2:初めてのダンジョンで

「という訳で、俺ら……もう既に冒険者資格取ってきちゃってまして」


 今、俺の目の前にはずらりとジジババ達が座っていた。俺の爺ちゃんと婆ちゃん、後は橘家のジジババ達だ。


 目の前の机には、それぞれ支援デバイスが並んでいる。その光景に頭が痛くなる。


 本当に、いつの間に取って来たんだ。一応あれ体力テストもあったはずだけど、70代60代でよくもまあ突破できたものである。……食材アイテムの所為なんだろうけども、やろうと思える発想がまず凄い。


 だが、それらはひとまず置いておく。俺が今一番問題視してるのは、俺達に黙ってそれをやった事だ。


「爺ちゃん、いつか俺言ったよな。ダンジョンは危ない場所なんだぞって」

「お、おう、分かってるって。ただ、俺らにも俺らなりに目的って言うか、目標があってだな……」


 爺ちゃんも俺の怒りが伝わってしまったのか、若干歯切れが悪い。


「畑にダンジョンができた時、俺は孫の圭太が戦いに行くのをただ黙って見送るしかなかった。ここは俺の土地だ。本当は、自分のケツは自分で拭かなきゃならねえってのに……寄る年波には勝てねえと不甲斐なく思ったもんだ」

「……それで?」

「でも、食材アイテムのお陰で、若い頃と同じ程度には身体が動くようになった。だったら、もうやるしかないだろ。そうすれば、お前らも少しは負担減るし、この場所に囚われず、もっと自由に活動できるんじゃないかと……」


 つまり、俺達を思ったうえでの行動だったと。俺はため息を吐きだした。


「……俺が割ととんとん拍子で行けたから勘違いしてるかもしれないけど……ダンジョンってのは本当に危ないんだぞ? もしかしたら、死ぬかもしれない。実際俺も何度か死にかけたし……それでもやるのか?」

「むしろやってやる。 孫のお前が命張って戦ってるのに、爺ちゃんの俺がのほほんと安全な場所で暮らしていいわけねえだろ!」


 爺ちゃんは覚悟のこもった目でそう言ってきた。婆ちゃんも静かに口を開く。


「……私も、圭太にばかり負担をかけるこの状況には不満がありました。夏休みを殆ど消費してダンジョンの管理に精を出してくれたことに、感謝していると同時に、自分の無力さに何度打ちのめされたか。戦えるのであれば、私も一緒に戦いたかった」


 橘のおじちゃんとおばちゃんも手を挙げて発言してきた。


「ワシらも、この二人の気持ちは痛い程に分かったからのう。それに、最初の頃は頻繁にやたらうまい謎の肉貰ってたから、一体何の肉なのやらと思っていたが……後から超高級品である食材アイテムだと分かった。その事に関しても、いつか恩を返したいとは常々思っていたんじゃ。ワシはこの二人に力を貸す所存よ」

