cold planet

KTBK

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「うわー綺麗だねぇ」



「………そうね」



12月24日

良い子のもとにサンタクロースがやってくる日。

私達の前にはきらびやかに飾り立てられたツリーがある。

こんな寒い中イルミネーションだけを見に行く酔狂なやつなんているのだろうか、なんて思っていたが。



「………にしても人がいっぱいね」



クリスマスムードというやつなのだろうか。

イルミネーションの前には手を繋いだ男女のカップルが多く見える。

熱々なことだ。



「だねぇ。しっかし寒いなー、マフラー着けてきて良かったよぉ」



「………こんなに寒くても、地球温暖化は進んでいるらしいわね」



「ねー!全然信じらんないよね!」



こんな寒い世界でも、地球温暖化は進んでいるらしい。

世界はどんどんと暖かくなる。


私はそうは思わないが。



「………………」



いつからだろう、現実を知ったのは。

いつからだろう、夢を忘れたのは。


同性を好きになることは異端だし、サンタクロースは存在しなかった。


世界は冷たかった。


いつからだろう、こんなにも冷たくなったのは。



「私、寒いのより暖かい方が好きだし温暖化進んでくれ~って思う!」



「………極端すぎないかしら」



思うに大部分の人の本質は随分と冷たいものなのだろう。

だから恐れているのだ。


冷えた心が、自らが溶けてなくなってしまうことを。

生きるためなら、人はどこまでも冷たくなれる。


私も、そうありたかった。



「来てよかったでしょ!イルミネーション!」



「………そうね」



正直、イルミネーションはあまり好きではない。

煌々と輝く様を見ると、自らの陰りを自覚してしまうから。

自らが光を浴びてはいけない存在だと理解してしまうから。


だから彼女に誘われなかったら考えもしなかっただろう。

ただそれでも今日ここに立っているのは



「………?私の顔に何か付いてる?」



そんな光をものともしない光があるから。



「………綺麗ね」



「!でしょでしょ!」



綺麗だと思う。

少なくとも、目の前の人工的に作られた都合の良い理想なんかよりもずっと。


こんな暗く冷たい世界では随分と輝いて見える。



「優くんとも、いければよかったんだけど」



「………………」



彼女は私とは違う。

分かっていたことだが。


…分かっていたことだが。



「………初詣とか、誘ってみれば」



「………でも」



「私が誘って、ドタキャンしてあげる」



「………いいの?」



言い分けない。



「………いいわよ、別に」



「………ありがとう!」



彼女は太陽だ。


私は叶わぬ理想に近づいて、傷つき続ける。

最近はその痛みすらも暖かく感じる。



「………その代わり今日なんか奢りなさい」



人は一人では生きていけないらしい。

おかしな話だ。


私はこんなにもあなたを欲しているのに。

世界はそれを許さないらしい。



「もちろん!何でも奢ってあげる!」



いい笑顔だ。

本当に。



「………寒いわね」



心の内に燻る熱を冷ましながら

私はこの冷たい世界を生きていく

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