキしながら、あの女の子の元へ向かう。

窓から慎重に入り、机の上に置いてある手紙を開く。

……相変わらずの内容でした。

もう彼女との1年に1回の交換日記みたいになってきてる。

ほぼほぼ彼女からの一方通行だけど。


個人的には面白いし、あまり気にして無いから別に良いけどね。

ただ「サンタクロース」という職業に理想を見出しているだけだとしても、年下の子に告られるのは悪い気はしない。

やっぱり期待に応えることは出来ないけど、質問には答えられる。


でも、髪型かぁー……

好きな髪型はあるけど、やっぱりその人に似合う髪型が1番だと思っちゃう。

うーん、それでもこの子が求めている答えは多分それじゃないんだよな。

仕方がない……



『今年も嬉しいお手紙ありがとう。その気持ちにはやっぱり応えることは出来ないけど、好きな髪型は教えることが出来ます。私の好きな髪型はナチュラルストレートです』



サンタクロースは担当している地域の子供たちの情報をある程度知ることが出来る。

だから、彼女の顔とかも知ることが出来るのだが、その顔写真を見たうえで1番彼女に似合いそうな俺の好きな髪型を書いた。

まぁ、俺は自分の好みを書いただけだから、その通りにするかは彼女の自由だけど。



あとは物としてのプレゼントか。

多分、俺がこれに答えるだけで彼女のプレゼントは完遂しているはずなんだけど、決まりで物としてのプレゼントを渡さないといけないから仕方がない。

それにしても……今回はどうしようかな。



「むむむ……」と頭を悩ませながら、寝ている女の子を起こさないように袋の中をガサゴソと漁る。

髪型の情報を求めてくるのなら、プレゼントもそういう方向性のものが良いよね……

……おっ、これとか丁度良くない?


そう思いながら、俺はある物を袋の中から取り出した。

髪を整える時に必須であろう、ヘアアイロン!

生憎俺は使った事は無いけど、姉とかがよくこれを使って髪型を整えていたから今回のプレゼントとしてはピッタリなのではと思う。



よっし、じゃあ今年はこんな感じでオッケーですかね。

次の子のとこへ向かう事にしますか。

俺はある程度時間の余裕があるからか、寝ている女の子を起こさないようにゆっくりと窓の方へと向かう。


そして、彼女の方へ振り向き小さく「メリークリスマス」と呟いて、次の子の元へ向かうのだった。








********








『私はサンタさんが欲しいです。なので、サンタさんの好きなメイクのジャンルを教えてください』





今年もサンタクロースとして1番慌ただしい日である「クリスマスイブ」がやってきたけど、忙しいのは毎年変わらないので以下略。

とりあえず、この仕事も5年目なのでだいぶ慣れてきました。



そんな訳で今年も彼女の元へ行く訳だけど、ここまでくると彼女との手紙も何が来るのか期待をしてしまう。

若干楽しみにもなってきた。

ドキドキしながら、彼女の家の窓から中に入り、机の上にある手紙を読む。

内容に関してはやっぱり相変わらずであるが、逆に変わって無い事に安心する。

サンタクロースとしてプレゼントを配るのは18歳まで。

来年、最後の手紙がどうなるか、非常に胸が高まる。



うーん、今年はメイクか……

俺が男だから、あまりにメイク自体に触れて来てないからいざ問われると難しいな。

いや、最近は男でもメイクするらしいから、ただ単に俺が興味無かっただけか。


……それにしても、女の子は高校に入ると一気に変わるという話はどうやら本当だったみたいだ。

最初は服、次に髪型、そしてメイク。

俺に要求してくる情報のレベルがどんどんと上がっているように感じる。

ガチで最後の手紙は何を要求されるのだろうか。


今年はどう返事を書こうか、結構悩む。

応えることが出来ないのは相変わらずだが、単純にメイクに対しての知識が無いから頑張って捻りだすしかない。

今まで見てきて好きだった芸能人とかの特徴や共通点を脳内で探し出していく。


……色々好きな芸能人の顔を思い出していると、案外自分の好みが分かりやすくて笑ってしまいそうだ。

目元とかがキリッとしているメイクがどうやら自分は好きらしい。

俗に言う「クール系」ってやつ?

