3:拠点設営

 あれから数日が経過し、俺は今日も今日とて畑ダンジョンに潜っていた。


「うおっ! 肉出たぞ、肉!」


 爺ちゃんが宝箱から、目を輝かせながら肉塊を取り出している。他の場所では、橘のおじちゃんが果物を取り出そうとしていた。


 あれは確か『迷宮桃』という食材アイテムだったか。肌が若返る効果を持っているアイテムだ。


「こっちは果物だ! うまそうな桃が―――」

「それはこちらで処理しましょうね」


 だが、その桃は一瞬で婆ちゃんに回収されていった。


「えっ、あの……それワシの宝箱から……」

「何か?」

「……なんでもないです」


 なんか力関係が一瞬見えたような気がしたけど、見なかったことにしておこう。婆ちゃんと橘のおばちゃんがきゃいきゃい言いながら桃を大事そうに抱えていた。


「いやぁ、面白いもんだな。モンスターを倒せばこうして宝箱が出てくるってのは!」


 目を輝かせて爺ちゃんがそう言ってくる。楽しそうで何よりだが、今のようにポンポンと宝箱が出てくるのは俺の持つスキルのお陰だ。


「鬼月とかと潜ってる時とは全く違うでしょ?」

「そうだな。本当に規格外なスキルなんだな、お前の『塞翁が馬』ってのは」


 こうして俺が爺ちゃん達とダンジョンに潜る機会は、あまりない。殆どは要さんかムラサメさん、後鬼月と連れ添って潜っているのが殆どだ。


 というのも、あまり急に強くなると実力と中身が追い付かず、ちぐはぐになってしまうからだ。それを避けるために、経験者に色々教えてもらって、たまに俺が付いていってレベル上げしてを交互に繰り返している状態なのである。


「デメリット有なのが辛い所だけど」

「だな。さっきはトラップで死にそうになっちまったよ」


 そういう爺ちゃんだが、死にそうになったというのは大げさだ。実際、さっきは矢のトラップを、矢を指で挟んで余裕で止めていた。


 俺が事前に注意していたというのもあるだろうが、それでもすさまじい反応速度だ。


 食材アイテムの効果を恐れるべきか、爺ちゃん達の潜在能力を恐れるべきか……むしろ両方かもしれない。末恐ろしい人たちである。


「それにしても、俺ら『シルバーファングズ』も、中々育ってきたとは思わねえか?」

「そうだね。もうレベル4だしな……これが終わったら、もうしばらくは俺無しで技術方面を育てていこう」


 『シルバーファングズ』は爺ちゃん達のパーティー名だ。俺に相談する前には既に四人で話し合って決めていたらしい。なんかもう全力で楽しんでるなー、ってのが感想だ。


 ちなみに、俺のパーティーは正式名称は決めていない。登録されているのは『冒険者パーティー10224』である。


 いつかは考えなきゃいけないなー、とは思いつつ、ゴタゴタがありズルズルと決めかねているのが現状だ。


 その上、どうせ俺が原因で他のパーティーとの共闘もできない、パーティー単位で依頼もそうやすやすと取れないとなると、中々名前が必要となる機会がない。


 でも、爺ちゃん達を見てると、流石に先に冒険者を始めてる俺達が決めないというのは違和感ありすぎだ。近々話し合いの議題にでも出してみるか。


「そうか? 俺は圭太と冒険してて楽しいけどな」

「俺だって、爺ちゃんと戦うのは楽しいけど、俺のスキルありきの冒険に慣れちゃうと色々と不便かもしれないからな。実際、俺らも要さんがいなかったら常識的な冒険者の経験ってのが足りなくて色々面倒になってたかもだし」


 これに関しては、本当に要さんには頭が上がらない。色々教えてもらってるからな。


「だったら、そうしよう。まー無茶はしねえよ。この年だからな、この畑ダンジョンを管理できるくらいになれば上々ってもんだ」

「……爺ちゃん達なら、1年くらいで今の俺達に追いつくと思うけどね」


 実際あり得そうだから困る。いや、俺的には助かるのだが……今までは無茶しないでほしいと心配に思っていた爺ちゃん達が元気になり、ダンジョン攻略にも乗り出しているという現状に、頭が付いていってないのだと思う。


「よし、ドロップ品回収できたら、ダンジョンから一回出よう。そろそろ荷物が届くころだと思うし」

「そうだな」


 ダンジョンから出ていくと、時刻は既に昼頃になっていた。


「お届け物でーす!」


 そして、丁度家の門の前にトラックがやってきていた。冒険者のアイテム専門の運送業者だ。彼らはてきぱきと動いて中に段ボール箱をいくつも運び入れて、そして去っていった。


