彼は捨てる。彼女は拾う

床下

第1話少年は捨ててそれは拾われる


 少年はそこに無惨に捨てた。何故かなんてはない。彼らには相応しくないからだ。


 少年は日頃から親から心身的に暴力を受けていた。

理由なんてものはないようなもので彼は暴力を受けた。

 

 躓いたら部屋が汚いからだと殴られ。気分じゃない料理が出てくればまずいと罵り嘲笑しながら殴られる。


 ことの発端は少年の異常性だった。いくら何をしても笑わない。最低限のことしか喋らない。


 そんな子供に薄気味悪いと思った両親は罵声を浴びせた。だが全く動じもしない自分の子供に余計に気味悪がった。


 それが次第に悪化し少年は今に至る。今に至ってはいいストレス発散の道具として使われている。


 だが当の本人はずっと考えていた。


 物心ついた頃から人と家畜のような動物全般の区別がつかなかったからだ。根本は生きて、飯を食い、子を作り、寝る。そんな彼らが同類の中でも争い弱者を決める。そして殺し奪い合いそこに正当性をつける。


 そんな姿が醜く好きじゃなかった。だが、いくら憐れんでも彼も同じ人である以上自分自身も好きじゃなかった。


 痛みには慣れ、心はもとより傷などついてはいない。そう思い悩みながら彼は力を振るわれることをよしとしていた。


 高校三年を迎えたある日。

高校は世間体を気にするうちの家では学費だけ払ってもらい行くことができた。

 もちろん色んなことを言われながらにして。


 教室へ着くとある女の子が話しかけてきた。

中学の頃からの幼馴染である。


「ねぇ。あんたまた傷増えたでしょ」


 首にできた引っ掻き傷を見て彼女は言った。

彼女自身は昔から俺の事を知っており一時期はうちで預かるとまで言って俺を救おうとしていた。


 だが俺はそれを断った。救いなんてものは必要もなく現状に俺は不満などなかった。むしろ注目や目立つことこそが嫌いで俺はやめてほしいとはっきりいった。


 その一件以降彼女は、何かと俺に話しかけ、遊びに連れて行き、おそらく友達呼べるものへと外から見て成長していった。


「あぁできたが。それが?」


「相変わらずあなたは自分がどれだけ劣悪か理解しようとしないわね。」


 劣悪なんて…世の中泥水を啜って生きる人間もいるんだ、そこに比べたら比較するまでもない。


「理解している。した上で考える必要性がない」


 もうかれこれ数年の付き合いである彼女は、いつも通りため息をひとつ吐いた。


「なら少しは手当ぐらいしなさい。病院に行くのは嫌でしょ」


 そういい持ち前の簡易的な救急箱を出した彼女は俺の怪我の手当てを始めた。


「ありがとう」


 一言お礼を言った。


「礼を言うならこんな怪我してこないで」


 そう言いながら彼女は手当てし続けた。


「よし終わり。それであなたは行くの?」


 手当てを終えてると彼女は聞いてきた。


「どこにだ?」


「新入生歓迎会よ」


「なんだそれ」


「あーそっかあなたスマホ持ってなかったわね」


 そう言いながら彼女はもっているスマホの連絡ツールアプリを開いて俺に見せてきた。


 そこには新入生歓迎会なるものがグループ名にあり

簡単に言えば、大勢で親睦を深めるために集まろうってやつだ。


「参加するわけないだろこんなの」


 明らかにめんどくさい。そう理解した俺は断ろうとしたが


「そうよね。でも一生のお願いがあるの」


 いい予感はしなかった。


「なんだよ」


「実は私も行きたくないなぁと思ったけどめんどくさいやから多いから…」


 唐突だが、彼女は美人の部類である。故によく男に言い寄られることが多かった。


 だから魔除けみたいなものを、必要としており彼女の家族と話し合った結果、俺が彼氏のフリをすることにしたのだ。


 効果はあるようで彼女の周りには男がよらなくなった。


「でもどうしてもきてよって後輩から言われちゃって…」


「俺についてこいってことだな?」