分からないなりに捻りだしたからこれで勘弁してほしい。



『今年も嬉しいお手紙ありがとう。その気持ちには今回も応えることは出来ないけど、好きなメイクのジャンルは教えることが出来ます。私の好きなメイクのジャンルはクール系です』



返事はいつも通りこんな感じで良いとして、物としてのプレゼントを考えなくては。

と言っても、今回は単純にメイクセットとかで良い気がする。

確か、プレゼントを詰める時にあった気がするし。



寝ている女の子を起こさないように、袋の中で目当てのものをガサゴソと探す。

すると、意外にもすぐ見つかった。

これで今年のプレゼントも無事完遂かな。


プレゼントを机の上に置いた俺は、次の子の元へ向かうため窓へと向かう。

大分時間の余裕があるからのんびりと。

そして、窓に着いたら彼女の方へ振り向き小さく「メリークリスマス」と呟いて、次の子の元へ向かうのだった。









********











真っ白な雪がしんしんと降り積もる、12月24日。

俗に言う「クリスマスイブ」

サンタクロースとして1番忙しい日である今日、俺はその例に漏れずあくせく働いていた。


……が、個人的には別の事で頭がいっぱいになっている。

5年前、『私はサンタさんが欲しいです』という衝撃な手紙から始まった1年に1回だけの不思議な関係。

その送り主である少女が今年で18歳になる。

18歳という事はサンタクロースからプレゼントを貰えるのは今年で最後という事。

つまり、俺とのやり取りも今年で最後という事。


傍から見たら、俺がただ少女からの一方的な想い&要求を捌いていたように思えるかもしれない。

まぁ、実際そうなのだが個人的には凄く楽しかったし、面白かったのだ。

年でいえば8歳は離れているし、声で話したことも無い、ただプレゼントを置いていただけの関係。

だからこそ、何だか特別な関係だと思っていた。

もしかしたら、それほど大層なものでも無し、彼女もただの遊びだったかもしれない。

正直、どんな最後でも良いと思う。

どっちにしろサンタクロースとして面白い思い出が出来たのだから。



……向かいながら色々考えているとまるで言い訳のような想いが沢山湧いてくるがグッと飲み込む。

良い思い出には違いない。


そんな事を思っていると、とうとう彼女の家に着いた。

ドキドキとした気持ちを抑えながら、窓から静かに入る。

案の定、彼女は寝ているようで忍び足で机へ向かう。



いつもと同じようなピンクの便箋で書かれた手紙が机の上に置いてある。

「ふぅ」と一度息を吐き、手紙を開ける。



そこには――



『私はサンタさんが欲しいです。なので、後ろを向いて下さい』



……えっ?

想像もしていなかった内容に呆気に取られた俺はその手紙の指示通り、後ろを振り向く。




「初めまして、サンタさん」




その先には、月明かりに照らされながらもニッコリと微笑んでいる少女の姿があった。


この顔には見覚えがある。

いつもこの家に来るために見ていた紙に書いてあった。

……そういう事だ。



「こちらこそ、初めまして。1つ確認だけど君がこの手紙を書いた子という事であってるかな?」


「はい、そうです」


「という事は、このような内容の手紙を5年間書き続けたのも――」


「私です」


「……そうだろうね。その恰好を見ればよく分かるよ」



彼女は見た目としては、カジュアル系の黒いワンピースに髪型はナチュラルストレート、クール系のメイクで目元をキリッと仕上げ、首元ではピンクゴールドのネックレスがチリンと輝いていた。

完全に今まで俺がサンタクロースとしてプレゼントした物で全身を固めていた。

……これは俺を堕としにかかっているのか?

だとしたら正解だ。

いや、まだ真意は分からない。



「生憎、僕はこの仕事に結構慣れてしまってね。大分時間の余裕があるんだ。だから、君に今までの事を少し質問したいんだけど、いいかな?」


「大丈夫です、そう来ると思っていたので」


「まず、今まで手紙に書かれていた『私はサンタさんが欲しいです』っていうのはどういう意味で書いたものなのかな?勝手に俺は告白だと受け取っていたのだけど」


「私もその意味で書いていました」


「なら、君は俺の事が好きという事になるのだけど?」


「はい、私は貴方の事が好きです」


「何故?実際、君とこうやって話したのは今回が初めてだし、言ってしまえば俺らはただクリスマスのプレゼントという物によって作られた関係だ」


「……貴方は一目惚れって信じますか?」


「うーん、まぁ、信じてる……けど、理由は欲しいかな」


「さっき言った通り、私が貴方の事を好きなのは一目惚れです。実は私、このような手紙を書く前に貴方と出会ってるんですよ」


「ほう」


「まぁ、出会ってると言っても私が一方的に見ただけなんですけど。あれは今から6年前の今日、私は習い事の関係で帰る時間が凄く遅くなってしまったんです。そんな時、ある家の窓から出てくるサンタさんを見かけたんです。手や鼻を真っ赤にさせ、白い息を吐きながらも優しく『メリークリスマス』と呟いてる貴方の姿を。一目惚れでした。凄くかっこいいなと思ったんです。でも、あのサンタさんの情報は何も知りません。だから、この想いを伝えるのは無理かなって諦めてたんですけど次の年にあのサンタさんが家に来ることを知って、凄くびっくりしちゃって。折角だから想いを伝えたいし、印象に残ってもらいたいと思ってあんな手紙を書いたんです」