 デカい段ボールが複数個ある。


 これらは俺が購入した。中身は全て、ダンジョン内で建てる拠点に必要なものだ。


『ケイタ、やっときたナ! 僕らの秘密基地の素材!』

『やったー!』


 鬼月が目を輝かせている。どうやら拠点づくりというのが鬼月の少年魂に火をつけたらしく、拠点を立てると決めた日からずっとこの調子だったのだ。


 リリアも楽しみらしく、鬼月と一緒にはしゃいでいる。


「とりあえず、ダンジョンの前まで運ぶか。昼飯食ってから作業開始だ。それじゃ行動開始!」

『おー!』

『了解しタ!』


 早速鬼月、俺、爺ちゃんと橘のおじちゃんで荷物を畑まで運ぶ。ダンジョンの入り口付近の空いたスペースに置いた。


 陽菜は婆ちゃん達と昼ご飯を作ってくれたらしく、後のお楽しみだ。


「随分と豪勢な買い物をしたな」

「私達も手伝った方がいい?」


 段ボールを運んでいると、要さんとムラサメさんがやってきた。二人とも私服姿だ。


 ムラサメさんは近くに宿を借りてるし、要さんは陽菜の家に泊まっている。


 割とここの暮らしにも慣れたようで、露出の少ない服だ。虫刺されが酷いからな。


「じゃあ、小さいのを頼む」

「はいはーい」

「私はもっと大きいのも運べるぞ」


 という訳で人手も増え、大量にあった荷物はあっという間に運び終わったのだった。




3:拠点設営




「はい、圭太君! おにぎりどうぞ!」

「お、うまそう。 ありがとう陽菜」

「ほう……自分が握ったおにぎりをすかさず圭太に食べさせるとは……中々のやりてですねえ」

「陽菜も、ぼおっとしているように見えてしっかり成長しているようで何よりね~」

「……」

「……う、うん。これ、美味いぞ陽菜!」

「……あ、ありがとうございます……」

「あらあら、若いっていいわねえ!」

「あの、それくらいにしてやってくれません? 陽菜、顔から火が出そうな感じなんで……」


 等と言った一幕がありつつ、俺達は早速ダンジョン内に物資を運び込んで拠点建築を始めた。


 拠点予定地は中層と下層の間。長い階段を降りた先にある、廃墟付近だ。


 廃墟の中ではなく、そこを出た先の中庭に当たる場所に拠点を作る。


 ダンジョンの全長的に、ここがちょうど中間にあたるのだ。ここに来るまでに歩きだと2時間、一番奥の塔まで行くのに2時間ほどの距離だ。当然途中で魔物との戦闘もあるので、爺ちゃん達だと普通にここまでたどり着くのに3,4時間はかかるかもしれない。


 ちょっとした登山レベルの時間だ。この辺に休憩場所があれば便利だろうし、何かあった時にも頼りになるだろう。


 ちなみに、爺ちゃん達は手伝いには来ていない。普通のこの辺は難易度的に爺ちゃん達には厳しいし、爺ちゃん達も自分たちの足でここまでたどり着きたいらしく、上層より下は自分たちで冒険しながらゆっくり進むつもりらしい。


 という訳でサクッと建築。と言っても、テントを建てたりなど、キャンプの延長線みたいな難易度だ。


 ただ、そのテントが平屋レベルの大きさのものだったりするが、全員が力持ちの冒険者にとっては非常に楽な作業だ。


「うん、形になって来たわね」

「そうだな。ひとまずこんなもんか」


 という訳で建てた施設は、まずは拠点となるテント。二段ベッドが中に四つあって、パーティー2つ分なら生活が可能。更に、同時にでかめの救急箱を設置しており救護室としても稼働できる。


 そして次はキッチン。キャンプ売り場で売られているような、簡易式の形に近い。違うのは動力に魔素を使う事だ。


「なんでキッチン?」

「折角食材アイテムが大量に手に入る環境にいるんだ。腹がすいた時ここで軽く食べれたら便利だろ?」

「確かに!」

「私、腕によりをかけて作りますよ!」


 要さんが目を輝かせて、陽菜が腕まくりしてやる気を見せてくれた。


 次にシャワー付きのテントと、トイレだ。どちらもキッチンと同じく魔素を動力として扱っている。ただ、水に関してはタンクに溜めており、魔力学の技術で浄化しながら使いまわしている為、時々外から持ってきて変えてやらなければならない。


 最後に、拠点の中央に鎮座するのは《魔素払いの水晶(拠点用)》だ。この拠点の全ての動力をこの水晶が賄っている。


 久しぶりに登場した魔素払いの水晶。その効果は周囲の魔素を無くしてモンスターを寄せ付けないようにするというものだが、実はその原理は魔素を払っているのではなく、逆に吸収して周囲の魔素を薄くしているのである。


 普通の魔素払いの水晶だと、吸収した魔素は分解して綺麗さっぱり消しているのだが、この《魔素払いの水晶(拠点用)》は魔素をある程度蓄えることで、エネルギーとして使うことができる。


 この水晶一つでなんと200万もした。テントやトイレ、シャワーも合わせると、高級車が一台買えるレベルの高い買い物だ。


 必要と割り切り、思い切って買うことにしたのだが、購入ボタンを押す時はあまりの額に手が震えた。


「それにしても、魔力学の発展も著しいな。私が冒険者始めたのは6年前だが、当時は丁度 《魔素払いの水晶》が発明されたばかりの頃で、ダンジョン攻略ももっと難儀していたものだが」

