世はまさに大なんとか時代
なんやかんやあって、優勝はフレン&劉ペアに決まった。
決まった、のだが。
後味が良いかというと、そうでもなかった!
屋敷に用意された劉の部屋の前で、フレンとルチェットがああだこうだと語りながら額を突き合わせている。
「ルチェット、リューはまだ落ち込んでるの?」
「ええ、まあ。何度も動物を殺ったのがメンタルにきてるみたいですね」
「やっぱり何かの事故だったのかしら……」
「でも学園じゃ大好評かつ大絶賛ですよ。伝説の生物を連チャンで殺してる生ける伝説とか。睨むだけで伝説の鳥を殺すのカッケエとか。俺達のリュウさんが歴史上最強だぜとか。リュウ様鬼つええ! このまま逆らうやつら全員ぶっ殺していこうぜ! とか。あんなに簡単に召喚獣ブッ殺せる人が、馴れ馴れしくしてる生徒を誰も殺してないの一周回ってめちゃくちゃ人格者なんじゃないですの? とか……」
「学園生徒、大半が武闘派にもほどがあるんじゃない?」
だからゲーム後半で皆して内戦してるような国なんですよ、と言える原作知識持ち転生者はここにはいなかった。
「お嬢様が膝枕でもしてあげたら一発で元気出るんじゃないですか」
「ど……どういう意味で言ってるの!?」
「そういう意味で」
「そういう意味で!?」
実際、学園のみならず、王宮を中心とした政治・経済の世界においても、彼の登場と脅威は多くの勢力を劇的に動かしつつあった。
『原作知識』の適用によって乗り切れる範囲を、逸脱するほどに。
「とりあえず……頭でも撫でてあげてくるわ! 公爵令嬢の手だからもしかしたらプレミア感があるかもしれないし!」
「扱いが飼い始めた子犬に対するそれなんですよね」
「後は……リューが好きな食べ物も作ってあげましょう! 蒸しパンとか!」
「それはお嬢様が好きなものです」
ただし、原作知識を持たない原作キャラ勢には預かり知らぬことであった。
翌日。
シュナンブラ・クトライアンフ第一王女と、アマーロ・ルヴィオレッツ公爵令嬢が同日に共に屋敷に来るという通達があり、メイドも執事も庭師も料理人も皆が皆、てんやわんやの大慌てであった。
「最悪戦争ですよ!」とルチェットが煽ったせいもあるだろうが。
普通の学園ラブコメものならば、美少女が集まってのキャッキャウフフイベントということもあったかもしれない。
が、これは後半戦で殺し合うタイプの乙女ゲー。
今現在政治模様がぐっちゃぐちゃのめっちゃめちゃになっているとはいえ、第一王子派のシュナ、第二王子派のフレン、第三王子派のアマーロはどうなっても殺し合う間柄にしかならないものである。
ルチェットが『奴らが暴れたら総力を挙げてぶっ殺しましょう』と屋敷の全員に鋼の剣(攻撃判定値+8)を配り歩いていたくらいには、緊急事態であった。
公爵令嬢、フレン・リットグレー。15歳。
ステータス合計424!
統率100! 武力90! 政務63! 智謀79! 魅力92!
フレン専属メイド長、ルチェット・ロップシャイア。15歳。
ステータス合計408!
統率82! 武力70! 政務81! 智謀91! 魅力84!
公爵令嬢、アマーロ・ルヴィオレッツ。15歳。
ステータス合計468!
統率99! 武力85! 政務93! 智謀99! 魅力92!
第一王女、シュナンブラ・クトライアンフ。15歳。
ステータス総合値461!
統率88! 武力79! 政務99! 智謀98! 魅力97!
