太皇太后様の悪役女房は待宵の女軍師《ロリババア》

武田 信頼

プロローグ 革命は常に辺境から始まる

 



 明けて久寿きゅうじゅ二年<1155>。三月やよいも過ぎようとしていた。

 ふと文机ふづくえから顔を上げると、北廂きたひさしから切馬道きりめどう越しに見える内庭の紅梅はすっかりと散り、どこからか雲雀ひばりさえずりが聞こえてくる。

 格子こうし隙間すきまから差し込む暖かな光と匂い立つ春の香が、そよ風となってほおでた。流石にまだ肌寒く、冷えは身体よりも心にしんみりとこたえる。


「うらうらに照れる春日に雲雀上がり心悲しも独りし思へば――なんてね……」


 ぼやくように独り言をこぼした時、妻戸つまどの開く音がした。


大伴おおともの家持やかもちの歌ですか、胤子たねこ様。まあ……こんなに日和ひよりが良いのに心きことばかり続くと、つい物悲しくなってしまいますが――て、こんなものを読んでばかりいるので『腹黒はらぐろ小侍従』だの『姥童うばわらわの女軍師』だのと陰でささやかれるのですよ」


 簀子すのこから、北廂きたひさし上臈じょうろうつぼねに入ってくる女蔵人にょくろうど常陸ひたちである。不平を鳴らして、所狭しと広がる『孫子』や『六韜りくとう』『三略さんりゃく』を拾い上げるお付き女房は、幼馴染であった佐藤義清のりきよの娘であり、幼子おさなごの頃よりゆえあって胤子たねこが手元に置いている。今や妙齢みょうれいの十七歳、いつ殿方が通って来てもおかしくないくらい美しく聡明な女房へと成長したが、女童めのわらわのような無邪気さと、歯にきぬ着せぬ物言ものいいいが少々割引だ。


姥童うばわらわって……。せめて姥桜うばざくらと呼んでほしいわ」


 もはや三十路みそじを越えた胤子たねこは年増の自覚がある。しかし、四尺八寸満たない背丈で見た目は十一・二歳の女童めのわらわ見紛みまがうばかり。振分髪ふりわけがみそろえず細長ほそなが汗衫かざみといった童装束をまとえば『源氏物語』の若紫や、かくあらんといった感じだ。

 たわいもないが失礼な発言にふつふつと怒りを煮やしていると、常陸はぺたんと正面に座り、ずいっと膝行寄いざりよる。


「そんな、滅相めっそうもありませんわ。『姥桜うばざくら』とは娘盛むすめざかりが過ぎても、なお色気が残ってる美しい女性を差しますが、胤子たねこ様の場合は、むしろ咲き続けてさかりがきぬ『白子の不断桜』と申し上げるべきでしょう」


 思いがけない常陸ひたちの反論に、胤子たねこは思わず言葉がまる。ちまたの噂はしかり、胤子たねこを差す風聞は悪罵あくばに近い。ゆえにお世辞でもなく裏表うらおもてがない普通の賞賛が面映おもはゆいのだ。


「そ、そうかしら」


 柄にもなく素直に照れる胤子たねこを前に、


「さすがは天神様のお血筋だけあって、その不思議なお力が大変おうらやましく思いますわ。いつまでもお可愛らしいお姿のでいらしてくださいまし」


 賞賛も悪口あっこう忖度そんたくなく言いのけた。歓喜から落胆へ突き落された胤子たねことがめるような目つきで深く嘆息する。


「と、とにかく人様の容貌かたちを軽々しく口にするものではないわ。まあ……私にとって、成長しないこの身体からだのろい以外の何ものでもないと思ってるけどね。

 いずれにしろ、昨晩は弟の成清から母上がお隠れになられたとふみを寄こしてきたし、菅原氏長者うじのちょうじゃだった叔父の在長ありなが殿も先月お隠れになったものの、従兄の在茂ありもち殿では身分が低すぎるし……本当に心憂こころうきことばかりだわ。今は常陸ひたちのように、とても前向きには考えられないわね」