「私も、同じ気持ちよ」


 俺は黙りこくってその言葉を聞いた。更に、爺ちゃんが口を開く。


「それにな……詳しいことは聞いちゃいねえが。圭太、お前色々ヤバいことにも巻き込まれてんだろ? 崩壊ダンジョンの時もよ……俺らだって、力になってやりてえんだ」

「……はあ。分かったよ……」


 根負けだ。爺ちゃん達の覚悟は、俺じゃどうあがいても崩せないと悟った。


 それに、俺なんか最初はお小遣い目当てでダンジョンに潜り始めたのだ。爺ちゃん達に何かを言う資格も無い。


 ただ、それはそれとして、爺ちゃん達が死んでしまったらそれこそ一生後悔し続けることになる。爺ちゃん達が死ぬとか、そんなの絶対ごめんだ。


 俺はどうするか迷って、そして条件を口にした。


「……しばらくは俺達と一緒に行動してもらう。で、俺が無理だと判断したらすぐに諦めること。それで良いなら、俺は協力する」

『ゲンゾウ、僕も手伝うゾ!』

「おう、それでいい! ありがとうな、圭太、鬼月!」


 爺ちゃんはニカッと笑って頷いた。


「とりあえず、今後どうするか、まずは話し合おうか」


 ったく、人の気も知らないで。まあ、元気な姿見せてくれるのは純粋にうれしい。俺は陽菜と苦笑いし合って、今後どうするかの話し合いをするべく口を開いたのだった。




2:初めてのダンジョンで




「なるほどな……分かった。ならば私も付いていこう」


 そう言ったのは、俺の家の警護に来てくれていたムラサメさんだった。


 ユーゴさん達パーティーは、複数の冒険者パーティーを連れて渋谷ダンジョンに行ってしまったのだが、ムラサメさんだけは残って警護してくれることになったのだ。なんでも戦力的に前衛が多かったらしく、抜けても問題ないとユーゴさんに判断されたらしい。


 正直申し訳ない気持ちでいっぱいだが、背に腹は代えられない。何よりも俺達は未だ成長途中だ。それに、こちらの事情を少しでも知るムラサメさんの方が、色々都合が良いというのもある。


 という訳で朝一でやってきたムラサメさんにこちらの事情を説明すると、若干驚いたような顔をしていたが付き合ってくれることになった。


 どうやら爺ちゃん達は自分で武器防具を買ってきていたらしいので、ダンジョンに潜る前にそれを見せてもらうことにした。


 まず爺ちゃんは俺と同じ刀。


 婆ちゃんは薙刀。


 おじちゃんはメリケンサック。


 おばちゃんは弓。


 防具もしっかりと揃えている。というか、貯金を使ったのかそんじょそこらの若者よりも良い装備を身に着けている。


「……高かったんじゃないか、これ」

「なぁに、車と比べりゃ安い買い物よ」


 がはは、と笑うおじちゃん。一緒にご飯を食べてる時は爺ちゃんと喧嘩しておばちゃんに耳を引っ張られる姿をよく見るため忘れがちだが、そう言えばこの人は歴としたお金持ちだった。


 爺ちゃんも同じくお金は持ってるし、普段から節制してるタイプだ。実際安い買い物だったのかもしれない。


 防具は皆和服ライクに揃えていた。爺ちゃん、婆ちゃん、おばちゃんはよく似合っているが、おじちゃんだけはヤクザみたいな厳つい感じになってしまっている。


 さて、装備に関しては、俺から見ても問題はないように見える。鬼月も頷いているし十分だろう。


 まずはステータスを得る所からスタートだ。


「一つ目の部屋はゴブリンが1~3体出てくる。とりあえず一人につき一匹、一回ずつ戦ってもらって、ステータスを得る所から始めよう」

「おう!」

「怪我した時は私に言ってくださいね!」


 という訳で、俺、鬼月、陽菜、ムラサメさんの4人が付き添って早速ダンジョンに入る。


 一つ目の部屋には案の定ゴブリンが3体いた。


 俺と鬼月がゴブリンを一体ずつ捕まえて、一匹ずつ戦ってもらう。


「まずは俺からだな!」


 そう言って、爺ちゃんが前に出て戦ったのだが。


「ほう、流石我が弟子の祖父殿だ」

『やっぱりゲンゾウは強いな!』


 鎧袖一触、居合切り一発でゴブリンを両断してしまった。


「次は私ですね」


 次は婆ちゃん。こちらも同じように、美しい型で薙刀を振るい、一撃でゴブリンを倒してしまった。


 俺は正直それを複雑な思いをして見ていた。だって、俺の初戦なんか、不意打ちの一撃を外すわ反撃貰いそうになって焦るわで何とか倒せたのだ。一回戦っただけで汗だくだったっていうのに……これが人生経験の差なのだろうか。