……まあ、実は、フレンお嬢様が可愛い顔をして凄まじくお強いので、あんまり心配の要らない話だったりするのだが。
かくして、フレン、ルチェット、シュナ、アマーロのお茶会が始まった。
「ふふ。ふ、あはははっ! いやぁ、かなり愉快でしたわね! わたくしも最初にあれをやられた時は憎しみと恨みで頭の中がいっぱいで、どう闇討ちしてやろうかと思っていたところでしたが、王族の方まで『伴無し』にしているのを見たらもう笑うしかありませんわ。王族への不敬だと騒いでいた人間も『じゃあどうやって彼があの鳥を殺したのか手段の説明からしてみなさい』と言われて黙ってしまったのでしょう? いやあ、退屈しませんわね。次に何が起こるかずっと見ていたい気分ですわ。彼の破壊の被害者第一号として、うふふっ」
「洒落にならないことを言わないで……」
アマーロが何故上機嫌に笑っているのか分からず、フレンは苦々しい顔で紅茶のティーカップを口元に運ぶ。
経済の貴族であるフレンに対して、アマーロは武門の貴族。
元々物騒な話に対して受け入れ耐性があるようだ。
『強いことはいいことだ』という思想がうっすら透けて見える。
格闘技業界でたまに見られる『あの格闘家の闘魂注入ビンタを受けたファン1号は私だが?』みたいなイキリスピリットまで感じられるようになっている。
機嫌が良さそうなアマーロとは対極に、シュナはずっと不機嫌そうだ。
「笑い事じゃないわよ。だからこうして文句言いに来てんのよ……!」
「……シュナ王女、話し方が昔のガキ大将時代の頃に戻ってらっしゃいますね。なんだかお顔も……憑き物が落ちたみたいな……?」
だが、先日と比べて不機嫌そうな様子ではあっても、悪意はむしろ、先日のコーデバトルで相対した時のシュナより少なくなっているように見えた。
「あによ? 何か文句あんの? ええ、あんたらからすりゃ品性無いように見えんでしょうね。フレンとアマーロはさっさと令嬢らしい言葉遣いを身に着けたんでしょうけど、ワタシは取り繕った喋り方憶えるだけでも精一杯だったのよ。それだってずっとなんてやってなんてられないの。ああ、苛々する。ワタシはあんたらみたいに行儀良くないんだっての、文句あんなら言えばい……」
「いえ……なんだか私、懐かしくて、嬉しい気持ちもあります。言葉遣いが丁寧になってからのシュナ王女は、なんだか怖くて……あ、も、申し訳ありません」
「……」
貴族の子女などというものは、幼少期から付き合いがあるものだ。
パーティで出会い、大人が長話をしている間に一緒に遊び、祭日に集まり、なんでもない日に中庭でお茶会をして、そうして親交を深めていく。
フレンとシュナも、昔は仲が良かった。
いつからか、そうではなくなった。
段々と『敬語を使う悪い王女様』になっていくシュナは、フレンから離れていき、いつしかフレンの友達ではなくなって、知らない王女様になっていった。
シュナの周囲の人間がそうさせた。
『悪役令嬢相対性理論』である。
変わっていったのはシュナで、フレンはまだ変わっていない。
フレンはまだ悪役令嬢ベイビーであり、悪役令嬢ではないからだ。
まだ、友達を見る目で、フレンはシュナを見てくれている。
毒気を抜かれた様子で、シュナは銀の髪をかき上げる。
「……ふん。いいのよ。昔は敬語も何も無しに友達として話してたじゃない。
「……ん。そうね。ありがとう、シュナちゃん」
「ふん」
「ふふふ。フレンさんとシュナ様がそういう風に話しているのを見るのは、何年ぶりでしょうかね? わたくし、少々懐かしい気持ちですわ」
「あんたワタシ達と仲良かった時期なかったでしょ」
「まっ」
フレン、アマーロ、シュナの中にのみ生まれている感覚があった。
何かが、レールの上から外れていくような、そんな感覚があった。
それは言語化できない感覚であり、実際にあるのかさえあやふやな感覚だった。
レールに沿って走って、そのまま崖に落ちるはずだった列車が、何かとんでもない一撃で脱線して、変な方向に走っていっているような、そんな感覚が。
バン、と、シュナが怒りっぽい顔でテーブルを叩く。
