天むすとルームシェア

七寒六温

第1話

 天むすを食べるたびに、あの日のことを思い出す。思い出したくはないけれど、名古屋出身の私は、天むすを食べないなんてことはできない。だって美味しいもん天むす。

 でも、この世に天むすが存在していなければ、私たちは別の人生を歩んでいたのかな……



 事件は、私が住んでいた家の中で起こった。私は、親友の凛を含めた3人とルームシェアをしている。すなわち、犯人はこの中にいる。


「ちょっと待って、天むす。私の天むすがないんだけど……」 

 冷蔵庫に入れておいたはずの私の天むす。夜、食べようと思っておいて残しておいた天むすがなくなっていた。みよしって大きく名前書いていたのに……


 ルームシェアをするにあたって決めたルールがある。1つは、掃除、洗濯、ゴミ捨てはルーレットで決める。基本的に2週間交代。(どうしても用事がある場合は、お助けカードを使用し誰かに頼むこと)

 2つ目が、各々が自分のお金で買ってきたものには名前を書くこと。名前が書いてあるものに関しては、その人以外が食べることは禁止。ただし、名前が書き忘れてあるものに関しては食べてもよしとする。


 このルールは、秩序を守るためには必要なことなのだ。


 「なのに、私の天むすがなくなっている」

 名前を書き忘れた? そんなはずはない。他のものならまだしも、私の地元の名物であり、私の大好物である天むすに名前を書き忘れることなんてなーい!


 これから私は、親友の凛を使って、犯人を探す。探偵業は初めてだけど、犯人は2人に絞られている。それは、同居人の岡崎か結奈だ。凛も同居人ではあるけれど、凛にはアリバイがある。凛は今日一日、私と買い物に出掛けていた。


「みよし、犯人どっちか分かった?」

 これが、私の親友の凛。凛は優しくてしっかり者で、頼りになる。


「今の所、分からない。けれど、必ず解決してみせる!」



「ごめん、ちょっと2人来てもらっていいかな?」

 凛が、容疑者2人を事件現場の台所に呼ぶ。

 

「え? 何? 私課題とか忙しんだけど」

「どうしたの〜?」 

 2人に反省の色は見られない。ここで謝罪の言葉でも出たら、許してあげようと思ったけれど、2人からそんな言葉はなかった。

  

「緊急事態みたい。冷蔵庫に入っていたみよしの天むすがさ、なくなったみたいなんだよね。どちらかが間違って食べちゃったとかない?」

 進行は相棒の凛が。その間に私は2人の仕草や表情を観察する。 


「知らないよ。私、みよしちゃんの食べ物を盗んで食べる程、お金に困っていないよ」

 結奈はそう言う。確かに唯奈はこの4人の中では1番お金を持っている。

「天むすってエビよね? なら私も違う。ごめん言ってなかったけど私、エビアレルギーだから。そういうのは人一倍気をつけてるつもり」

 知らなかった。岡崎がエビアレルギーとは知らなかった。でももしそれが本当なら、岡崎は犯人じゃない。


「ごめん、私 ちょっとトイレ」

 凛が、席を外す。


 すると、岡崎が小さな声で話し掛けてきた。

「あのさ、私の見間違いじゃなければだけど、今朝、凛が天むす食べていたよ」

 まさか、凛が?

 

 トイレから戻ってきた凛をさっそく問いただす。

「ねぇ凛。凛が犯人ってことないよね?」


「天むす? そうだよ私だよ」

 すると凛は、あっさりと認めた。


「え? どうして? 凛は知ってるよね、私が天むす大好きなの……」


「……知ってるよ。でも、みよしだってそうじゃん。私、結から聞いたよ。みよし、猛君と手を繋いで歩いていたんだってね」


「……ごめん、みよしちゃん。私見ちゃって、凛ちゃんにこっそり教えちゃった」


「私の好きな人奪ったから、私だってみよしの好きなもの奪ったんだよ。でも、私は天むす1個だからね」

 凛が、猛のことを好きなのは知っていた。だけど、あの日のことは違う……

 でもそうだよね。見た人が、判断したものが状況だから。


「ごめん。あの日はたまたま私の足が痛くて。だから、私たちはそういう関係じゃない」

 

「信じてたのに。みよしは親友だって信じてたのに」



 それを境に、私たちはルームシェアをした。2人も責任を感じていたみたい。岡崎は、凛のことを私に密告したことを、結奈は、私のことを凛に密告したことを。


 それから、彼女たちとは一度も会っていない。

 どうしているんだろうか……


 今の私には、彼女たちの幸せを願うことくらいしか、できないのです。 

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