4. ハロウィンのサプライズ

「あーあ、私も寮に入りたいなぁ。」


 朝、クララがキャメロンに勉強を教えた後にクラス・ジョーヌの教室に行くと、レーナがザカリーとダグラスを相手にぼやいていた。


「何言ってんだよ!寮なんて最悪だぞ。ルームメイトが特にね。うるさいし、早起き過ぎるし、部屋を片付けないし……」


「ルームメイトって、俺のことじゃないか!ひどいぞ、ダグラス!」


 ザカリーが軽くダグラスを小突いた。

ザカリーとダグラスはいつもこの調子だ。

どれだけお互いをけなし合っても決して本気のケンカにはならないことが、二人の仲の良さを表しているが、クララとレーナにとってはうるさいだけだ。


「レーナはどうして寮に入りたいの?」


クララは、話題を変えるために聞いた。


「だって、寮ではハロウィンパーティーをやるんでしょう?」


 噂によると、寮に通っている生徒たち(つまり、全校生徒のほとんど)は、寮の談話室で仮装をして集まり、お菓子交換をするらしい。


「それは、雲の上の世界にトリック・オア・トリートがないせいだよ。寮に通っていない人たちは地上でトリック・オア・トリートができるだろ。」


 ザカリーの言う通り、雲の上の世界にはハロウィンの習慣がなかった。

クララはそれが残念で仕方がなかったが、代わりに地上でトリック・オア・トリートができるのは良いことだった。

シャトー・カルーゼルに入学して以来しばらく会っていなかった、友人のアビーとヘーゼルと一緒に会えるからだ。

スターヴィリック先生のおかげで、もう堂々と転校したと言えるようになったから、また友人たちとも遊ぶことができる。


「みんなはどんな仮装をするつもりなの?」


レーナの質問で、また話が盛り上がった。


「俺とダグラスは海賊にするんだ。俺が船長で、ダグラスはただの水夫。」


「違う、俺が船長にするってことに決めたじゃないか!」


「やっぱり変えたんだよ。船長の方がカッコイイし。」


「私は、ただの乗組員でもカッコイイと思うけどな。」


 ザカリーのわがままに付き合わされるダグラスが可哀想になったのか、レーナが言った。

 ダグラスはそれを聞いて自慢げにニヤッと笑った。反対に、ザカリーは不満そうな顔をする。


「なあクララ、ただの乗組員より船長の方がイケてるよな?」


急に水を向けられて、クララは肩をすくめた。


「さあね。私は断然パイレーツよりヴァイキング派だし。それより、レーナは何の仮装をするの?」


 レーナは魔女の仮装をすると言った。

 クララは『指輪物語』のエルフの仮装だ。

最初は違うものの予定だったが、エドガーのおかげで『指輪物語』にハマったので変えることにした。


 他の人にも聞いてみると、それぞれ個性が出ていて面白かった。

ヒュー・クリーヴランドは『くまのプーさん』のプーにするらしいし、サラはプリンセス、アリソンはお手製のハンバーガーのコスチュームを着るという。

ドロシーは例年通り『オズの魔法使い』の「ドロシー」にするそうだが、これ以上どうやって「ドロシー」らしくするつもりなのか、クララにはさっぱり分からなかった。

エドガーは騎士の仮装をするかと思っていたが、実際の答えはクララの予想の斜め上だった。


「僕は今年から、ハロウィンはやめて、サムハインをやることにしたんだ。ケルト風にね。」


「サムハイン?!」


 エドガーの話によると、サムハインは大昔のケルト人がやっていた新年のお祭りで、ハロウィンのもとになったものらしい。

詳しい説明を聞かされる前にクララはエドガーの前から逃げ出したが、サムハインの日には死者の世界との間に橋がかけられ、死者がこの世に戻ってくるそうだ。


 今日の授業は、トリック・オア・トリートを楽しみにしているクララにとって、とてつもなく長いものだった。

ようやく6時間目の授業が終わると、クララはレーナと一緒にシャトー・カルーゼルから飛び出した。


 メアリーの家に帰って急いでエルフのコスチュームを着ると、アビーとヘーゼルと約束していた待ち合わせ場所へと走った。

アビーとヘーゼルはもうそこで待っていて、クララとの再会をとても喜んでくれた。


「あー、クララ!とっても会いたかったのよ。あんたがいないと、私たちバランスが取れないの。

ほら、私はおてんば娘だし、アビーはどっかの姫君みたいにおしとやかでしょ?アビーが私の話を遮らないもんだから、私ったら調子に乗って何時間でもしゃべっちゃう。

あ、そうだ!昨日めっちゃ面白いことがあったの。あのね……」


ヘーゼルはこんな具合に息継ぎもせずに話しまくった。


「クララ、新しい学校はどう?ちゃんとみんなと馴染めてる?」


 心優しいアビーは心配そうに言った。


「心配ありがとう。でも大丈夫よ。とても充実しているわ。二人となかなか会えないのは寂しいけど。そっちはどう?」


「クララが新しい学校で楽しめてるって分かったから、私たちの心配事はもうないわ。クララが幸せでよかった。」


 ひとしきりお互いの近況を報告し終わると、ついにトリック・オア・トリートが始まった。

トリック・オア・トリートは、14歳になった今でも十分に楽しいものだった。


 メアリーの家に帰る頃には、日はすっかり落ちて、真っ暗になっていた。

家に帰ると、メアリーとカールがトリック・オア・トリートで残ったお菓子を片付けていた。

 もっとも、片付ける量とつまみ食いする量のどっちが多いかは微妙なところではあったが。

それから、3人でテーブルを囲み、遅めのハロウィン・ディナーを食べていると、


―ドン、ドン、ドン


玄関のドアがノックされた。


「こんな時間にトリック・オア・トリートかしら?」


「クララ、出てくれる?」


 クララはメアリーに言われて、席を立った。


どうしてメアリーは私にドアを開けて欲しいと頼んだのだろう。

 そう思いながらも、クララはドアを開けた。


「トリック・オア・トリート!」


 そう言って、ニヤッと笑った人物を見て、クララは驚いた。


「パパ!」


 クララはスティーブンの腕の中に飛び込んだ。


 一方、食堂では、クララの声を聞いたカールが目を丸くしてメアリーの方を見ていた。

メアリーは得意げに微笑んでいる。


「ダーリン、君は今日スティーブンが来ることを知っていたのかい?」


「驚いた?この前お兄ちゃんに電話したとき、今日で裁判が終わるって分かったの。それで、裁判が終わったら裁判所から車を飛ばしてこっちにクララを迎えに来てって頼んだの。

ハロウィンのサプライズってわけ。ちなみに、裁判には勝訴したそうよ。」


カールはこの、サプライズ好きで茶目っ気たっぷりな妻に感心して首を振った。

メアリーのサプライズは本当の意味で初めて成功を遂げたわけだ。

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