「それより、さっさとあんたの召喚獣の男を出しなさい! ワタシはあいつに会いに来たんだから! そして……」
「そして?」
一拍分、会話が止まり、すぐに再開する。
「……顔面引っ叩いて文句言ってやるのよ! 主のために対戦相手の召喚獣を殺してでも勝とうとするその気概、良し! 一端の男として認めてあげる! ただしワタシが『伴無し』にされた恨みはそれとは別の話!」
「ううん……リューは今ちょっと、シュナちゃんに会わせられる状態じゃないかな……殺しちゃったこと、少し気にしてるみたいで。今は、気分転換に庭を散歩してきたら? って勧めたから、庭にいるんじゃないかしら」
「え、自分で殺っといて後悔とかそういうのしてんの? なんで?」
「さぁ……まあでも、リューはそんな気軽に命を奪うタイプじゃないから……」
「そこまでやりたくなかった、ということ? ふむ。そういえば生徒からの評判は大まか優しい男だったという話だったわね。命を奪うことを厭いながら、主君に新春コーデバトル優勝を捧げるために、望まぬ殺生を選んだ……?」
「ううん、どうなんだろう……私はリューとちゃんと会話出来てないから、ちょっとわからないかな……」
「そうに決まってるわ! 忠義の騎士よ! フレン、貴女当たりを引いたわね!」
「初手の思い込みが強い」
「あの男は嫌いだけどその忠義だけは認めてあげるしかないわね! いやワタシが可愛がってた召喚獣をぶっ殺した件は一生根に持つけど……」
「怨恨も強い……」
怒りを飲み下すように、シュナは目の前のカップの熱々の紅茶を飲み干す。
突然の王女らしからぬ行動に、フレンは思わずぎょっとして、アマーロはくすっと笑みをこぼす。
堂々たる一気飲みであった。
我慢して飲んでいるのではなく、勢いで飲み干して、かつ火傷もしない。
これが王女シュナという人間の基本的な在り方である。
人目を盗んでふーふーするフレンや、冷めるまで待つアマーロとはまるで違う、豪快かつ細かいことを気にしない性情。
原作ゲームが開始する時期には影も形も残さず無くしている、シュナという少女の根幹的な在り方であった。
「『伴無し』になって、ワタシの婚約関連の話も全部白紙。お兄様達とも面会できなくなったわ。ワタシの周りに集まってた蛾みたいなやつらも散って、少数が残って、本当の味方とそうじゃない味方の見極めもついた。その辺りはまあ……あの謎の異世界人に感謝してやってもいいわ。ワタシを賢王女だの、次世代の扇の要だの、不必要に持ち上げてたやつらのせいで酔ってた気分が、だいぶ醒めたし……」
「異世界人と決まったわけじゃないわよ、シュナちゃん」
「もう決まりでいいでしょ! あんなのただの異世界生物兵器よ!」
「く、口さがない! あまりにも!」
「ぷっ、ふふふっ」
シュナが怒り心頭といった顔で座っていたソファーをバンバン叩き、フレンが劉の擁護に回り、アマーロが思わずといった顔で吹き出した。
「そ、それに……あ、あんな……なんか皆が理解できない力を持ってるからって、伝説の存在を殺せたからって、そ、そんなこと……ま、まだダメよ!」
「そんなこと? シュナちゃん、順を追って話してもらわないと私は……」
「黙ってなさい無駄乳! そんなに無駄に育って! 牧場にでも通うつもり!?」
「む、無駄乳! 昔からそう! シュナちゃんは他人の身体的特徴をいじって相手を嫌な気持ちにさせる、いけないことよ! 第一アマーロの方がそうでしょ!」
「それはそう」
「おおっとぉ、わたくしに流れ弾が飛んで来ましたわね。わたくし売られた喧嘩は堂々買いますわよ。暴言セールのバーゲンセールですわ」
令嬢の
主にシュナ王女が足りていないからである。
其は、悲しみの三角地帯。
シュナが頭を抱えて何についてうんうん唸っているのか、シュナ自身が語らないので、フレンには全く分からない。
フレンが無意識に可愛らしく小首を傾げていると、寄ってきたアマーロがひそひそと耳打ちする。
「リュー様と仲良くするよう、身内から望まれているそうですのよ」
「……それであんなに? 王女にとっては、いつもの職務では……」