 最後まで言わずとも理解した俺は渋々承諾した。


家に帰ると母親がいた。


「あらいたの」


 冷たく一言言われたがいつものことだ。なんとも思わず俺は「今帰ってきました」と返した。


「チッ」


 舌打ちだ。何も反応しないのが気に食わないのだろう。

高校を過ぎると体格も良くなったせいか暴力的な事は、母親はしなくなった。以前変わらず父親はするが。


「母さん」


 例の会へと行くために連絡するべく声をかけた。


「なに」


 まるで睨みつけるように俺を見ながら返事を返してきた。


「新人歓迎会みたいな事に出席しなければならないらしいので本日は遅くなります」


「知らないわよ。勝手にして」


 嘘だ。勝手にしたところで遅いと怒鳴り何かしらの危害を与えられるのだ。

 痛みや苦痛などはどうでもいいが、そこで時間を取られるのは勘弁願いたい。故に事前に言っておくのだ。


 まぁ大体意味はないが。


「それに。あんたみたいな奴に祝われたら新入生は可哀想ね」


 そうクスクス嘲笑しながら吸っていたタバコを俺の手の甲へと押し付けた。


 ジュッと軽い音ともに少し熱匂いがしたが特に何も思わなかった。


「チッほんと顔色ひとつ変えない。気持ち悪い。早くどっかいって!」


 やはりこの反応が面白くないのか、手を叩かれながら出て行けと言われた。


「失礼します」


そんな事をされながら態度は変えず俺はそこから離れた。


 家を出ると幼馴染がいた。


「大丈夫だったの?」


 少し心配そうに見つめながら問いてきた。


「憎まれ口を言われた程度だ。問題ない」


 タバコの火を当てられた右手をポッケに突っ込み俺は答えた。


「そう…その程度と思うのもどうかと思うけど…傷を負ってないならまだいい方よね」


 少し安堵したような素振りを見せるといつもの表情に戻った。


「じゃあ行くわよ」


 切り替えるようにそういうと俺を引っ張りながら会場へと連れてかれた。


 幼馴染に連れら着くとそこは、俗にいう豪邸と言われそうな家だった。


 ものすごくでかい庭に学校かと思われるほどの家。メイドや執事かと思われる人が何人かいた。


「随分とすごい会場だな」


「そうね。計画下のが新入生代表なんだけどなんかどこかの財閥かなんかでお金持ちみたいよ」


「だからこんな豪華なのか」


「そうですよ!」


「「!?」」


 いつからそこにいたのか。全く気配に気づかなかった俺達は驚いた。


 そこにいたのは俺より一回りほど小さいいかにも後輩らしい口調の女の子だった。


「お兄さん達は先輩ですかね!?」


 ハキハキといかにも元気っこのような口調で喋る彼女に少し戸惑っていると先に幼馴染が口を開いた。


「まぁ、三年生になるからそうね。貴方は新入生代表だった子よね」


 通りで見たことあると思った。


「そうですか、そうですかーどうです?この会場は?」


 話していた幼馴染を無視して彼女は、しっかり俺を目に捉え喋りかけてきた。


「いいんじゃないか。みんな楽しそうじゃないか」


 見たそのまんまを言った。だが彼女は不服だったそうだ。


「それはどーでもいいんですよー。お兄さんは楽しいですか?」


 そこに写ってるのは先ほどまでの元気のいい表情から変わってないように見えるが俺にはとてつもなく深い深い暗闇が見えていた。


「つまらんな。君がどうでもいいと思うように俺もどうでもいい」


「へーそうですかーざーねんでーす」


 嘘をつくと面倒だと判断した俺は正直に感想を言った。

すると彼女は、わざとらしく残念そうにした。


 すると、幼馴染が口を開けた。


「主催者がこんなとこにいていいの?」


 今俺たちがいるのは会場の端の端。人目につかないとこであり中心となりうる人があまり来ないところだ。


「いいんですよーこんな物ー」


「こんな物とはだいぶひどい言いようだな。いいのか?」


「お兄さん達は言いふらしたりしなそうだしーしたところで潰せますし良いですよ」