 常陸ひたちの言う天神様とは菅原道真みちざね公のことであり、胤子たねこから八代前の先祖にあたる。

 そもそも菅原家は桓武の御代に土師宿禰はじすくね古人ふるひとが菅原姓を願い出てから始まった。子の清公きよきみは苦学の末、文章博士となり地方官を歴任した後、中央官僚として抜擢される。この時、桓武天皇の第三皇子である葛原親王かずらわらしんのう式部少輔しきぶのしょうとして見出され、持てる能力を存分に発揮した。その経験から学問の重要性に気付いた清公きよきみは子弟養成場として、私塾『山陰亭』、通称『菅家廊下かんけろうか』を開校したのだ。

 しかし、元々の身分が低い。清公きよきみ都腹赤みやこのはらか讒言ざんげんによって播磨権守に左遷させんされた。それを救ってくれたのが葛原親王かずらわらしんのうだった。菅原の人間は代々、御陵みささぎに足を向けて寝ることは許されないのである。

 のちに、三十三年間に渡って育ててきた式部省を葛原親王かずらわらしんのう清公きよきみの子・是善よれよしゆずり、これより菅原氏長者が式部大輔しきぶのたいふを継承していくことになるのだが――この氏長者が胤子たねこにとって大きな悩みの種であった。


在茂ありもち殿の身分が上がるまでは待ちきれないし。本家筋の長守ながもり殿は従四位上・大学頭で身分は申し分ないけど、養子だからと固辞したし……。やっぱり私になっちゃうよね)


 祖父の在良ありよし以降、式部大輔しきぶのたいふ補任ほにんされておらず、従四位下・式部権少輔しょうの菅原在長ありなが身罷みまかられた時点では、嫡男の在茂ありもちは文章博士とはいえ、未だ六位相当。氏長者宣下せんげいただくには身分がく過ぎた。

 菅原氏長者は氏族の中で一番位の高い者が任じられる。そこで白羽の矢が立ったのが胤子たねこだった。今上帝の皇后・多子まさるこに仕え、信任が厚く、正四位しょうしいじょされている。

 更に問題があり、藤原氏や源氏と異なって一度補されると原則として終身その地位をまっとうしなければならない。女子おなごである胤子たねこには荷が重すぎた。そこで『姥童うばわらわの女軍師』と名高い胤子たねこが、次世代の氏長者を育てるまでの代理ということで一応収まったのである。


小大進こだいじん様が身罷みまかられたのはとても残念です。お可愛かわがられた故花園左府様の姫・懿子よしこ様に先立たれ、悲しみに沈んでらっしゃったのに……ようやく九日の春季臨時任王会にんのうえにて懿子よしこ様の皇子・孫王様が清らかに誦経ずきょうするお姿を垣間見かいまみることが出来て、これからおすこやかにならようという時に……」


 そっとそでで目頭を隠して押し黙った。常陸ひたちも幼い頃、小大進こだいじんに礼儀作法を学んでいた。思い出も色々あるのだろう。が、気持ちと話題を切りかええるように顔を上げた。


「そうでした。父・義清――西行法師殿から文をあずかって参りました。どうやら左府様の件で……と、いうことです」


 そう言って常陸ひたちは、そでの中に忍ばせていた結び文を胤子たねこに渡す。同じ左府でも故花園左大臣・源有仁ありひとのことではない。ちまたで『悪左府あくさふ』の異名を持つ、今の左大臣・藤原頼長よりながのことだ。ちなみに悪は『悪人』の意ではなく、言動・性格・人柄等押しべて型破りであるため、畏怖いふが込められた表現なのである。