「いえ、どうやら話の綾で意図が少し歪んで伝わったようで。『あの異世界人を体で籠絡しろ』くらいの意図で伝わってしまったようですわね。それで、あの性情でしょう? 怒れるまま、話の訂正も聞かず、とにかく大暴走。誤解だと訂正する前に怒鳴り散らすので、誰も訂正できてないのだそうですわ」
「……ああ……」
フレンは神妙な表情で、納得したように頷いた。
「それに、シュナ様もリュー様をそんなに悪く思っていないようですし。これはワンチャンスありますわよ、シュナ様のブラコン卒業が」
「ええ!? ブラコンのシュナ様が!?」
「よく考えてごらんなさいな。気に入らない相手はすぐぶっ飛ばすシュナ様だからこそ、これまで幾多の婚約を自ら破棄に持ち込んでしまい、婚約破棄自走地雷の名をほしいままにしていたのですのよ?」
「その名前は初めて聞いたわ」
「リュー様が本当に気に入らなかったなら、既に闇討ちの準備を始めていてもおかしくありませんわ。でもそうしていない。この屋敷に来て、とりあえず彼と話をして、それから考えよう……と、いつもの怒れる彼女からは想像もつかないふんわりあやふや、腰の引けた選択をしていると言えます」
「なるほど……なるほどのなるほど」
「『まあ我慢すればあの男が婚約者とかでも、ありでなくもないかな……?』くらいの感情かもしれませんわね。元々、シュナ様の婚約が上手く行かないのは、男性側が皆シュナ様相手に腰が引けてしまうのが原因だそうですし……シュナ様が大好きな第一王子様は、シュナ様にフラットに接する唯一の男性だったそうですから、あの何を考えてるのか分からないリュー様の視線が案外刺さったんじゃありませんの?」
「ええ……うーん……そうなのかしら……なんかそういう『今日はステーキが食べたかったけどしゃぶしゃぶでもまあいいか』みたいな感じでリューに手を出してほしくないんだけどな……真剣さに合格を出せないというか……」
「昔から思ってますけども、貴女、独占欲強いですわよね。婚約もしていない男になに独占欲示してるんですの? 重いですわよ」
「んなっ」
フレンをからかって、アマーロは少し傲った笑みを浮かべた。
「それに、わたくしの方にもそういう話は回ってきておりますのよ。『伴無し』になってすることもやるべきことも、婚約も無くなったのだから、色仕掛けで噂の召喚獣を落としてくるか、そうでなくても味方につけてきたらどうだ? などとね。この前実家に帰った時にあんまり話さない親戚に、遠回しに依頼されましたわ」
「んななっ」
「強い男の血を武門の家が求めるのは当然でしょう? ま、腐っても公爵家の娘ですので、本当に打診程度の話だとは思いますけどね。逆に言えば、公爵家の娘が早くからリュー様と親交を深めていたとなれば、いざリュー様が敵対勢力につくことになっても、手心を加えてくれるかもしれない……そんな打算ではないでしょうか」
「そ、そんな、そんな簡単に……」
アマーロが『彼とそういう関係になるのも悪い気はしない』みたいな顔をするものだから、フレンの中の嫉妬心や独占欲が、むくむくむくと伸長していく。
「でも彼は異国の王族なんじゃないかとか、そういう推測も出てるのでしょう?」
「うっ」
「人格的にも一定の信用はあります。下衆の類でないことは分かりますし、わたくしの時も、シュナ様の時も、主のために動いた結果として起きたことでしょう? それを悪し様に責めても、大恥をかくのは自分ですわ。そう思いませんこと?」
「なるほど……なるほどのなるほど。……でも、納得し難いわ……」
うんうんと頭を抱えるフレン。
アマーロがどこからか取り出した扇で口元を隠し、くすくすと笑った。
おそらく、劉孟徳と仲良くしろとシュナやアマーロに持ちかけた人物は、にべもなく断られる想定で、ダメ元で話を持ちかけたのだろう。
だからこそ驚いたはずだ。
常の彼女らなら一刀両断で突っぱねていたはずの話を、彼女らが考慮し、あまつさえ前向きに検討すらしているのだから。驚天動地である。
さて、自分達の自慢の召喚獣をぶっ殺された彼女らが、それも将来悪役令嬢四天王になる『まあまあ悪性の性格』を持つ彼女らが、劉に対して敵意と憎悪を際限なく膨らませることなく、まあまあ好意的なのは何故なのか?