 笑いながら怖い事を言っていた。彼女の育ちがそれを冗談じゃないと証明してるからこそ、本気でできると理解していた。


「もうそろ帰ってもいいか?」


 話の腰を折るように告げた。


「あ、う、うん最後に後輩に挨拶だけしてきていいかな」


 急な話の切り替わりに戸惑いながらも彼女は帰る準備をした。


 そこし足早にその後輩ととこへと走っていくと、先ほどまでに元気よく笑っていた、後輩こと新入生代表の子がニヤつくように擦り寄ってきた。


「お兄さんは今生きてますか?」


 漠然な内容を問いてきた。


「よくわからないな。頭おかしいのか?」


「アハハ私に初対面でそんな口聞けるのお兄さんぐらいですよ」


「お前からは嫌悪感しかないからな」


 そう。先程からこの子に対して嫌悪感しか湧かないのだ。まるで人の醜悪を煮詰めて凝縮したような物を感じてしまう。そんな感じがして酷く嫌気がさしている。


「ひどいですねーまぁいいや。どうです?今すぐ貴方の環境を変えてあげましょうか?」


 俺の環境を知っている?そんな疑問を浮かんだが話を弾ませたくない。


「嬉しい話だが遠慮しておく。後が怖い」


「そんなーちゃんとリターンは貴方のメリットになるのに」


「気持ち悪いからそれ以上近寄らないでくれ。それじゃあ俺は帰る」


 少しずつ近寄ってくる彼女を止めて俺は帰った。


「ざーんねん」


 全く残念そうにしてないが彼女は残念と手振りだけした。


「あー最後に。」


「なんです?」


 俺が最後に振り返って彼女に声をかけると返事が返ってきた。


「お前の言う生きてるがよくわからんが俺の解釈なら生きてるぞ」


「そうですか。ならよかったです」


 だが彼女はその返答が嬉しくないのか不貞腐れたように返事を返した。


「じゃあな」


「ええ。また」


 不敵な笑みを浮かべながら彼女は手を振ってきた。


挨拶を終えたのか幼馴染が戻ってきた。


「何か話してたの?」


「何も」


「……まぁいいわ」


 何か言いたそうにしていたが俺は何も言わないと決めていたためそれが伝わったようだ。流石は幼馴染。


 午後20時ごろを過ぎた頃に家へつき彼女と別れ家へ入りリビングへ向かうと拳が飛んできた。


 唐突な暴力だったため俺は壁は軽く飛ぶように打ち付けられた。


「おせぇじゃねぇか!何やってんだおめぇ!?」


 どうやら本日は父親は仕事でしこたまストレスが溜まったらしい。いつもにも増してキレていた。


「事前に伝えてたはずですけど」


 いつもより強いだけで何度か経験ある物だ俺は臆する事なく発言する。だがこれは火に油を注ぐ行為だ。


 その発言に切れた父親は近くにあったゴルフクラブを持った


「んなこと聞いてねぇよ!」


 そのまま振りかざしたゴルフクラブは俺の頭を目掛けて振られた。

危ないと思った俺は腕でガードしたが。鉄の棒が腕にあたればそれはダメージを負うのは必然だった。


 少し腕を触ってみると感触がない。


「折れてるな…」


 俺は折れてる手を庇いながら立ち上がった。


「腕が折れてます。これ以上は度がすぎますよ父さん」


 冷静に俺が言ったがどうやら逆効果だったようだ。


「それだそれ!それが俺を舐めてやがるんだ!」


 母親はと言うとテレビを見ていた。


  異常だ。


歯止めが効かない父親も、それを見て見ぬふりをする母親も。これをよしとする息子も全てが異常だった。


 だがそこに常識が入ってしまったのが俺の人生の誤算だった。


「ダメッッッ!!」


 ここにはいない人の声がした。


 そして、キレて振りかざしたゴルフクラブは俺へと直撃することはなかった。


 そこに写っていたのは幼馴染だった。その頭から血を流して流血している。


「何してるの貴方!?」


「お、俺は悪くねぇぞ!てめぇが!…そ、そうだテメェがやったんだ!」


 二人は気が動転していた。そりゃそうだ。異常者を痛ぶって正義だなんだと振りかざしていたら自分が悪者になっているんだ。