 実際、二年前の四月さつきの頃、頼長よりながの命を受けて追捕ついぶしていた検非違使けびいしが罪人を石清水八幡宮の寺社領に追い込んだ。本来ならば、不入地ふにゅうちへ逃げ込んだ罪人の追捕ついぶ権は別当べっとうである胤子たねこの弟・紀成清きのなりきよにあり、寺社の手によって捕縛ほばくされた罪人を領界線で検非違使けびいしに引き渡すのが基本原則なのだが、それを無視し、強引に乗り込んで捜索そうさくした挙句に流血事件まで起こしたのだ。

 面目をつぶされた成清は、頼長よりながの養女・多子まさるこに仕える胤子たねこに泣き付いた。しぶしぶ苦言をていしたところ、綱紀粛正こうきしゅくせいの名のもと一笑いっしょうに付されてしまった苦い経験がある。

 このようなことが続き、慣習や協調を無視した政策をし進める藤原頼長よりながは今や中・下級貴族から完全に嫌われているのだった。


「……あまり良い内容ではないようね」

「さあ、私には分かりませんが、多分」


 常陸ひたちえ切らない返事に、胤子たねこはわざとらしい苦悩の表情を見せた。香をきしめた薄様うすようの料紙を開くと、みややかな水茎の跡がうるわしい。一見、恋文のように見える文を渋面じゅうめんのまま読んでいく。読み終わって、嘆息たんそくと共にひと言。


「とにかく、母上の葬儀そうぎもあるし……。皇后多子まさるこ様に里下さとさがりのお願いをしてくるわ。常陸ひたち、三条殿へ車の用意を。それと――」


 胤子たねこは料紙を取り出し、素早く文をしたためると、それを常陸のたもとに滑り込ませた。たちまち表情を硬くする常陸ひたちは立ち上がり、

 

「承りました」


 機敏な動きでを引き付け、きびすを返してひさしから簀子すのこへ出て行った。衣擦きぬずれの音が遠ざかってゆくのを確認した後、胤子たねこ遣戸やりどを開いて東孫廂まごしさしに出る。北母舎を横切って弘徽殿こきでん額間がくのまを抜けた頃、南母舎の東ひさしひかえる女房達のやりとりが聞こえて来た。


「左府様がその様なご無体をッ! 石清水臨時祭は貞観の御世みよより粛々しゅくしゅくと執り行われた儀式。しかも昨今坂東ばんとうが騒がしく、主上におかれましても御気色みけしきが優れぬと拝察し、皇后たっての希望なのですよ。それを急に還立かえりだちおこわないとは何故なにゆえですか」

「……しかし左府が昨日の試楽しがくをご覧になって『華美に過ぎる』と申されまして。今日の朝議で更に『重なる出費に加え、坂東の不穏から追捕使ついぶしの派遣も検討しなければならない。今は国庫に負担を掛ける時ではない』と申されたとのことです」


 一段と声を張り上げた上臈女房に対し、公達らしい男性の声が弱々しい。胤子たねこは眼前に檜扇ひおうぎをひろげて東ひさしへ進む。横目で見ると、どうやら女房側は加賀かが小丹波こたんば、公達は右近衛権少将・三条実長さねながのようだ。

 会話は途切れ、弘徽殿の万事をつかさどる上臈の見参に、南廂に控えていた中臈ちゅうろう女房の武蔵局むさしのつぼね下野しもつけ丹後内侍たんごのないし、そして女蔵人のかめまえがかすかな緊張と共に深く頭を下げた。

 胤子たねこは東ひさしを抜け、南母舎から少し離れた場所で膝をつく。


「小侍従、多子まさるこ様にお願いの儀で参上いたしました」


 胤子たねこ凛然りんぜんとした声に、御簾みす奥で繧繝縁うんげんべりの畳に唐綾からあやしとねを重ねた座でくつろぐ小袿姿の多子まさるこの影が衣擦きぬずれの音を立てて身を乗り出した。


