水の妖精の愛し子の巣立ち7

それをどう取ったのだろうか。


『シェナ、広い世界を見に行きましょうよ!』


ぱっと手を広げて水の妖精が誘う。


急にどうしてそんな誘いをするのだろう?


だって、水の妖精は水の側を離れられないはずだ。

だから雨の日はシェナの家に遊びに来ることができた。

逆に言えば、雨でなければ、どこにも動けないはずだ。


「……行かないわ」

『どうして?』

「だって……」


口ごもる。

言ってもどうにもならない。

それなら言うべきではない。

言っても困らせるだけだ。

水の妖精は首を傾げる。


『ねぇシェナ、私はどこまでも一緒についていくわ』

「でも……」


無理なのではないか。

泉の傍から離れられないのではないのか。

喉元まで出かかっているが声にならない。


ふと何かに気づいたように水の妖精は真面目な顔になった。


『私は何にも縛られていないわ。どこにだって一緒に行けるのよ?』


シェナはその言葉に大きく大きく目を見開いた。

くすりと水の妖精が微笑わらう。


『目がこぼれ落ちてしまいそうね』

「だ、だって……」


それ以上うまく言葉が紡げない。

まさか水の妖精が泉に縛られているわけではないだなんて思いもしなかったのだ。


気持ちを落ち着かせるために息を吐く。

少し冷静になってから告げた。


「水が近くになければ動けないと思っていたわ」

水の妖精私たちはどこにでもいけるわ。大気には水があるもの』

「考えたらそうよね。勘違いしていたわ」


確かに大気には水がある。

そうでなければ水の妖精は水場にしかいないことになってしまう。


まったく気づいていなかった。

シェナは顔を赤らめる。


『私の行動が勘違いさせたのよね。ごめんなさい』


水の妖精が眉尻を下げて頭を下げた。


「ううん、私が思い込んでいただけだから」


冷静に考えればわかりそうなことなのにどうして気づきもしなかったのか。

自分に呆れる。


水の妖精はそんなふうにシェナが思い込んでいたことを知らなかったのだから仕方ない。

気づけば教えてくれただろう。

シェナだって一度確認すればよかったのだ。

そうしたら誤解だってすぐに解けた。

あるいは泉以外の場所で雨でない時に姿を見ればすぐに気づいただろう。

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