 だが、二人の解決案はクソほどに腐っている物だった。


「そ、そうだこいつが殺したことにしよう。それでそれを俺たちが殺して止めた。どうだ!?」


「い、いいわね!そ、そうしましょ」


 そんなやりとりを見てた俺は非常に冷静だった。

彼女が倒れてるのを見てなんとも思わなかった。だが約束はしていた。彼女のお守りはすると。なら少しでも彼女が報われるよう。常識あるものが報われるよう行動はすべきだろう。


 そう思った俺は、近くにあった枝鋏を躊躇なく父親の首へ振った。


「!?ゴフッ」


 声を出すことなく首から血を出した父親はそのまま倒れた。


「へ?アガゥッ」


 何が起きたかわからない母親は理解もする前に俺によって父親の手から取ったゴルフクラブで撲殺された。


 右手がジンジンと鈍い痛みを走らせながら俺は親を庭へと埋めた。いつか見つかるだろうが彼らには綺麗な遺体など相応しくないのだ。


 そして俺は、幼馴染のとこへと戻るためリビングへと戻った。すると拍手をしながら一人の女の子が入ってきた。


「すごいですね!やっぱりお兄さんはそうでなくちゃ!」


「あいつはどこへ行った」


「幼馴染さんならまだ息があったので私達の方で治療してますよ」


「取引でもしたいのか?」


 なんとなく現状を理解してきた俺は結論を聞いた。


「そうですね。簡単です。私に雇われてください」


「……メリットがないな」


「あれ。意外と幼馴染さんだけじゃダメなんだ。意外ですねー」


「お前らが約束を守る保証はないからな」


「じゃあ貴方にちゃんと終わり方をあげますでどうです?」


 知っていた。俺が望むものをなぜかこいつは知っている。


「誰だお前」


「さぁ?誰でしょうね?どうです!?なりませんか!私のものに」


「……わかった」


「よしきました!じゃあ私の物達でここは処理しますね」


 するとゾロゾロと人たちが入ってきた。


「親の遺体はどうするんだ?」


「まぁ一家自殺みたいにすればいいんじゃないんですかね」


「だとしたら俺の遺体がないが」


「確かに!ちょっとそこの人こっちへ」


「は、はい!」


 そういうと一人若い男を呼んで彼女はピストルを向けた。


 ピシュッ


 おそらく消音器がついてるであろうピストルで頭を撃ち抜いた。


「これで遺体三つ完成です!」


 元気にいう彼女は異常そのものだった。


「お前充分頭のネジ飛んでるな。嫌悪感感じて正解だったよ」


「褒め言葉ですね」


「クソが」


「随分と酷い言われようですね。あ、貴方には色々捨ててもらいますよ」


「色々?」


「戸籍、名前、関係、自分」


「そして私が拾わせていただきます。全て。取り敢えず私の家の養子になりますから。よろしくお願い致します。お兄さん」


 そう言いながらニコニコしている彼女の目は以前と深淵のように深いだけであり。そこからは楽しいなんて感情は一切ないように思えた。


 だからこそ確信を得られた。


「ここまでお前の思い通りになってるだろ」


「あれ。気づいてたんですか」


「そりゃあんだけ周到に準備されてればな」


「まぁそうですよねーどうしますか?逃げます?逃しませんけど」


「あ?逃げないよ。もう俺は全て捨てたんだ。あとは好きにしてくれ」


「そうですか。ならいいです」


「ただ俺から言わせてもらうぞ。この世はそんな甘くねぇぞクソガキ」


「アハハ甘くするのが私の力ですよお兄さん?」


 こうして俺は全てを捨ててそれを彼女は全て拾い尽くした。


 この先にある未来は二人にとって最悪だとは知らないまま。



 




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彼は捨てる。彼女は拾う 床下 @yukasitano_kokorozasi

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