篝火(かがりび)はニィと、ほほ笑む 短編

漢字かけぬ

第1話 呪いの仮面オーム

 私立白夜学園高等部には、ちょっとした遊びがある。


 事の発端は動画投稿者の放送事故によるもの。

 デジタルキャラクターではなく中の人の部屋が映ってしまった。

 その際部屋の女子制服から俺たちの通っている学園ではないかとの噂が流れ、

 お前”仮面オームだろ?”といったおふざけが流行。

 マスカレード・オンシジューム。仮面舞踏会と下を短く読んで仮面オーム。

 まあボイスチェンジャー使えば女の声なんて簡単なんだが。


 動画投稿の基本だが個人を特定されないように嘘を交えて話すのが基本。

 体育祭には騎馬戦をしたと仮面オームは話していたが、

 歴史上そんな危ない競技はしたことがないと学園からの返答。

 正直赤の他人が制服飾ってたら迷宮入りだぞ?



 始めは学生同士のお遊びだが厄介なファンはいるもので、

 校門前で群がってる大人共がちらほら。

 顔バレしてないからか女子に片っ端から話しかけている。

 いや事案だろ!


 例の放送事故以降、仮面オームは生放送していない。

 だが白夜学園が注目されてしまった今、小競り合いが起きる。

 ファンたちが片っ端から学園生を監視し、不祥事を洗い出した。

 ごみのポイ捨てに信号無視。不自然に動画が切り取られた口喧嘩まで。

 俺達に攻撃して仮面オームをいぶりだす作戦か。

 それでも沈黙を続ける仮面様。


 最悪な事件が急遽舞い降りる。

 新聞によれば、朝7時45分ごろ学生グループと口論になった

 桜井 明日太氏が突き飛ばされてトラックに引かれ翌日死亡とのこと。

 今頃誰が親父を突き飛ばしたか学生グループたちは言い争っているだろう。

 だが問題はそこではない。事故とは言え人が亡くなったのだ。

 学園側の謝罪では済まない。部活動大会の辞退に翌年の入学者低下。

 進学就職にも少なからず影響はある。

 傷物の学園生を採用するメリットは少ないからだ。


 仮面オームを当てるゲームはもはや遊びではない。

 自分たちを不幸に貶めたヤツを探す狂気へと変わった。


 仮面オームの正体はだいたい見当がついている。

 もし彼女が体育祭を”想像”でしていたならば話は別だ。

 例えばネットで調べた架空のイベントを真実のように語れば

 ファンは真偽関係なく楽しむだろう。


 そう、当事者であれば絶対起こさない矛盾を作れるのは

 保健室登校か自宅待機者しかいない。


 放課後、すがる思いで保健室のドアを開ける。

 独自の薬品の匂い、風に舞う白のカーテン。

 そして一人の少女が椅子に座っていた。

 外側は薄緑でウェーブのかかった髪。内髪は赤1色だ。

 自己主張が激しい胸はそのうち堪能するとして。


 「俺は桜井 火我ひが、高等部2年だ。

 もしかして君が仮面オームだったりする?」

 「ええと、違いますよ。

 私は青木 永久とわ。同じく2年」


 意外と事務的な喋り方だな、永久さん。


 「今この学園では仮面オームの正体を探すので持ち切りだ。

 それは知っているかい?」

 「いいえ」


 首を横に振る永久さん。手ごわいな。


 「体育祭の競技で楽しかったものは何?」

 「ずっと見学してた」

 「合唱コンクールで何歌った?」

 「見学」

 「修学旅行は何処かな?」

 「保健室で自習」


 なんだこれ!!!学生生活のイベント大半やってねーじゃん!!!

 それで楽しいのか!!永久さんよぉ!!


 「話終わり?そろそろ帰る」

 「まっ、待ってくれ。仮面オームについて知ってることがあれば

 教えてくれ!頼む!!!君以外だともう手がかりが無いんだ!!」


 土下座をし永久さんに頼む。


 「方法ならある。貴方が仮面オームを演じればいい」

 「何言ってんの!!!この人!!!!!!!俺男だぞ!!!!」

 「ボイスチェンジャーを使えばバレない」

 「そりゃそうだけど!手を叩いた音とかで見抜かれるぜ?」

 「火我君だっけ?なんで知ってるの?」

 「ゑ?そりゃ基礎中の基礎だろ。

 ボイチェンは声だけを変化させる物じゃない。音全てを巻き込むから。

 手を叩く前にクリック音がしたら、

 ボイチェン操作の証拠だから6割怪しいと思ってくれればいい」

 「火我君?」

 「何か?」

 「女装アカウントでもやってるの?」

 「やってません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 「声の大きさでバレバレ」

 

 やばい!!こりゃダメだ!終わった!仮面オームどころじゃない!

 さらば学園生活!!


 「黙る代わりに条件がある」

 「いや俺関係ねーし!違うし!!!」

 「ボイスレコーダーに録音終了。

 後はフリーソフトのボイチェンを片っ端から試して人海戦術を」

 「もうだめぽ!分かったよ!条件ってなんだよ!!!」

 「仮面オームを引き継いでほしい。勿論助力はする」


 はぁ~。とため息をつく。やっぱこの人じゃん!!


 「結局身の安全欲しさか、好きだったんだけどな~、仮面オーム。

 正直興覚めだ。いいよ、俺の秘密くらい好きにバラまけば?」

 「火我君、女の子が困ってる。助けないの?」

 「別に?君が招いた事件だし。俺が火の粉を被る訳ないじゃん!

 今日のことは誰にも喋らない。代わりに俺のことも黙っていてくれ」

 「共犯者ってこと?」

 「まあ、そうなるな」

 「ボイスレコーダー2個目録音終了。遺言は?」

 「クソ!!俺が何したっていうんだよ!!

 俺はただ犯人捜ししてただけだぞ!!!」

 「知らぬが仏、触らぬ神にたたりなし」

 「分かったよ!!俺があんたを守る篝火かがりびになる!

 それで文句はないよな?データ消してくれ!」

 「承認。ようこそ、終わらぬ贖罪の旅へ。白夜は永久に続きます」


 いろいろと予定が狂ったが計画通り。

 篝火は、ニィと嘲笑する。

 俺の人生をめちゃくちゃにした永久さんに復讐できるのだからな。


 ”あらかじめ”用意していたナイフを取り出し1歩、また1歩と進む。


 なにも仮面は動画投稿者の特権ではない。

 笑顔の下に狂気をトッピングして。

 今を生きる人間にも、そして死者も同一。

 純白の部屋が鮮血に染まり

 復讐を果たした篝火はニィとほほ笑む。


 仮面オームの正体は結局分からずじまい。 

 篝火として彼女の秘密を守った、桜井火我

 仮面オームの呪いから解放された青木永久

 仮面の呪いで息子を復讐鬼にした桜井明日太

 

 仮面オームを受け継いだ俺が自分を刺したか?

 それとも父親殺しの遠因の永久を刺したのか?

 その答えは想像にお任せする。

 

 

 呪いの仮面オーム事件は少年の逮捕で幕を閉じた。

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