「小侍従がお願いとはめずしいことですね。いったい何かしら」

「恐れながら……。実は母・小大進こだいじん身罷みまかったと文を受けました。つきましては里下さとさがりのお願いを言上ごんじょういたします」


 取りました表情でかしこまり、深く頭を下げたまま胤子たねこ多子まさるこの言葉を待つ。御簾みすのむこうではよほどあわてているのか、浮足うきあし立った気配が数間ほど起きた後、


「小侍従はこれへ」


 なかに入るよう、檜扇ひおうぎの頭が御簾みすの端からのぞき出た。胤子たねこの身分から考えたら特段に驚くことではない。むしろ多子まさるこが相談や悩みがある時、信頼できる女房を御簾内みすうちの母舎に入れることは良くあった。

 胤子たねこは頭を上げて膝行寄いざりよると、身をすくませて中に入る。ひかえの女房は一人もおらず、淡黄たんおうあざやかな二陪織ふたえおりうちぎひとえは青の幸菱文さいわいびしもん固地綾かたじあや。十五歳という若さに嫋々じょうじょうたる美少女ぶりが良くえるよそおいで、脇息きょうそくくように小さな肩をふるわせていた。


「今、小侍従がいなくなってしまうと困るわ。待賢門院たいけんもんいん様の時だってが明けたのは十三か月後だったのよ」

大喪たいそうの期間はおよそ一年ですが仁明にんみょう帝の御世みよより喪に服するのは十三日間、一年は心喪しんそうに服せば良いとなされました。待賢門院様の諒闇りょうあんは『礼記らいき』を模範きはんとされたもの。新院しんいん並々なみなみならぬ愛情の表れと拝察いたします。

 私も十三日で明けましたらご心配なさらずに戻って参りますわ」


 胤子たねこの努めて穏やかな声音こわねに、いまにも泣き出しそうだった多子まさるこの顔がわずかに安堵あんどの色を見せる。


「小侍従が言うのではあれば間違いはないわ。でも今は……どうしたら良いと思う?」


 恐る恐るそでの中から指さす御簾みすのむこう側には、剣呑けんのんな顔の口元だけを扇でかくして胡乱うろんな目つきを向けている加賀かが小丹波こたんば、ひどく気まずげに視線をらしている右近衛権少将・三条実長さねながが無言で控えていた。


還立かえりだちの件、ですか……」


 還立かえりだちとは石清水臨時祭の翌日、帰京した使つかいの一行を清涼せいりょう殿の東庭とうていにて東遊あずまあそびを舞い、饗宴きょうえんもよおしてその労をねぎらうものである。あくまで臨時祭の一時的なもよおし事であり、早くからすたれていた。

 そもそも石清水臨時祭は本祭とは別の恒例行事として行われており、朱雀帝の御世みよに起きた将門・純友の乱をしずめるために祈祷きとうしたことから始まる。

 昨今、再び坂東が乱れ始めている時節に合わせて今上帝はいちじるしく病気がちになり、一時失明の危機までおちいった。今も床にせている身を案じて多子まさるこが願ったのが還立かえりだちの復活だった。

 儀式の復活には多くの公卿が賛同した。帝だけでなく鳥羽の法皇、そして美福門院までもが病におかされている現状で、特に関白・藤原忠通ただみち、大納言・藤原伊通これみちがこれを後押しした。だが、突如還立かえりだちの復活に待ったをかけたのは左府・頼長であった。

 いくら太政大臣・三条実行さねゆきが祖父で懇意こんいしている頼長が直属上司とはいえ、こんな言伝ことづてを言い渡された実長さねなが胤子たねこは同情を禁じ得ないが、唯々諾々いいだくだくとして受けるつもりもなかった。


(さて、どうしたものか)


頼長は多子まさるこの養父でもある。よしんば皇后として意向をつらぬいたとして後ろだての機嫌をそこねてしまった場合、主人である多子まさるこの立場が悪くなるだろう。ゆえにここは薄氷はくひょうむ思いで慎重に進めなければならない。