共感抑制型悪役製造手法!
悪役を『共感できる敵』にするか、『共感できない敵』にするか、それは以後の展開の予定や、製作者の性格などによって変動する!
これは創作の基本の基本である!
こと、女性向け恋愛主体作品において、『恋のライバル』をどう扱うかという点においては、定期的に『男性読者に理解できないライバルの扱い』や『女性読者にすら理解できないライバルの扱い』が炎上に繋がるため、繊細なヘイトコントロールが求められる部分である!
いくつかの乙女ゲームでは「同じ男に惚れた途端いきなり性格が急変してめちゃくちゃネチネチしてくるようになるのでもうちょっとどうにかならなかったのかなこの親友ポジ……」などと言われる始末である!
少年誌では度々言われる、この定型。
「悪役にかわいそうな過去とか要らねえんだよな」
これを少女漫画系の恋愛ものに適用するとどうなるのか?
「失恋確定のライバルキャラが恋をしたきっかけが切ないとキツいよね」
となる!
そのため、『始まりは綺麗な恋だったはずなのに、今じゃこのイケメンと主人公の恋に嫉妬する醜い悪女に成り果ててしまったんだな……』という切ない文法に転じさせたり、また逆に、『お前のそれは最初から愛じゃない、醜い女め』という分かりやすい勧善懲悪文法に落とし込んだりするのである!
その後者こそが、共感抑制型悪役製造手法!
恋のライバルの女は必ず失恋する!
その失恋に「かわいそう」が付随するとややノイズになる!
腕のない作者の場合、「こんな主人公よりライバルの彼女と結ばれた方がこのイケメンは幸せになれたよね」と言われてしまう!
最悪のコンボである!
これを避けるため、「ライバルの女がくっだらない理由でこのイケメンに惚れてたんだよ」という理屈を付けるという手法が存在する!
イケメン王子の婚約者という立場しか見てなかった女!
婚約者を自分の所有物と思い人間として見てない女!
婚約者の幸せがどうでもよくて、自分のプライドのために縛り付ける女!
他人が思い通りにならないことそのものにキレる女!
何かの代替として婚約者に執着する女!
特に理由もなくイケメン騎士様に惚れて以後束縛と脅迫を繰り返す女!
「こんな女からイケメン婚約者を奪う分には罪悪感まったくねーわ」という気持ちを呼び起こす作品構造!
読者やプレイヤーが、恋のライバルに一切共感しない作品文法!
共感できない悪役なら、どんなに落ちぶれても罪悪感無し!
むしろ心地良し!
これを共感抑制型悪役製造手法と呼ぶ!
このゲームもそれをまあまあ採用しているのであった!
悪役令嬢四天王はそれぞれが誰かしら、攻略対象のイケメンに恋愛、尊敬、親愛、執着などの感情を持っている!
大した理由で恋をしない!
だから失恋してもかわいそうにならない!
悪役令嬢四天王から原作主人公が男を取っても罪悪感がない!
そういうゲーム作りがなされている!
悪役令嬢四天王は皆、「共感できないくらいショボい理由でイケメンの攻略対象を好きになり、その感情をこじらせて暴走し、男を原作主人公に取られて悪に落ち、原作主人公に『それは愛じゃない』と論破される」というポジショニング!
逆説的に言えば、「原作と違う相手にも大したことじゃない理由で惚れる」「原作と違う相手に惚れても執着心を持つ」という恐るべきモンスターであった!
プレイヤーからの共感を抑えるための性格付けが生んだチョロさ!
プレイヤーからの敵愾心を煽るための設定が生んだ、サクッと惚れる癖に長々ねっとり執着する一途さ!
その過程で発動する攻撃性、盲目性、独善性!
これこそが───平成の血脈を受け継いだ令和の悪役令嬢!