早口ながらもそう自分の想いを打ち明けてくる彼女の姿に、恥ずかしながらも嬉しくなってくる。



「……なるほど、聞きたかった事も色々言ってくれたみたいだけど、正直自分の働きというのがそういう風に言ってもらえるのは凄く嬉しいね、恥ずかしいけど」


「あと、実は貴方がこの家にプレゼントを置きに来ていた時、私起きてたんです」


「……えっ、マジで?」


「はい、貴方が必死にプレゼントを考えている時も、ここを立ち去る際に小さく『メリークリスマス』と呟いているところも見てました」


「マジか、これに関しては普通に恥ずかしいな」


「フフッ、それでも私は凄く嬉しかったですよ。凄くこの仕事に熱心なんだと分かって好感度上昇です」


「そりゃ良かった。……まぁ、君の想いというのは十分伝わったんだけど、よく最初の手紙でめげなかったね。普通に告白、振っちゃったんだけど」


「それに関しては単純に貴方の事が好きで諦められなかったからですね」



恥ずかしげも無く言う彼女の言葉に、逆に俺の顔が赤くなる。



「あと、貴方の好みを聞いていたのは印象に残って欲しかったのとあわよくば貴方の好きなもので固めて、私の元へ堕とそうと考えていたからです」


「ハハッ、なるほど。君は結構策士だね」


「よく言われます。でも、実はもう一つ理由があるんですよ」


「もう一つ?」


「はい、最初の手紙でフラれた時、私フラれた原因が年齢のせいだと思ったんですよ。当時私の年齢は14歳。そもそも大人が手を出してはいけない年齢だったわけです。という事はこの年齢のせいで『この子にはそもそも年齢的に手を出してはいけない』という前提が出来てしまうんですよ。なので、18歳まで引っ張ってしまえばその前提も無くなり、純粋に私の事を見て判断してもらえると思ったからあのような印象に残る内容の手紙を書いていたんです」


「……君ってホント策士だね。末恐ろしいよ」


「よく言われます。それでも実際は賭けでしたけどね」


「賭け?」


「だって、普通はこんな手紙が置いてあったら内容は無視して適当にプレゼントを置いて行くだけだと思うんです。でも、貴方はちゃんと返事を書いて真剣にプレゼントも考えてくれた。私はそれが本当に嬉しかったんです」



彼女はそう言いながら、本当に嬉しそうに微笑む。


……俺の行動は間違ってなかったんだな。



「そうか……そうか……良かったよ、そう思ってもらえてて。実際、俺も結構心配だったけどね。『これでいいのか』と普段考えないことまで考えちゃったから。でも、君のその嬉しそうな顔を見れて凄く安心したよ」


「それは良かったです!」


「……それと、今こうやって君と話してみて君の想いや真意を知ったりして、こう軽く言っちゃうのもアレかもしれないし、上から目線かもしれないけど君と付き合っても良いと俺は思ってる」


「ホントですか!」


「でも……やっぱりこういうのって互いの事をもっと深く知ってからだとも思うんだ。だから、付き合う事を前提にまずは友達から始めてみないか?」



正直虫の良い話だとは分かってる。

それでも、彼女が望むのであれば俺は……



「フフッ、ホント貴方って人は真面目ですね」


「だろ?」


「既に知ってましたけど。貴方と付き合いたいと思っていた私からしたら願っても無いお話です」


「本当に……良いの?」


「はい、よろしくお願いします」



そう言いながら笑う彼女が、後ろの月明りと相まって非常に美しく見えた。

……こんな良い子、悲しませないようにしないとな。

策士だけど。




「それじゃ、早速だけどお互いの事もっと知りたいから色々話が――」




その時、いきなりピーピーと腕時計のアラームが鳴り始めた。

空気を壊され「何だよ」と思って腕時計を見ると、どうやらいつもセットしている夜明け2時間前のアラームが鳴ったようだった。



……えっ、もうそんな時間かよ。

いつの間に……

まだ、仕事の残ってるのにマズいな……



「……あの、ごめん、実はまだお仕事残ってて俺行かなくちゃいけなくて」


「私の事は気にしないでください。お仕事、頑張って!」


「ありがとう。お仕事終わったら、また来るから」


「はい!」



俺は慌ただしく、入ってきた窓へと向かう。



おっと、言い忘れるところだった。

俺は彼女の方へ振り返り、「メリークリスマス!」と笑顔で言う。

その言葉を受け、彼女もニッコリと微笑んでくれた。






そうして、俺はプレゼントを待っている次の子の元へ向かって行くのだった。










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