 胤子たねこ御簾みす越しに右近衛権少将・三条実長さねなが見据みすえた。


「少将殿。お聞きかと思うが、皇后は坂東の不穏ふおん主上おかみ御心みこころやすからずと拝察はいさつし、今回の還立かえりだちをお決めになられたのですよ。左府様の言い様も分からなくはございませんが、まずは石清水臨時祭を恙無つつがなり行うことで御心みこころを安んじて頂き、坂東へは徳のあるまつりごとによっておさめるべきではありませんか」

「はあ……、いちいちごもっともかと。同じ意見を皇后宮大夫兼右衛門督うえもんのかみ・徳大寺公能きんよし様もおっしゃっておりました。しかし……」


 しどろもどろの実長さねながに業を煮やした加賀かがが激しく畳みかける。


右衛門督うえもんのかみ様は皇后のお父君ではありませんか。一体何があったのです、はっきりとおっしゃって下さいませ」

「実は……」


 実長さねながは言い澱んで一度言葉を切り、遠慮しがちに続ける。


「それを聞いた左府は『孟子いわく、人を治め天につかうるは、しょくくはし、と申す。つつましくあることが徳を生み、その積み重ねが国を保つ。浪費をおさえいざという時のためにそなえる事こそ国の大事』と右衛門督うえもんのかみ様を押しだまらせてしまいました」

「なんと!」


 加賀かがくやしげに大きな声を上げた。小丹波こたんばを始め、南廂みなみひさしひかえて一部始終を聞いていた中臈ちゅうろう女房の武蔵局むさしのつぼね下野しもつけ丹後内侍たんごのないし、女蔵人のかめまえも当然愉快ではなかった。

 隣に控える胤子たねこから多子まさるこが目に見えて意気消沈してゆく。特に責められる罪を犯したわけでもないのに目線を膝の上に落としたまま表情を曇らせる。

 落ち込んだ多子まさるこに何か声を掛けようとした時、実長さねなががおもむろに再び口を開いた。


「左府が特にこちらの方々に申し伝えるようにとのお言葉がありまして――」


 胤子たねこの目に警戒の色が浮かぶ。これ以上何があるというのか、しかし自分たちの言い分も通すべく機会をうかがおうと平静を取り戻した。


「なんでしょうか」


 胤子たねこの促しに実長さねながは深々と頭を下げ返答をけた。どうもはっきりしない態度にいぶかしさを覚える。やがて意を決したのか、やや緊張の面持おももちで、


「――『武韋ぶいわざわいあらんや』と」


 声は震えていた。不遜ふそんを承知で言ったのだろうが、年若い多子まさるこにはあまりにも酷な諫言かんげんであった。恐らく伝言の目的は多子まさるこ叱責しっせきすることではなく、お付きの女房――特に胤子たねこに対して釘を刺しているのだろう。皇后・武則天ぶそくてんが引き起こした帝位簒奪さんだつと混乱になぞらえて女性の身で政治に介入するなという警告だ。それにしても不本意過ぎる。

 衝撃のあまり多子まさるこは泣き出し、他の女房達は反論の言葉も浮かばなかった。胤子たねこだけは静かな怒りに燃えた。いくら養父といえど左大臣といえど、言っていいことと悪いことがある。ここまでコケにされてだまっていられるはずがない。


「少将殿」


 実長さねながはびくりと肩をふるわせた。当てつけをらうのだろうと身構みがまえている目の前の公達きんだち胤子たねこは優しく語りかける。


「左府様のおいつけ、しかとお受けいたしました。しかし小侍従には何を以て無駄と申してるのか全く理解が出来ません。この時期に軍勢を整えることが国の大事なのでしょうか。ぜひ左府様には『女は毛詩もうしを見ざるや。糾糾きゅうきゅうたる葛屨かっく以て霜をし』とお伝え下さいませ」


 右近衛権少将・三条実長さねながたたまれなくなり、逃げるように弘徽こき殿から出て行った。

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