「このまま技術が発展していったら、もしかしたらダンジョン内に街ができたりするかもしれませんね」


 『わーい!』、とテントのベッドで飛び跳ねているリリアと、せっせとテント内にどこに何を置くかを目を輝かせながら決めている鬼月を眺めつつ、表に作ったテーブルと椅子に座って休憩がてら雑談する。


 ムラサメさんの言葉に俺がそう言うと、要さんと陽菜も乗ってきた。


「実際、外国のダンジョンとかだと、すでに小さい集落ができてるところもあるっていうし、あながち無いとも言えないわね」

「ですね。最近は、ダンジョンの中で生まれた赤ちゃんのニュースも出ましたし」


 実際拠点を作るのも割と簡単だったしな。所要時間も半日くらいで済んだか? ここに入ったのが13時で、今はもう夕方だから……大体5時間くらいで設置が済んだ計算になる。


 ダンジョンの街か。もしそんなのが現実化したら、また色々と社会のシステムが変わるんだろうな。


 ちなみにだが、アイテムには二つ種類がある。一つはダンジョン産のアイテム。継承スキルを生み出す《世界樹の結晶》や、ダンジョン探知を行う国が所有するマジックアイテムなどがそれだ。


 次に人工アイテム。まあ普通に《魔素払いの水晶》や、今回設置したトイレやシャワーもこれだ。魔力学に基づいて作られた技術の結晶である。


 魔力学はかなり成長してきているが、実はダンジョンの外……普通の一般社会にはあまり影響は出ていない。というのも、魔素をダンジョンの外で保持するのが難しく、ハイコストだったり、魔素ボトルが魔素の量に応じて巨大になっていってしまったりと難点がいくつもあるのが理由だ。


 もしもっと魔素が外で取り回しの効くエネルギーだったら、もしかしたら俺達の住む世界は大きく変わっていたのかもしれない。まあ、今の時点でもかなり変わってると思うが……それ以上の変化があったのだろう。


 今後そうならないとも限らない。やっぱりダンジョン関係の情報は逐一頭に入れておくに限る。


「……さて、仕事も終わったし、どうする? 今日はこのままここで泊まって帰る?」

「そーするわ。んーっ、今日は慣れない作業で疲れたわねー」

「わわ、要さん……寄りかかってこないでくださいよぅ」

「じゃあ、飯の準備でもしますか」

「はーい」


 一声かけると、誰も異論は無いようだ。


「ムラサメさん……師匠はどうします?」

「護衛だからな。一応私もここにいるとしよう。後、いい機会だし、夜は剣を見てやる」

「了解です」


 という訳でムラサメさんも含めて、キャンプすることになった。


 適当に外に出て、下層のモンスターを倒して食材アイテムをドロップさせる。


 今回は《ミノタウロスのジビエ》と、《迷宮米》を手に入れた。ジビエの方は筋力増強、迷宮米の方は髪質が良くなるらしい。


 後者に関しては、例によって値段は考えたくないレベルだ。要さんと陽菜が跳んで喜んで、ムラサメさんもそわそわしていた。


『ケイタ! 中を色々と調整したから、見てみてほしイ!』

『私も手伝ったよー!』

「鬼月、リリア。任せっぱなしで悪かったな」

『僕らの秘密基地なんだから、これくらいするヨ! ほら、すぐにでも使えるように、ちゃんと置いてあるからネ!』


 帰ってくると丁度鬼月とリリアの作業も終わったようで、中を見てみると、二段ベッドにシーツと毛布がしっかりと準備されており、今からでも使えるように整えられていた。


「うん、良い感じだな」

『そうカ? ならよかった!』

『えへへ、良かったー!』


 その後、要さんが連絡も込みで地上から野菜類を持ってきて、ジビエを使ってシンプルな焼き肉をすることになった。


 ミノタウロス……正直人型というのもあり若干抵抗はあったが、食べてみると今まで食べたどの牛肉よりも美味かった。白米の上に乗せて焼き肉どんぶりにしてみれば、食べた事の無い甘みの強いつややかな白米と濃ゆい旨味を持つ肉が絶妙なマッチを見せてくれて、最高のひと時を味わわせてくれたのだった。


 その後はムラサメさんに修行を付けてもらい、良い時間になってシャワーを浴びて寝間着に着替えた。


 テントの中はカーテンで区切ることができるため、女子と男子で別れて眠れる。男子は俺と鬼月だけだし、リリアが俺と寝たいと言い出したので、三人で眠ることになった。


 そして次の日の朝。俺達は凄まじい地震で目を覚ますことになった。

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うちの畑にダンジョンができたので冒険者になってみる~気が付いたら見下してきていた冒険者を実力でぶち抜いたり美少女婚約者が出来たりしていた件 たうめりる @kakuu-yomuu

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