 で、その後橘のおじちゃんもゴブリンを殴り飛ばして一撃でKOさせていた。こちらもこちらでかなり規格外だ。


「おばちゃんは、二つ目の部屋でやろう」


 俺はそう言って、先行して二つ目の部屋に行き、ゴブリンを一匹だけ残して殲滅させた。


 で、弓でさくっと頭に一撃入れて倒した。


「いやー、何とかなるもんだな!」

「ちょっと緊張したが、割と戦えそうでよかったわい」

「ええ、これなら続けていけそうですね」

「弓だとこの地形は不利ですし、もう一つ武器を買っておこうかしら」


 やいのやいのと言葉を交わすジジババ達を見て、鬼月が俺に耳打ちしてきた。


『ケイタ、ゲンゾウ達は思った以上にやるようだゾ! 流石ケイタとヒナの祖父母達だナ!』

「……そうだな。本当に凄いよ、爺ちゃん達」

「えへへ……私も、やることないみたいです」


 こりゃそこまで心配はいらないか?


「ご老体とは思えない程だ。私から見ても身体能力に関しては問題ないように見えるな」


 最後にムラサメさんからもそんな言葉をいただいて、俺は本格的に爺ちゃん達の冒険者としての活動を認めることになったのだった。


 その後、数日かけて爺ちゃん達をレベル3まで上げることになった。俺と一緒に行動してシャトルランすれば、レベル3までなんてあっという間だ。


 ムラサメさんがそれを見て「……何が起きてるんだ?」と愕然としていたが、とりあえず誰にも喋らないように約束してもらってスキルの内容を説明することになった。


 ムラサメさんは難しい顔を浮かべていたが、すぐに首を振ってうなずいた。


「……そういう事だったのか。色々合点がいった。良いだろう、このことは誰にも話さないと約束する。……このことを知っているのは私以外にいるのか?」

「崩壊ダンジョンの時に、ユーゴさんにちょっとだけ説明しました」

「そうか」


 そんな感じで秘密を知る人間が一人増えてしまったが……まあ、ムラサメさんなら大丈夫だろう。何よりも俺の師匠だし、悪いようにはしないはずだ。


 で、本題の爺ちゃん達のステータスなのだが。



――――――――――――――――――

神野 源蔵

Lv.3

近接:17

遠距離:6

魔法:7

技巧:16

敏捷:7

《スキル》

【抜刀術】

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

神野 涼子

Lv.3

近接:15

遠距離:8

魔法:10

技巧:16

敏捷:6

《スキル》

【守りの陣】

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

橘 宗一郎

Lv.3

近接:12

遠距離:5

魔法:16

技巧:8

敏捷:5

《スキル》

【支援魔法Lv1】

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

橘 千代

Lv.3

近接:9

遠距離:16

魔法:12

技巧:13

敏捷:7

《スキル》

【光属性魔法Lv1】

――――――――――――――――――



 と、ステータスはこのような状態だが、役割で分けると、前衛:爺ちゃん、中衛:婆ちゃん、後衛:おばちゃん、支援:おじちゃん、となる。


 バランスは非常に良い。理想的な組み合わせだ。


 驚いたのはおじちゃんが割と後方支援系だったことだが、頭脳一本で金持ちまで駆け上がってきたタイプなのでさもありなんといった結果だろう。メリケンの代わりに杖を購入し、即座に自分に合った武器に替えていた。


 これなら俺がいなくても、トラップ部屋などに入らない限りは何の問題もなくダンジョンを攻略できるはずだ。


 しかし、それでもやはり心配は心配だ。高齢であることに変わりはないし、体調が急変したらダンジョンの中ではどうすることもできないだろう。


 と、すれば……以前から地味に考えていたあれを実行するいい機会だろうか。お金も色々あって結構溜まってるしな。


 ダンジョン内での拠点作成。遠征の練習にもなるし、挑戦してみようじゃないか。








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※2章 10:最終日内での、主人公と幼馴染の会話シーン、要と陽菜の会話シーンを改変しております。大まかな流れには一切影響はありません。ご理解の程よろしくお願いいたします。


ほのぼの日常回が続きますが、数話で終わる予定です。お付き合いの程よろしくお願いします。

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