水の妖精の愛し子の巣立ち8

ふと疑問に思ってシェナは訊いた。


「でもそれならどうして泉と雨の日にしか会ってくれなかったの?」


いつでも一緒にいられたはずなのだ。

それなのに、どうして?

いつでも一緒にいたいと思うのはシェナだけなのだろうか?

彼女は違うのだろうか?


水の妖精はシェナから視線をらしてぽつりと言う。


『自制していたのよ』

「自制? どうして?」


本気でわからなくて首を傾げる。

そんなことする必要なんてなかったのに。

変わらず視線を逸らしたまま水の妖精は答える。


『ずっと一緒にいて、一人占めしたくなっちゃうから』


なんだそんなこと。

思わずシェナは微笑わらう。


『シェナ?』


水の妖精はきょとんとする。

きっと、水の妖精はどれだけシェナが彼女のことを好きか知らないのだ。


「私だってずっと貴女と一緒にいたいと思っているのよ?」

『シェナ!』


水の妖精が抱きついてきた。


『シェナ! シェナ! 大好き!』

「私も大好きよ」

『嬉しい!』


頬ずりされる。

そのまま水の妖精は明るくのたまわった。


『このまま二人で世界を見に行っちゃう?』

「え……?」


どうしてそういう発想になるのだろうか?

固まったシェナを見て水の妖精が説明してくれる。


『私はずっとシェナに広い世界を見てもらいたいと思っていたの』

「そうなの?」

『ええ。だって世界はずっと広いのに、シェナはこの森と近くの町しか知らないじゃない。もったいないなぁって』


両親同様、水の妖精もシェナの世界の狭さを心配していたようだ。

本当にシェナだけが狭い世界に閉じこもっていようとしていたようだ。


「そうだったの」

『ええ。だからもっと広い世界を見に行きましょうよ!』

「貴女と一緒に?」

『ええ、もちろん!』


少し想像してみる。


見知らぬ町にいる自分。

その隣には笑顔の水の妖精がいて。

不安そうな自分は、でも、こらえきれない微笑みを浮かべていてーー。


きっと大変なこともあるだろう。

だけど水の妖精彼女と一緒ならどんなことがあっても大丈夫な気がする。


「そう、ね。それもいいわね」

『えっ、本当?』


シェナは微笑んで頷いた。


『シェナ!』


水の妖精は喜色満面だ。


だけどシェナは世間知らずだ。森での暮らしと近くの町しか知らない。

だからーー。


「まずは、少しずつね」

『ええ。それでいつかは世界中を一緒に回りましょう!』

「ええ!」



まずは近くから。

そしていつかは遠くまで世界を見に行こう。



貴女とともにどこまでも。

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サルフェイの森の小さな物語 燈華 @Daidaiiro-no-sora

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