ただし。
簡単に好きになって、ずっと好きでいて、好きになった相手に迷惑をかけ続ける……という性格に設定されているキャラの彼女らであるが、『原作に全く存在しない男』である劉孟徳の影響で、原作とは全く違う道筋を歩みつつある。
『嫉妬』で醜く狂う運命のフレン。
『傲慢』でおぞましく思い上がり続ける運命のアマーロ。
『憤怒』で攻撃的に壊れる運命のシュナ。
それらの性情が、環境によって誘引されていくものであるならば。
あるいは『原作知識を活かそうとする転生者』よりも、『何も知らず片っ端から破壊していく無知な部外者』の方が、彼女らの運命を覆す者であるのかもしれない。
一応一番知識を多く持っているフィアよりも、悪役令嬢四天王候補である彼女らの方が、実感として『何か良くない方向に進んでいた自分を彼が破壊によって助けてくれたような気がしなくもない』といった、ぼんやりとした感覚を得られているのかもしれない。
それは当人にも言語化できない、ゆえに明確な感謝の言葉にはならない、そういう感覚の話である。
「そもそも、アマーロとシュナちゃんは今後どうするの? 私は一応、普通の召喚獣を召喚した前提で組まれてた予定が瓦解しただけだけど、『伴無し』になったとなると季節ごとに参加予定だったあれやこれやは大丈夫なの? たとえば、結婚式の参列者は召喚獣に花を咥えさせて放つのが慣例でしょう? 冠婚葬祭大丈夫?」
「……」
「……」
「だ、黙っちゃった……」
腕を組んだアマーロとシュナの無言の沈黙に気圧されていたフレンだが、その時部屋をノックする音が聞こえた。
「お嬢様、少しよろしいでしょうか」
「ルチェット?」
「フィア・サンブラージュ様がいらっしゃり、お通ししたところ、今は庭でリューさんと話し込んでおります。一応、ご報告を」
一瞬『あいつかぁ……』という空気がその場に流れた。
フレン、アマーロ、シュナ、ルチェットが部屋の外扉を開け、四人でベランダに出ると、そこから庭を見下ろした。
ちょうどよく、そこから見下ろせるところで、フィアが劉の背中に飛びつき、密着しておふざけの軽いチョークスリーパーをかけているところであった。
同性の親友の距離感である。
「胸 柔」
「だーかーらー! 思い出したんだってば! ゲーム中に死亡した召喚獣を蘇生できる祭壇のこと! でも周辺の敵のレベルが高くてあたし一人じゃいけないの! でもあんたが居れば行けるでしょ!? 今なら黒龍も銀鷹も確保し放題かもしれないの! これはあたしの失態で失敗しかけてるハッピーエンドルートに一発で戻せるかもしれない大逆転の秘策! ね? ね? 協力してくんない? ね? 胸とかお尻とかはヤだけどこの際お腹くらいなら触らせてあげるから~、強そうな召喚獣いっぱい味方に付けられたら一匹はあんたの護衛に付けたげるから~」
「美少女御腹……!?」
フィアが聞き捨てならないことを言ったため、令嬢達の目が一瞬にして細まった。
「今ならノーリスクで天下取れるわよ! 行きましょ!」
「此女 精神強 椎名林檎歌詞絶対共感皆無 図太 図々……」
「はっはっは、何言ってんのか分かんないや。ま、いっか! あんたが何言ってんのかはあたしが決めることにするよ」
「侍八?」
「あははっ! やー、あんたが有力な召喚獣次々ぶっ殺してくれて助かったわー、普通にプレイしてたら後半戦まで他人の召喚獣なんて手に入ら……ん、え?」
フィアが気付くと。
四方を、知った顔の美少女に囲まれていた。
「……命だけはお助けください」
「道案内よろしくね」
「はい」
かくして!
旅立ち、出航である!
簀巻きにされたフィアを吊り下げ、大船の帆を張り上げる
たとえ、既に婚約が破棄されており、召喚獣を取り戻したところで破棄された婚約や政治的盟約が戻らないとしても、『伴無し』は解消されるかもしれない!
令嬢達は
「はなしてぇー」
「面白女……」
破滅秒読み最カワ悪役令嬢とノックス十戒破壊型中国人 「異世界の標準語ってなんで日本語なんだ悪役令嬢」「中国語が通じないぞ悪役令嬢」「それにしても君可愛いな悪役令嬢」「君の恋を応援するぞ悪役令嬢」 オドマン★コマ / ルシエド @Brekyirihunuade
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