先輩、キノコは野菜にはいりますか?

1本目

 木子尊は疑い深い。自分以外は信用していないと明言するほどその難儀な性格は絶叫学園第一高等学校では有名だ。しかし、それさえなければ普通に会話はできるし、ふざけ合いもできる普通の男子高校生だ。加えて派閥の上層部であり、戦闘力もある彼は人気者でもあった。人気者だが、疑い深い性格だと皆が理解しているので、尊と仲が良い人間ではない人からしたら話しかけにくいようでその人気は影のものだった。この日までは。

「尊先輩!俺らも戦い方、教えてくださいよぉ!」

「あたしもぉ!」

「こっちもお願いします!尊さんの技、やりたいっす!」

「なんだよ、お前達」

 カリフラワーの部屋に入った途端、所属している生徒達がいきなり周りに集まってきて尊は戸惑ったように彼らを見た。

「尊さんの戦い方に憧れているんすよ!」

 熱心なファンのような生徒に尊はさらに戸惑ったように目を見開いた。あまり自身の性格は好かれるタイプではないと自覚している尊には想像していない状況だった。そんな尊を面白そうにカリフラワーの上層部は眺めていた。

「芹、あとで尊に睨まれるよ。アイツ、困っている」

 南輝はニコニコと頬をついて満足そうに頷いている芹を見た。

「だって、皆、尊を尊敬しているのに誰も声をかけようとしていないからだ。勿体ないだろ。アイツはそんなに気難しい奴じゃない」

「まぁ、尊に話しかけたい人はたくさんいましたからね。ただ、アイツの有名な性格が邪魔していましたから。ちょっと難しいところありますけど」

 龍寺は弟を見るかのような優しい瞳で尊を見ていた。

「ちゃんといい奴ですもんね!」

 沙耶も微笑みながら頷いた。

「思い出すなぁ、アイツと出会った日を。なぁ、南輝」

「そうだな」

 



 南輝と共にカリフラワーを結成した時、芹のもとに多くの所属願が届いた。他の派閥と比べると入りやすい雰囲気があったのかもしれない。野菜作りをすると公言したことがよかったのかもしれない。とにかく他の派閥と比べたらアットホームな雰囲気があり、カリフラワーは四つの派閥の中で一番人気だった。そんなカリフラワーのリーダーである芹は嬉しそうに所属願に書かれている名前を一枚ずつ読みながらカリフラワーの畑を目指していた。カリフラワーを結成してから派閥全体で育てている畑は芹にとっても派閥にとっても大切なものであり、歴史を語るようなものであった。特に芹にとっては我が子も同然だった。暇さえあれば畑に行き、ただただ畑を眺めている時もある。

「ん?」

 いつものように畑に行くと、見覚えのない生徒が座り込んで畑を眺めていた。

「君もうちの派閥に入るのかい?」

 芹が声をかけると、男子生徒は振り返った。サラサラとしたキノコヘアが特徴的な不思議な雰囲気の目をもつ少年だった。

「入らない」

「では、畑に興味が?」

「ない」

 男子生徒は立ち上がって黙ってその場を離れてしまった。すれ違うように南輝が畑に現れた。

「新しい子?」

「いや、違うようだ」

「芹?」

 南輝は一点を見つめ続ける芹に首を傾げた。

「南輝、あの男子生徒について調べよう。あの子は強い」

 芹は太陽のように笑って南輝を見た。

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サイキョウ 絶叫学園第一高等学校編 小林六話 @aleale_neko_397

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